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第7話 new encounter

「どうしたの?」

 驚く岡田檸檬をよそに、体中を真っ赤にしてふらふらと、治は教室に入ってきた。

「どうした!?」

 前田も駆けつけるが、治は一言もしゃべれない。

「禁則事項を破ったのよ」

 治に続いて教室に入ってきたハルスが、平然と言う。

「誰だよ、お前」

 前田がハルスに尋ねる。

「ハルスよ」

 ハルスはつんと言う。

「ちょっと!ハルちゃん!治君に何をしたの!」

 檸檬がハルスの肩をつかんで、体を揺さぶる。

「禁則事項を破ったから、罰を与えたの。問題でも?」

「大ありよ!」

 檸檬はそう怒鳴り、ハルスを突き飛ばし、今度はしゃかみ、地面に倒れた治に話しかける。

「大丈夫、治君?」

 しかし治はうつぶせのまま答えない。

「治君!」

「ハルスとかいったな?お前、何をした?」

 前田がハルスに迫ると、ハルスはつんと返す。

しもべとして、禁則事項を破ったの。それだけ」

「はぁ!?隸?」

「そうよ」

 ハルスはそう返し、うつぶせの治の背中に足を乗せる。

「ちょっと、やめて!」

 檸檬が叫ぶと同時に、羽生がしゃかんでいる檸檬の背後に立つ。

「ハルちゃん。」

「久しぶり」

 ハルスはそれだけ答え、さらに治の背中を強く踏んづける。

「知り合いか?」

 前田が羽生に尋ねる。羽生は黙ってうなずく。

「治を保健室へ連れて行くぞ!」

 前田が叫ぶと、羽生が怒鳴る。

「保健室ってレベルじゃないでしょ!」

「でもさあ、とりあえず、だし、まだ先生も来てないし、へんてこ女も来てるし、保健室だろ」

「へんてこ女?」

 ハルスが前田の方へ歩み寄る。

「や…やめろ」

 うつぶせの治がかすれ声で言う。

「治君はしゃべらないで!」

 檸檬はそう言うと立ち上がり、羽生に言う。

「私が運んで行きます」

「あたしも、運んで行く。」

 羽生はそう言って、それからハルスに怒鳴る。

「いい加減傲慢な態度はやめなさいよね!」

「傲慢?どういう意味なのよ!」

 むぎーっと、羽生に歯をむくハルスを、前田は腕で固定する。

「ちょっと、何よ!離しなさいよ!」

「それじゃ、お願いね。前田君。」

 羽生はそう前田に言い、うつぶせになっている治の上半身の下に手を入れる。それを見た檸檬も、下半身に手を入れて持ち上げる。

「いってくるわ。」

 羽生はそう言い、檸檬と共に、是が開けてくれた教室のドアから教室を出る。すれ違った是は、呆然と、真っ赤になっている治を見ていた。

「ど…どうしたんですか……」

 是はドアをゆっくり閉めると、前田に尋ねる。

「何でもねえよ。お前は知らなくでもいい」

「そ…そうですか、ごめんなさい」

 是は気弱くそう言い、自分の席へ行く。

「ぎぎぎぎぎっ、離しなさい!!」

 一方のハルスが前田の腕をつかんで、噛む。

「痛っ!」

 前田が思わず腕を離すと、ハルスは一目散に教室のドアを蹴る。

「うん?」

 ドアを蹴ろうとしたほぼ同時に、ドアが開き、夜久の顔に靴の裏が命中していた。

「んむ」

 夜久はぴたりと動じないが、ハルスはその夜久の体を押しのけ、教室を出る。

「おはよう、夜久」

 前田はそう言い、悔しそうに足を踏む。

 ずるっ。

 前田は地面に滑って転ぶ。

「あっ……」

 夜久はびっくりして、転んだ前田の体の周りを見る。

「血……!」

 前田は辺りを見回した。周りには、血が広がっていた。治の血。

「起こる……!これから…、何かが起こる……!」

 夜久は、いとも恐ろしそうにそう言う。

「はいはい、もう起こりましたから。福本●行みたく言わなくでもいいから」

「何が?」

 夜久は、ポケットから大量のおふだを取り出す。

「いや、そのレベルじゃないから!」

 前田は立ち上がろうとすると、再度滑った。それを見て、ぶっと笑った少年が、一人。謎十なぞであった。

「謎十!笑うな!」

 前田が怒鳴るが、謎十は何も言わずにドアを閉めて教室に入る。


 治の家で、治の母はのんびりとお菓子を食べながら、テレビのリモコンのボタンを押す。

「あれ、つかない」

 何度も押そうとするが、テレビはつかない。いや、そもそもテレビの存在自体がないのである。

「どうしよう……」

 母はおろおろと、テレビの横の電話で、例によって適当な番号を押して電話をかける。

「はい、もしもし、こちら一ノ谷小学校です」

 電話に出たのは、一ノ谷小学校の先生であった。

「あ、すみません、零時の母です。突然ですが、あなたはテレビが好きですか?」

「はぁ?」

 先生は職員室で、真っ白になっていた。

「どうしたんですか?」

 別の先生が尋ねるが、先生は首を横にふって、それから電話に言う。

「すみません、何が言いたいのでしょうか?」

「はい、つまり、あなたはテレビのリモコンですか、ってことです」

「おっしゃっている意味が分かりません」

「すみませんが、私の家のテレビが壊れているのですが、直していただけませんか?」

「無理です」

「何でですか?テレビのリモコンなら、テレビを直せるはずです!」

「おっしゃっている意味が分かりません」

「てれ…」

 その母の返事が続かないうちに、先生は電話を切った。

「一体どなたからの電話でしょうか?」

 別の先生が尋ねると、先生は答えに迷う。

「えー……、保護者からの電話です」

「内容は?」

「ええと……、あまりにも理不尽なので、お答えできません……」

「教えてくださいよ」

「答えられないものは答えられないんです」

 そう言った先生は、職員室を飛び出す。

「あ、ちょっと」

 別の先生は、その先生を追う。


 保健室に、ノックの音。

「どうそ」

 保健の先生、綾崎よし子がそう言うと、「失礼します」と言って、治を抱いた羽生が保健室に入ってくる。その治の姿を見て、綾崎先生は真っ青になる。

「保健室で、なんとかできないでしょうか?」

 羽生が尋ねるが、綾崎先生は動揺していた。

「そ…それは、保健室ってレベルじゃない!」

「そうですか?」

「と、とにかく119番してくるね」

「そうですか?保健の先生、治せないんですか?今すぐ。」

 羽生のそれを聞き、綾崎先生の目が変わった。綾崎先生は、保健室の隅の机から静かに立ち上がる。

「知っているのね……、あれを」

「はい。」

 羽生はそう言い、気を失った治の容態を、保健室のベッドまで持っていって下ろす。

「ちなみに、属性は」

 綾崎先生はそのベッドまで行くと、静かに羽生に尋ねる。と、保健室にもう一人の少女が入っているのに気付く。綾崎先生ははっとする。

「いえ……、何の話でもありませんわ」

「いえ…、私も知っていますわ」

 檸檬はそう答え、保健室のドアを閉める。

「まったく……、なんでこんな時代になってしまったんだろう……、あれの事は誰にも言ってはいけない……」

 檸檬がぼやく。

「しょうがないわよ、マスコミさえいなければ。」

 羽生もそう言い、そして綾崎先生に言う。

「あたしの属性は、水、木です。」

「あら、お利口さん、きちんと自分の属性を言えるのね」

 綾崎先生はそう言い、そして杖を取り出し、治に向ける。


 保健室の、治のベッドの下に、一人の男は隠れていた。

「…………」

 その男は、黙って、横の6本の足を見つめていた。手には、杖を握っている。男の目の前にある小さな魔法陣に手をかざし、念ずる。テレパシーである。

"背後から襲え"

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