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第8話 bloody room

"背後から襲え"

 その念を受信した複数の人々は、ごくりとつばを飲み込んだ。

"合図があるまで待機せよ"


 保健室は、入って右側にベッドが二つ置かれていて、右後ろ隅に先生の机があり、左には身体測定用の器具が置かれている。2つのベッドはいずれも薄い水色のカーテンで仕切りがされており、ドア側のベッドに治は寝かされていた。

 血みどろの、その血を、ベッドまでしみこませて。

「ヒーリング」

 治の体中の、傷口は次々と立ち直ってゆく。しかしすでに出た血は、治癒の魔法では当然消えるものではなく、目で見ただけでは治ったかは分からない。が、保健の先生が大丈夫な顔をするなら、大丈夫なのだろう、恐らく。

「さあ……、このまま安静にさせて」

「はい。」

 羽生はうなずく。

「治君……」

 檸檬は心配そうに、血まみれの治を眺める。

「さあ、授業が始まるわよ。」

 羽生はそう言い、檸檬に促す。

「そうね」

 檸檬もうなずき、そして綾崎先生に礼をする。

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

 綾崎先生はにっこりとそう答える。

「さあ、早く教室に戻りなさい。授業が始まるわよ」

「はい」

「はい。」

 羽生と檸檬は同時に言い、保健室を出る。

「ふぅ…、魔法使いって、この学校にもいたのね」

 綾崎先生はそうつぶやき、保健室の隅の机の椅子に座る。雑用があるのだ。

"行け"

 治のベッドの下の男の合図により、向かいのベッドの下に隠れていた男が一人、掃除道具箱の中に隠れていた男が一人、そして治のベッドの下に隠れていた男が一人。三人の男が出、綾崎先生を取り囲む。

「うん?」

 綾崎先生は、椅子から静かに立ち上がる。

「な……何なの、あなたたち」

 綾崎先生は、命の危険を感じていた。その時、ドアのノックがする。

「失礼します」

 校長先生が、保健室に入ってきた。何でこんな時に。逃げて、と綾崎先生は叫ぶが、三人の男は―――・・。


 羽生と檸檬が教室に戻ると、生徒達は床の血をふき取り終えたと見え、それぞれの席に座っていた。教壇を見ると、富岡先生が立っていた。

「遅刻ですね」

 富岡先生がそう言うと、羽生はべこりと頭を下げる。

「申し訳ありません。」

「まぁ、しょうがないじゃないか。とりあえず、座って」

 富岡先生にそう言われ、羽生と檸檬は自分の席に座る。

「それでは、これから朝のHRを始めます。の前に、転校生、立ちなさい」

 富岡先生がそう言うと、教室の一番後ろの席のハルスが立ち上がる。

「こっちに来なさい」

「はい」

 ハルスは堂々と、教室の前まで来るとみんなを向く。

「ハルスです。よろしくお願いします」

 べこりと頭を下げる。同時に、富岡先生は白いチョークで黒板に字を書く。

"零時 ハルス"

「と、まぁ、私も聞いた事はないのだが、一応事情のある隠し子だったそうだ……、戻りなさい」

「はい」

 ハルスはそう言い、自分の席へ戻る。生徒達は、そのハルスを注目していた。


「なんか、今日の転校生、髪の色が変だよね」

 富岡先生が1時間目の準備をしに職員室へ戻っている頃、窓際の席の伊口いぐちが隣の席の朝風あさゆうに話しかけていた。

「そうね」

 朝風もうなずく。

「どう?僕たち、新聞部だし、調べてみちゃう?」

 伊口がそう提案すると、朝風も面白そうにうなずく。

「面白そうね」

 朝風も立ち上がる。


「うん……?」

 治は、ばちりと目が覚め、上半身を起こす。ベッド。保健室のベッド。そして、自分の体は、服は血まみれ。

「まぁ……」

 ハルスにいろいろされたから当然か、でも体中はびんびんして元気だ。ふいっと時計を見る。あれから時間はほとんど経っていない。もしかして、誰かが魔法をかけてくれたのかな。そうでないと、ね。

 治は今度は視線を下ろし、自分の足の上の布団を見る、白い、と、思いきや、赤い、真っ赤である、自分の血、そんなに、たくさん出たのかな、ん?

 自分の、視界の左端に、手が、一つ、ベッドに、乗っているのに、気付いた、その手は、赤い。

「なっ!?」

 まさか、と、治は、思い、ベッドの上で、立ち上がる、ベッドの下で、白衣を、真っ赤にして、うつぶせに、なっている、綾崎先生がいた。

「先生!?先生!!」

 治は、ベッドから飛び降り、しゃかみ、綾崎先生の背中を揺さぶる。しかし反応は全くない。

「先生ーーー!!」

「そこで、何をしている?」

 治の横に、一人の男が立っていた。

「あ、あなたは?」

 治はその男を見あげる。

「お前が……、殺したのか?」

「いえ、僕は……」

 治は、なるべく冷静に答えようと思った。

「来なさい」

 治の大量の冷や汗を見て、男は怒鳴る。

「現に、あっちで校長先生もお前に殺されているんだ」

「はい?」

 治は目を点にする。

「警察に突き出さないわけには行かないな」

「い、いえ、僕が殺したんじゃないんです!」

 しかし治の怒鳴りを無視して、男はポケットから携帯電話を取り出す。

「もしもし、警察ですか」

「だから、違うんです!信じてください!」

 治は何度も怒鳴るが、男はその治の顔を一蹴りする。

「うろたえるな!ここは戦場だ!」

「なに訳のわからない事をいっているんですか!」

 治は怒り心頭で立ち上がる。

「とりあえず、ここを動くな」

「そもそも、あなたは誰なんですか!」

 確かにその小太りの男は、治が今までに一度も会ったことのない人。まだ春と言うに、真っ白の半そでのシャツを着ている。うすいグレーの半パンもはいている。

「俺か?俺は……」

 その男は、にやりとして言った。

「俺は山崎だ」

「山崎…さんですか」

 治は、驚いた顔をする。

「はじめまして」

 山崎は急に、にこっとした顔になる。

「あっ、は、はい、はじめまして……」

 治も急に、かしこまった顔になる。

「それじゃ、連絡ね」

 山崎は、持っていた携帯電話を耳に当てる。

「結局するんですか!」

 治は山崎に絡みつく。

「うろたえるな!ここは戦場だ!」

 山崎はいきなり、先ほどよりも大きな声で怒鳴る。


「算数、難しかったね」

 2時間目が終わったあとの休み時間、檸檬はそう言いつつ、机に左のひじを置き、右手でばらばらと算数の教科書をめくっていた。そんな檸檬の机の前に、羽生の机があって、羽生も椅子に座ったまま、後ろの檸檬の方を向いていた。

「そう?あたしにとっては、簡単だけと。」

 羽生は、当然というように首をかしげる。

「ねぇ……」

 檸檬は、羽生を見あげるように言う。

「何。」

 羽生が返すと、檸檬は尋ねる。

「どうすれば、かおちゃんのように、なんでもかんでもできるようになるの?」

「そう?あたしはそんなにできないと思うけと。」

「何ができないの?」

 檸檬は、目前の優等生にも欠点があるんだ、と思うとおかしくでたまらなかったのだが、ぐっとこらえてまじめな顔をする。

「そうね……、逆上がりができないの。」

「どうせならヒナ●クみたいに、高所恐怖症とかしないの?」

 檸檬がそこまで言うと、羽生は立ち上がる。

「大丈夫よ。あたしは。」

「そ、そう……」

 羽生はしばらくの間、ひたいを手で押さえ込んで、うつむいていた。その顔が深刻だったので、檸檬は思わず算数の教科書をめくる手を止める。

「あっ。」

 羽生の視界に、教室の一番後ろの席のハルスが入る。

「ハルちゃん。」

「かおちゃん」

 ハルスは立ち上がる。

「かおちゃん、久しぶりね」

「この前のテレパシーで、ざんざん話しこんだでしょう。」

 羽生はにっこりとする。ハルスは、二人の方へ行く。

「それで、例の作戦はどうなの」

 檸檬がハルスに尋ねる。

「順調よ」

「でも、魔法陣を張っていない家は、"敵"に見つかりやすいのでは?」

 羽生が指摘する。

「あっ、それもそうね……」

 ハルスが答える。羽生は続ける。

「魔法陣を作るには、長時間にわたる面倒な儀式が必要だけと、どうする?」

「もぉ、それだから最初から私の家に来ればよかったのに」

 檸檬が割り込む。ハルスはうつむいてしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げると言った。

「そろそろ、居場所を変えないとね」

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