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第2話 mother continued

「できましたよ」

 治ははあっとため息をつき、台所のカウンターに、皿に載せた玉子焼きを置く。

「何それ」

 部屋の中央のテーブルの、ソファーの手前に正座しているハルスは、その玉子焼きをにらむ。治は台所を出て、カウンターに乗せたその皿をテーブルの、ハルスの前に置く。

 ハルスはまじまじと、玉子焼きを見つめる。治が自分の斜め右に正座しているのに気付くと、ハルスは怒鳴るように言う。

「あっち行って」

「は、はぁ…」

 治はおずおずと立ち上がり、ささっとドアの前へ行く。

「で?これは手でつかんで食べるの?」

 ハルスに尋ねられ、治は箸を出し忘れていたのに気付き、慌てて台所に戻って引き出しから箸を二本取り、テーブルに戻ってそっと箸をハルスの手前に置く。治が腕を引っ込めると、ハルスは不思議そうな顔をしてその二本の棒をまじまじと見つめる。木の棒。ペンくらいの長さ、先がとがっている。これは杖ではないのか。魔法を使う時の杖ではないのか。

 ハルスはその箸をつかんで治に投げる。ばしーんと治の顔に当たって床に落ちる。

「な…何をするんですか!」

「この黄色いのは、杖で食べるの?」

「違います!これは箸といいまして…」

「はし?」

「食べる時に使います」

「へぇ、要するに杖を箸と言ってご飯を食べているの?」

「違います。それより杖って普通おじいさんの使う…」

 ハルスが杖を取り出し自分に向けているのに気付き、治は慌てて口を閉じる。

「もう遅い。えくす…」

 ハルスは呪文を唱え始める。治はぐっと目をつぶる。

「たたいまー!!」

 いきなりドアが開き、ハルスは詠唱を中断する。治も目を開け、ドアを見る。

「か…母さん、おかえり!」

 緑色の長そでシャツを着ている母は、ドアを閉め、明るく言う。

「たたいまー!!…ん?」

 母は、テーブルの前に一人の、ピンクの髪を背中の半分以上まで伸ばしていて、白いカッターシャツ、茶色のスカートをしている桃のように美しい目を持った少女が正座してこちらを見ているのに気付く。

「あ……」

 治は困った。天然ボケの母が、いきなり居間に見知らぬ女の子がいたらどうするか、心配になった。母さんの出方次第では、最悪の場合……。治はぞっとして母に何かいいかけたが、それと同時に母が治の方を向き、明るく言う。

「治も成長したねぇ」

 それを聞き、治は顔を真っ赤にする。

「違う!!いや、だから、これは……」

 治が慌てて腕をブンブン動かしたので、母はいたずらっぽい顔をする。

「付き合っている女の子をこっそり家に入れるなんでね〜」

「だから違う!!」

 しかし母はそれを無視して腕時計を見る。

「あーらやた、もうこんな時間!?ドラマが終わっちゃう」

 母は急いで、すでに爆発して粉々になったテレビの右の本棚の上のリモコンをつかみ取ると、テレビの残がいに向けてボタンを押す。

「あれ、つかない」

 母はあせった顔をし、何度もボタンを押している。

「だから、母ちゃん…」

 治が呆れた顔で母に言うが、母は聞く耳も持たず、今度は電話の受話器を手に取り、番号のボタンを押す。修理会社にでも電話するのだろうか。母ちゃんやめろよ、と言いかけた時。

「誰、その人」

 横からハルスの声がした。

「俺の母ちゃん、です」

 治は恥ずかしそうに言う。

「はいもしもし、そちらはA○Cテレビでしょうか、恐れ入りますが今の放送音声を流してください」

 母の電話の声を聞き、治は慌てて母の方へ走る。まさか修理会社ではなくテレビ局にかけるとは、治も予期していなかった。

「はぁ?失礼ですが、番号違いでは?」

 電話の声を聞き、治はばしーんと地面にこける。

「すみません、本当にすみません」

 母は何度も頭を下げて電話を切ると、はあっとため息をつく。

「やれやれ、テレビ局探しも楽じゃないねえ」

 治は立ち上がり、母に怒鳴る。

「だからって、適当な番号に片っ端からかけるなよ!」

「電話番号が分からないからしょうがないでしょ」

 母の無責任な反論に、治はどう反せばいいのか分からなくなった。

「あんたの母なのね」

 後ろからハルスの声がした。治が後ろを向かずにうなずくと、ハルスはぼそりと言う。

「……しもべの母も隸」

 それを聞き、治は顔を真っ青にする。後ろを向いて怒鳴る。

「それだけは勘弁しろよ!」

「敬語」

 ハルスはその単語と同時に、手をわきに入れる。どうしよう。これに母も巻き込んだらさらにややこしくなってしまう。治はそう判断し、ハルスに言う。

「は…話の続きは別のところでしませんか?」

 あせるような治のその口調に、ハルスは冷静に返す。

「どこで?」

「俺の部屋」


 治の部屋は2階の廊下の奥のつき当たりにある。ドアを開けて左右に、天井まで届くほどの本棚、向かいに机と窓がある。右に押し入れ、左にペットがある。

 治は、空っぽの机の上にランドセルを置くと、机の椅子に座る。それを見て、部屋に入りドアを閉めたハルスが、治を強い視線でにらむ。

「な…何ですか」

 治が機械的な敬語で答えると、ハルスは怒鳴る。

「これが、隸のご主人様に対する態度だと思ってるの?まず、ドアを閉めるのは隸!椅子に座るのはご主人様!隸は床に座るの!」

「ですからさ」

 治はため息をつく。

「これは俺の机ですよ?椅子ですよ?」

 こればかりは所有権を主張する権利がある。治は自信満々にそう言った。

「何言ってるの」

 ハルスはあっさりと一蹴し、治の方へ歩み寄る。

「隸のものは私のもの。私のものは私のもの」

「めちゃくちゃじゃないか!」

 治が怒鳴ると、ハルスは椅子に座っている治の足をける。

「痛っ!!何すん…するんですか!」

「あら?その椅子はご主人様が座るのよ?どいて?」

 ハルスは平然とそう放つ。

「さもないと……」

 ハルスがわきに手を伸ばすと治はひるみ、びょんと兎のように立ち上がる。

「ちょっと」

 真っ青になっている治に、ハルスは空っぽの椅子を指さして言う。

「隸のおしりの汚らわしい汚れを、ふいていただけないかしら?」

 それを聞いて、流石の治も限界まできた。真っ青なその顔は、一気に真っ赤に変わる。体もわなわなと震えだす。

「な…な…何ですと!!」

 治は我慢できなくなった。ある程度の怖さは感じたのだが、一度スカッとしてみたくなった。治は、ハルスの体に飛びかかる。が、ハルスは冷静にさっと杖を取り出すと、治に向ける。

「ガスト」

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