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傷心の果てに14
「いや、ラインのアドレスだけでもお願い出来ませんか?」とホスト亭主は縋り付くように言った。
客に店外デートを申し込まれたが、先約があるので、ホスト亭主は断腸の思いでその申し出を断った。
店先まで客を送り出し、客がホスト亭主を眩しいものを見詰めるように見上げてから、言った。
「楽しかったわ。もうお金も底を尽きて来たけれども、又旦那への謝罪練習の為に来ますね」
そう言って背中を見せた客に対してホスト亭主が言い放った。
「すいません、メアドだけでも教えてくれませんか?」
客が振り返り、首を振って流し目を送りつつ答える。
「又来ますから、その時に」
ホスト亭主が縋り付くように再度言った。
「いや、ラインのアドレスだけでもお願い出来ませんか?」
客はホスト亭主の言葉を吹っ切るように、そのまま夜のしじまに紛れ込み、早足に立ち去って行ったのを、ホスト亭主は胸騒ぎを覚えつつ見送った。




