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第6話 arrival school

 やたらその状況を回避したい、その回避の仕方が問題なのです。

  ・安倍さんの辞め方

  ・NHK

  ・中国五輪前

  ・あで始まる例のおばさま

 今回は、そんな問題大ありの回避の仕方を実行してしまった少女の話です。


「ああ…」

 ハルスは、呆然としていた。

 辺りは、スーツを着たおじさん達がびっしり。朝ということもあり、さらにびっしり。高いビル。青空なんで、上を見ないと見えない。前には、なんか「J● 姫娚駅」と書かれた駅が見える。

 どうしよう。いや、違う。違う。絶対違う。これは迷子なんかじゃない。大丈夫。ハルスは自分にそう言い聞かせる。

「どうしたの、もしかして迷子?」

 後ろからいきなり女の声がし、ハルスはビクッと振り返る。年配の女の人は、にっこりとハルスに微笑んでいた。

「ち…違います、わたし、迷子なんか」

「そう思うのが、典型的な迷子なのよ」

「そんな…違います」

「ふふ、典型的ね」

 年配の女は吹きだす。ハルスはむっとする。

「ごめん、ごめん」

 年配の女は笑いながら謝る。

「とりあえず、おまわりさんに行こうね」

「嫌です」

 ハルスは年配の女の股間をけり上げ、だっと駆け出す。

「あ、ちょっ…」

 年配の女の人はよろりと立ち上がる。

「どうした!」

 後ろから男の怒鳴り声。

「あら、あなた」

 年配の女は後ろを振り向く。年配の男が立っていた。

「公子、大丈夫か!」

「大丈夫ですわ、このくらい」

「誰にけられた!」

「まあ、まあ……」

 男はいきり立っていた。

「大丈夫だから、ね」

「ならん!警察に被害届けを!」

「それはあまりに大げさでは…それより、学校に遅れるではありませんか」

「むう…届けるのが先だ!」

「まあまあ……」

 女は何やら、呆れた表情をしていた。


「まったく、これだからあなたは!」

 6年2組の教室に入った後も、羽生は前田に頭ごなしに怒鳴っていた。前田はすっと目をつぶっていた。

「なあ、そろそろいい加減にしないか」

 教室にいた池田が、教室の入り口で前田の耳に喝を送っていた羽生の耳を引っ張る。

「痛い!童女に何をするのよ!」

 羽生が怒鳴るが、池田はそれを無視して前田を教室の中へ引っ張る。

「ねえ、ねえったら!」

「うるさい」

 池田は、羽生をにらみ付ける。

「ひぃ…………。」

 羽生はそのにらみ顔に怖さを感じたのか、退る。

「やれやれ…、羽生はいつもうるさいからいけないな」

「だからといって、何よ。」

 羽生が抗議するが、池田はさらににらむ。

「うるさい」

 教室の隅の机に座って窓の外をぼんやりと眺めていた長谷川が、いつの間にか羽生達を見つめていた。

「あ……、うん」

 羽生はうなずく。

「やれやれ……」

 治はほっとため息をつく。


 商店街のみゆ●通りを、ハルスはとぼとぼと歩いていた。

「どうしよう……」

 うつむいていた。周りには、通勤途中の学生たち、おじさんたちが歩いていた。

「……ん?」

 うつむいていたハルスは、地面に落ちている木の短い棒に気付いた。ハルスはそれを拾い上げ、じっとみつめる。なり、その棒を真上に向ける。

「テレポート」

 ハルスの足を中心とした、半径30センチの円形の、金色の魔法陣が出現し、ハルスの周りは白い光に包まれる。周りの人たちは、眼を丸くしてその地点を囲んで見ていた。

 やがて消えた白い光の中に、いたはずの少女がいない。そこらじゅうは、騒ぎになった。


 教壇の周りで、治と前田の二人は、談笑していた。

「まったく、あきないわね、あの二人も。」

 教室の隅の机に座っている長谷川の横で羽生は語りかける。しかし長谷川は全く返事もせず、こくりとうなずいただけであった。

「おはよう」

 教室に、一人の少女、岡田檸檬が入る。

「あ、岡田、おはよう」

 教壇で前田と話していた治は、にっこりと横を向く。

「おはよう」

 岡田もにっこりとそう答え、自分の席へ歩いて行く。

「いいなあ、治。あんなかわいい女の子と幼なじみで」

「だからさ、違うんだよ」

 治は恥ずかしそうに、顔を赤らめる。

 その時。

「あ……」

 窓の外をぼんやり眺めていた長谷川が、ぼそりと声を出す。

「どうしたの?」

 羽生はそう言い、窓の外を見る。

「あっ……。」

 校庭の中央で、たくさんの人だかりの輪が出来ていた。その輪の中央にいるのは、桃のような髪を背中まで伸ばしている、子供であった。

「あの人はもしや……。」

 羽生はそう言い、かけだして教室を出る。

「あ…おい!」

 羽生の異常さに気づいた前田が声をかける。治はとっさに校庭の外を見る。

「あっ……、ハルス!?」

「えっ、ハルス?」

 廊下側の席の岡田も窓へ駆け込む。

「あ……、本当だ、ハルちゃん」

「えっ?」

 治は、左の岡田を見る。

「もしかして、ハルスを知ってるの?」

 岡田はこっくりとうなずく。

「なつかしい……」

「……何でだ」

 治はそう言い、くるりと向きを回転して教室を飛び出す。

「えっ?あ、待ってよ!」

 岡田も、治の後を追って教室を飛び出す。

「まったく、めんとくせーな」

 前田はどさっと自分の席に座ると、ちらりと斜め後ろを見る。長谷川が、窓の外を今もなおぼんやりと眺めていた。


「ハルス!」

 人だかりを掻き分け、治は人だかりの前面まで来る。

「あっ、治」

 ハルスはそう言い、治の方へかけよると、ぎゅっと治を抱き締める。

「な……」

 治は顔を真っ赤にする。

「何すんだよ、人の前で」

「だって」

 ハルスはさらに、強く。抱き締める。周りの生徒達は、白い目でそんな二人を見ていた。

「うっ……」

 治は、事の気まずさに気付いていた。

「なあ、ハルス、離せよ!」

「だって、みんな、わたしに変な質問ばっかりするもん」

「変な質問って、どんなだよ」

「どうやってここに来たんだよ、って」

「えっ?」

 治は眼を丸くする。

「当たり前よね、方法なんで誰でも知ってるのに」

「ま、まさか……」

 治の額は、汗ばんでいた。治はばっとハルスを引き離すと、ハルスの手をぎゅっと引っ張り人だかりを掻き分け、校舎に入り、土足のまま一階のトイレへ駆け込んで、個室に入って鍵をかける。

「なあ、ハルス!もしかして魔法を使ったのか!」

 治が怒鳴ると、ハルスはむっとした顔をする。

「なんなのよ。魔法を使っちゃいけないの?」

「ああ!この世界には魔法がないから、少しでも不思議なことが起こったら大騒ぎだよ!」

「それじゃ、不思議じゃない魔法って、何なの」

「魔法は全部、不思議だよ!」

 治は、はあっとため息をつく。

「魔法なんでたくさんの人の前で使ったら最後、最悪の場合一生普通の生活ができなくなるんだぞ!」

「えっ?」

 ハルスは、驚いた顔をする。治は再度、ため息をつく。

「お前、そんな事も分からないのか」

 お前、と聞いて、ハルスははっと我に返る。

「い、今、わたしのことをお前って……」

 ハルスの顔は、にっこりとしていた。

「あ……」

 治の、先ほどの羽生との口論での強気は、吹っ飛んだ。

「ご主人様って、呼んでくれるんじゃなかったのかな?」

 治は顔を真っ青にする。

「でも、ちょうど杖を家に忘れちゃって」

 治はほっとする。

「でも、ちょうど代用品を見つけたから」

 えっ?

 ハルスはにこにこして、地面から拾った棒をポケットから取り出してみせる。その笑顔は、異様にかわいかった。


 悲鳴。

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