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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第一章

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切り札

 雪斗はジークと別れた後、自室へ戻ろうとしたのだが――クラスメイトの様子が気になり部屋の近くの見回りをした。

 その折、翠芭(すいは)と顔を合わせる。


「あ……」

「八戸さん、みんなの様子はどう?」


 問い掛けに翠芭は首をすくめ、


「まだ多くは混乱してる……中には旅行気分の子もいるけど。私達はどうすればいい?」

「基本戦う必要性はないし、当面は城の中で過ごしてくれればいいよ」

「本当に、戦う必要はないの?」


 彼女の質問に雪斗は首を縦に振り、


「確認だけど、レーネ辺りから事情は聞いた?」

「召喚された経緯くらいしか……」

「そっか。まず前と状況が異なることと、何より俺自身、前の戦いにはなかった切り札がある。それを使えば単独でも対応することができる」

『――そういえばさあ』


 突然、ディルの声がした。それはどうやら翠芭にも聞こえたようで、


「え、え……?」

「あー、黒い剣を見せただろ? あの剣には意思が宿っていて、今のはその声で名前はディル。レーネと出迎えをしたってことは俺が戦っている光景を見ていたはず……戦う前に岩に剣をガンガンたいていたのも見ていたと思うけど、それはディルを起こすための行動だったんだ。ビックリすることにディルは寝ていて――」

『雪斗、煙に巻こうとしているでしょ』


 その言葉と同時、雪斗の正面に突然黒い霧のようなものが発生する。

 翠芭が身構えた直後、その霧はあっけなく晴れ――現れたのは十二歳くらいの黒髪少女。ただ格好が異質で、彼女は紅白の巫女服を着ていた。


「へ……?」


 当然翠芭は目を丸くする。と、ここでレーネが現れ雪斗達に気付いて近寄ると、


「ディル、その格好は何だ?」

「巫女服」

「ミコ……?」

「俺達の世界に存在する、儀礼的な衣服とでも言えばいいかな」


 ディルより前に、雪斗が応じた。


「以前は黒いドレスだったのをレーネも憶えているだろうけど、元の世界に戻ってこの格好に変えたんだよ」

「ディルもあちらの世界にだいぶ染まっているようだな」

「雪斗の世界が言うところの郷に入れば郷に従え、だっけ? まあそれはともかく」


 ディルは話を無理矢理引き戻す。


「切り札って何? 私も知らないんだけど」

「切り札? ユキト、私も興味があるのだが……」

「話さなかったのはいくらか事情があって……まず事情を知っている存在が話さないでくれって言っていたのが一つ」

「その者は私達も知っているのか?」


 レーネの質問に雪斗は頷く。


「ああ、よく知ってるよ」

「誰なのか興味はあるが……その様子だと話してはくれなさそうだな。まあいい。一つということはまだ理由があるのか?」

「ああ。理由二つ目は……ディルが関係している」

「私?」


 小首を傾げるディル。愛嬌を振りまくその姿は可憐だと思う人だっているかもしれない。


「ああ……言ったら絶対怒るだろうと思って」

「は? 何それ? つまり、怒られるようなことをしていると」

「身の危険を晒すようなことはしていないけど、言えば絶対怒るのは間違いない。もし技を出しても詳しいことは語らないからな」


 どういうことなのか――ディルもレーネも相次いで瞳を投げかけるが、雪斗はそれを無視し、


「これは当人に話していいか確認しないといけないし、詳細は機会があればってことで……で、だ。明日、都を出て今回の魔物を指揮する存在を探してくる。今日王都を襲撃した魔物に指示を送る敵がどこかにいる可能性があるから」

「司令塔の役割を担う存在がいるかもしれないと」

「そうだ。あと今回の敵の中に『邪竜』と同じ気配を漂わせていた魔物がいた。おそらく邪竜が大陸を蹂躙し始めた際に力をもらったのかもしれない」


 レーネは押し黙る。そこで今度はディルが疑問を投げかけた。


「ねえ雪斗、今回の襲撃って悪役大臣様の策略なのかな?」

「精鋭が外に出ている時に襲撃したっていうのは、タイミングが良すぎるから関係がありそうな気はするけど……何が目的なのかわからないんだよな」


 グリークがやったと確実に言えることは、王都への襲撃に対し勇者となる存在を召喚したことだけ。その他、例えば魔紅玉を迷宮に戻したことなどについては、大臣がやった可能性は極めて高いと雪斗は思うが、証拠はない。

 魔物と手を組んでいるのかも不明だが、少なくとも王都の情報が漏れている可能性は高く、それがグリークの仕業という線も十二分にある。もっとも、利益がなければ動かない大臣が魔物と手を組んで何をするつもりなのか――


(……いや、やりようはあるな)


 ふと雪斗が思いついたのは、ジークの殺害。グリークや彼の配下がそうした行為に及べば、さすがに彼でも民衆から支持を失い権威は失墜する。だが魔物を利用すれば話は別だ。


(こう考えるとしっくり来るな……勇者については自分の身を守るためと、魔紅玉を手に入れるため召喚したといったところか)


 実際彼は主導権を握ろうとしていたし――もっともこの場合、魔物側にどんなメリットがあるのかわからない。そもそも勇者召喚をグリークがやったというのは、魔物側にとっては不利益極まりないはず。


(魔物は勇者召喚に対しどう思っているんだ……? 情報が少ないし、敵の思惑などについてはこれから調べないといけないな)


 頭の中で結論づけ、雪斗はレーネに口を開いた。


「レーネ、ジークに警戒するよう注意してくれ」

「それはこちらもやっている。ユキトの言いたいことはわかるからな」


 レーネも王の殺害については懸念している様子。ならばと雪斗は頷き、


「相手側の状況を知ることができるかもしれないから……明日、討伐へ行ってくる」

「一人で行くのか?」


 レーネから成された確認の問いに、雪斗はすぐさま頷く。


「ああ、派手に立ち回るし、単独の方がやりやすいからな――」



 * * *



 翌朝、翠芭が目を覚ました際、制服ではなく用意されていた衣服に袖を通した。さすがにドレスというわけではなく、装飾も無い動きやすい服装であったため、これでよしと納得する。

 そして部屋を出ると、既にクラスメイト数人が廊下に出て話をしていた――昨夜時点ではまだ混乱が抜けきらなかった一同ではあったが、今日はひとまず落ち着いている。


(とはいっても、どうなるかわからないけど……)


 雪斗が「自分だけで対処する」と言い出し、騎士レーネはそれを受けクラスメイトへは「元の世界へ戻るための準備をしている」とだけ伝えている。

 現時点では翠芭や貴臣(たかおみ)が動いているためさしたるトラブルは発生していない。だがこれが数日、一週間と経過していけばどうなるかわからない。聖剣を持つ資格のある者を召喚したと経緯については説明したが、それを理解していない者だっているだろう。場合によっては雪斗を召喚するために巻き込まれた、と誤認し糾弾する者だって出てくるかもしれない。


(そうならないよう、私は動かないといけない)


 あの戦いぶりや王からの信頼も得ている雪斗に対し、クラスメイト内でいざこざはまずい。彼を後ろから狙うなどという悲劇は、避けなければならない。

 そのために、どうすべきか――考えながら翠芭は朝食をとろうと歩き出した矢先、レーネと遭遇した。


「ああ、スイハさん」

「どうも……」


 傍らには貴臣もいて、口を開く。


「丁度良かった、八戸さん。レーネさんと少し話をしようと思って」


 話――首を傾げた翠芭に対し、貴臣は彼女に顔を近づけ、


「僕らが今のうちにやっておくことは、状況把握だと思う。そのためには……この世界のことや、前回召喚された面々がこの世界で何をしていたのかを知ることが先決だと思う」

「昨日戦いを見た二人になら、きちんと説明もできるだろう」


 レーネが続く。翠芭もそれには同意し、


「わかりました……えっと、あの――」

「ユキトならば既に出立した。夕方までには戻ると言っていた」


 やれやれといった様子のレーネ。


「こっちが心配しているのに、それを知ってか知らずか一人で突っ走る……無理もないが」

「あの、突っ走るというのは……前に召喚されたことと関係があるんですか?」

「そうだな。ああいった戦いに、君達を参加させたくない……そうユキトは思っていることだろう」


 そう述べたレーネは、翠芭達を一瞥し、


「この世界や国の成り立ち……そしてユキト達の身にどういったことが起こったか。それを聞いた後、改めてどうするか考えてもらうのもいいだろう――」


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