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名前、そして認識

名前を考えるのが大変。

でも私の頭ではそんなことで悩む容量がそもそも無いということに気づいたので適当で行くことに決めました。

名前に意味とか込めてる作者さんは凄いと思う。

一通り泣いた私は正気に戻っている。

戻ってしまった...

よくよく考えてみれば何をやっていたんだろう。

いきなり相手の頭にハグして号泣しだすとか。

はたから見たらちょっとした痴女じゃないっすか自分。

冒険者視点で見ても酷い。

殺されるかもしれない相手に向って抱きついて号泣。

うん、何やってるんだろう、私は。


「何やってるんだお前は」

「それの答えを今求めている最中ですが、何か?」


ようやく起き上がってきたらしい隊長にガンを飛ばす。


「おいおい、態度悪いな」

「可愛い、可愛い部下をほっぽって勝手に気絶するような人と私は面識は無いので」

「俺も可愛い部下は知らん。いたらとっくの前に食ってる」

「まさか隊長。私の体を狙って!?不潔!」

「いらんいらん、汗臭いのは趣味じゃない」

「ちょいちょい私を臭いキャラにしようとするのやめて貰えます?」

「んで、この状況はどういうことなんだ?俺が起きるまでに帰る準備をしてくれていると思ったんだが」

「えーと、私がその、あの子を怖がっていたのがバレて謝られて、お母さんマジムカツクって感じになって、気づいたら抱きしめて泣いてました」

「その説明で俺に伝わると思ってるお前が凄いわ」


ですよねー。


「僕が悪いんだー。怖がらせちゃったからー。いつものことなのー」


私が抱きしめていた頭を少しだけ上げてこの子が隊長に変わりに答えてくれた。


「いつものこと?」

「人に見られたら怖がられて、石を投げられたりするんだー。僕が醜いのがいけないんだー」

「そうか、お母さんはなんて言ってるんだ?」

「お母さんも僕が醜いからいけないんだってー。だからいつもごめんなさいしてるのー」

「そうか...トリシェ、なんとなくお前の行動が分かった気がする」


そう言って隊長は彼の頭を撫でた。


「俺も怖がって悪かったな。今まで良く頑張ったな」


いつもは見せない優しい表情と声で優しい言葉をかけていた。


「うん?ありがとうー」

「ところでお前名前はなんて言うんだ?」


そういえば聞いてなかった。


「僕は化け物だよー」

「いや、そういうことじゃなくてだな。俺の名前はオリバー、そこの痴女がトリシェだ。お前の名前は?」

「痴女って、否定出来ないのが悲しい...」

「僕の名前は化け物だよー」

「それは名前じゃなくて、その、なんだ。お母さんにはなんて呼ばれてたんだ?」

「お母さんに?お母さんも僕のことを化け物って呼んでたよー?」

「まいったな...ここまで酷いか」


隊長が困っている。

そりゃそうだろう。

だってようするにこの子は本当に名前が無いんだ。

周りと母親にすら化け物扱いされ、そうとしか呼ばれていなかったということだろう。

なんだか凄いむかついてきた。

いや、私も化け物扱いしたけど。


「そうだな、よく聞け坊主。化け物は名前じゃなくてただの言葉だ」

「どう違うのー?」

「名前はお前だけのために誰かが考えて一生懸命つけて一生使い続けるもんだ」

「オリバーとかトリシェもー?」

「そうだ。だからとりあえずという形で俺がお前の名前を考えてもいいか?」

「うーん、いいよー」


よかった、さすが隊長。女と子供の相手だけは凄い。

お母さんのくれた呼び方じゃないと嫌だとか言われたらどうしようかと。

私も最初化け物と呼んでいたからそうでないと分かった今は罪悪感が半端ない。


「とりあえずアイズはどうだ?俺のお母さんの名前だけど、男でも使えるだろ」

「オリバーのお母さんの名前ー?」

「そうだ、いい名前だろ?」

「アイズ...アイズ...うん、分かったー!」


化け物改め、アイズの誕生である。


「隊長のお母さんの名前とか始めて聞きましたよ」

「今、初めて言ったからな」

「ふーん」

「なんだ、その態度は」

「いや、マザコンとか思ってないですよ」

「お前の良いところはその正直な所だと思っているよ」

「隊長、痛い!ベアークローは痛い!やめて!顔はやめて!私女の子!」

「どの口が言いやがる」


違うんですよ。

六年も一緒にいてまだ知らないことがあったんだなと、良く分からない気持ちになっただけで。

考えてみれば私、隊長と出会うまでのこととか知らないんだよね。

聞いてもやんわりかわされるし。

女と酒と女と仕事と女と金と女の話しかしたことないしなー。


「ねぇねぇ、トリシェー」

「うん?なんですかい?」


ようやく隊長の愛のハンドパワーから解放された。


「僕の名前アイズになったよー」

「そうだね、よろしくね。アイズ」

「えへへ、よろしくー」


なんだろう。

今、見ても顔とか体とか十分怖いんだけどさ。

ちょっとだけ、ほんのりメイビーちょいとだけ可愛いと思ってしまった自分がいた。

やべー、私の美的感覚が超やべー。

あんまりにも連続でおかしなことを経験したせいでとうとう何かが麻痺ったか。


「それでだな、アイズ」

「なーにー?オリバー!」


元気良く答えるアイズ。

なんだかんだ言って名前で呼ばれるのは嬉しいみたい。

やっぱり子供なんだよなー...

とほのぼの空気に油断していたら、隊長が突然地雷発言をアイズに向っていった。


「お母さんを埋葬してやろうか」

「うんー?」


おい、隊長!何いきなり言っちゃってんの!?

隊長が言ってた殺気とかいうやつを私なりに必死に睨んで飛ばしてみる。

でも無視される。

やっぱり殺気を感じるとか嘘じゃないかこの野郎。


「アイズのお母さんはな、死んだんだ」

「ちょっと隊長いい加減にっ」

「トリシェからも言ってやれ」

「どうしたんですか急に!そんな酷いこと」

「トリシェー、お母さん死んじゃったのー?」


私に回ってきたー!?!?

どうしろって言うのかね。

そりゃ、もう化け物とか思ってないですよ。

いやちょっとは思っています。ごめんなさい。

だって今あの子を怒らせたら私達ウサちゃん引き裂き事件と同じ状態で殺される可能性がまだあると思うんですけどー!

隊長は何がしたいんだ!


「ちょ、隊長どうにかしてくださいよ」

「いいから本当のことを言え。大丈夫だから」

「トリシェー?」


大きい瞳で相変わらず距離感を間違えた形で私に話しかけるアイズ。

大丈夫って。


「そのさ、アイズ。お母さんは天国に行っちゃったんだ」

「お母さん、やっぱり死んじゃったってことー?」


精一杯ぼかすつもりだったのが確信をつかれました。


「その、うん...」


追いつめられた私には本当のことしか言えないわけで。

大人の対応とか余裕とかそんなもの私にあるわけもなく。


「そっかー...」


とアイズが呟いたと思ったらうつむいて黙ってしまった。

やっぱり怒ったかな?

私達がデストロイされるパターンですかな?


グスッグスッ


「お母さーん...」


グスッグスッ


アイズのその大きな瞳からやたらと大きな水滴が流れていた。


「ねぇ、隊長これって」


もしかして泣いてるの?

怒ってるんじゃなくて?


「トリシェ、アイズはお前が思ってるより、頭が良い」

「え?」

「確かに考え方は子供なんだが、話してみた限り自分の姿が原因で嫌われてることや母親にも嫌われていることをきちんと理解している」

「そういえば」

「だが母親の死というものを理解していないふしがあった。最初は母親に愛されないあまり狂っているのかと思ったが違う」

「どういうことですか?」

「あの子は母親に愛されていないことを理解し、さらに死んでいることも理解しているんだ」

「そんなわけ」

「お前も気づいてるんだろう?死んでる母親をまるで生きているように言っているがあいつが言った言葉の矛盾に」

「そりゃ、そうですけど...」


それを聞いて思わず抱きしめたくなってしまったんだし。


「つまりだ。誰かに言われないとやめないんだ。誰かにとめて貰わないとやめてられなくなってるんだ。そんなの可哀想だろう?」

「隊長ってそこまで考えて行動が出来たんですか?」

「どうだ、見直したか?」

「はい、なんとか」


子供って馬鹿では無いんだよね。

私だって隊長に拾われる前に家族にどう思われてるか分かりきってたし。


どうするべきなんだろう。どうしてあげるのが一番いいのだろう。

アイズの泣き方に違和感を覚えた。

声を出さないで泣いている。

涙はあんなに出ているのに。

ああ、そうか。


「私も昔あんな風に泣いてました」

「そうだな...拾った当時はあんな風に何かを我慢して泣いてるようだった」

「理不尽だと思う度に泣いて。でも誰も助けてくれなくて。大声で泣くと怒られて」


本当に昔の自分を見てるみたいで。

でも必死に怒られないように、恐らく私達にも嫌われないように。

必死に声を抑えて。


私は今度こそアイズの頭ではなく、首の周りに手を回し軽く抱きしめた。

泣いて縮まるように丸まったその子を。

今度はわけもわからずではなく。

心の底からこの子に少しでも幸せを感じて欲しいと願って。

アイズは少し体を震わせたけど、何も言わずに素直に私に抱きしめられていた。

そして声にならない声がどんどん大きくなり、号泣に変わる。


そんな私達を見てた隊長がまたもや爆弾発言をする。


「アイズ、俺らと一緒に来るか?」

やっともうすぐあらすじと同じ展開になりそう。

意外と長かった。

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