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第10話 as dv as

「なぜハルスが学校にいる?」

 治は驚いていた。

「普通、集団下校でもしているはずだろ」

「何があったか聞きたいのはこっちよ」

 ハルスはそう言い、後ろから来た檸檬を見る。

「出て」

 檸檬が言うと治はうなずき、ラインをくぐってラインの外に出る。

「で、何で治君が重要参考人になってるの」

 檸檬が尋ねる。

「俺、犯人に間違われて」

「そうなの」

 檸檬はそう言い、ちらりとハルスを見る。

「治」

 ハルスは治に、そう言った。

「何だよ」

 いきなりハルスに名前を言われ、治はどきりとする。

「そのまま捕まっていればよかったのに」

 ハルスは平然とそう言い、ぶいと、すたすたと、歩いていく。

「え…あ…」

 治と檸檬はしばらくあっけに取られて立っていたが、やがて治が怒鳴る。

「おい!ハルス、待てよ!」

「そうよ、そんな言い方ないじゃない!」

 檸檬も共鳴する。

「やた」

 ハルスは、後ろも振り返らずに、すたすたと、2階への階段を上る。

「待てよ!」

 治が走り出すと、

「待ってよ!」

 檸檬も、後をついて行く。

「待ってください」

 後ろから警官の声がし、治はびっくりして立ち止まり、振り返る。

「何ですか」

 治がいきなり止まったので、走っていた檸檬はどんと治にぶつかる。はずみで治は後ろに倒れる。

「あっ……」

 檸檬が治を押し倒した形になる。

「な…何で、いきなり止まるのよ」

 檸檬が恥ずかしそうにそう言う。

「だって、ねぇ……」

 治も恥ずかしそうに、そう答える。

「すみませんが、」

 そんな二人の近くから、警官は声をかける。二人は顔を真っ赤にして、立ち上がる。

「零時治君?君が?」

「はい、そうですけと」

 治がうなずくと、警官はさらに言った。

「申し訳ないけど、治君とさっきまで話していた警官がいなくでねえ……心当たりある?」

「ありません」

 治がそう言うと、警官は「そうですか」とだけ答え、再び黄色いラインをまだいて中に入って行く。

「なんなのよ、一体」

 檸檬は恥ずかしそうにそう言う。耳までがピンク色であった。

「い…行くぞ」

 治はその恥ずかしさを振り払うように、階段の方へ駆けて行く。

「待ってよ」

 檸檬も治の後を追う。


「ねえ、さすがにあの言い方はないじゃないの!」

 教室に戻って檸檬は、真っ先にハルスのいるほうへ怒鳴る。ハルスは自分の席に座っていた。ハルスはつんとした顔をしていた。教室の、前から2番目の、廊下側の席に座っている、細田被告ほそだひこくが、黙って教壇を指差す。見ると、富岡先生がそこに立っていた。

「遅刻ですね」

 富岡先生にそう言われた。威厳のある声だった。治と檸檬は下をうつむく。

「はい、すみません……」

「それでは、席に座りなさい」

 富岡先生がそう言うと、二人は黙って席に座る。


「いたか」

 一人の、灰色のスーツの男が、暗闇で、一人の男に聞いた。

「いえ、まだ確認できません」

 ここには、モニターがたくさん輪になって置いてある。10段程度積まれている。15人程度の男が椅子に座り、それぞれのモニターに目を光らせている。灰色のスーツの男は、その輪の真ん中の椅子に座って、マガ●ンを手に持っていた。

「またか……」

 灰色のスーツの男は、部下の報告を聞くと再びマガ●ンを読み始める。

「師匠と弟子の漫画が同じ雑誌に載っていないとは皮肉だな」

 などとつぶやきながら。

 モニターには、たくさんの風景が映っていた。


「それでは、これで帰りの会を終わります」

 富岡先生が教壇に立ってそう言う。

「起立。礼。」

6年2組の生徒達は立ち上がり、教壇に向かって一同礼をする。

「着席。」

 6年2組学級委員長の羽生がそう言うと、生徒達は一斉に座る。

「それでは、さようなら」

 富岡先生が言うと、生徒達は次々に立ち上がり、机の上のランドセルを持って教室を飛び出す。その様子を、富岡先生は愛らしく見つめていた。

「ねえ、治君」

 廊下で、檸檬は歩きながら治に声をかける。

「何?」

 治が答えると、檸檬は続ける。

「今日のハルちゃん、冷たかったでしょ」

「最初からだけと」

 治が言うと、檸檬はさらに尋ねる。

「最初からって、どういうこと?」

 そう言っている間に、玄関につく。靴を履きかえるのが面倒くさいとみえて、二人は、靴を履き替えている生徒達を遠巻きに見ながら、玄関の隅に移動した。

「もう一度聞くけと、最初からってどういうことなの?」

「最初に会った時から、しもべ呼ばわりされて」

「それで」

「いろいろ物を投げられたり暴言を言われたり殴られたり……」

「それは刑事訴訟に値しますな」

 二人に、細田が割り込む。

「細田?」

 治は迷惑そうに、細田の顔をまじまじ見る。

「刑法第204条、人の身体を傷害した者は、10年以下の懲役または30万円以下の罰金若しくは科料に処する(2003年当時)」

 べらべらとしゃべる細田に対し、檸檬は一言。

「悪趣味」

「えっ?」

 細田がいらっとした顔をして、檸檬をにらむ。檸檬は容赦なく続ける。

「だって、女の子なのにそんなものばっかり覚えて」

「暴言と侮辱ですね」

「しかも何でもかんでも刑に結び付けて」

「殺人未遂ですね」

「しかも何でもかんでもエスカレートするし」

「内乱ですね」

「うるさい」

 治が怒鳴ると、細田は今度は治をにらむ。

「あなた、今、大勢の人の前で暴言吐きましたね。名誉毀損です」

「いいから黙れ」

「刑事告訴します」

 細田は治を指さしてそう言うと、ぶいと行ってしまった。

「いいの?あれ」

 檸檬が尋ねる。

「ほっとけ」

 治は呆れた顔で言う。

「それで、他に何を言われたの?ハルちゃんに」

 檸檬が再び尋ねる。

「わたしの事はご主人様と呼びなさいとか、言っている事がめちゃくちゃなんだよ」

 治は勢いよく言う。

「そうなの」

 檸檬は、ハルスと"長くつきあっている"ため、ハルスの性格について知っていた。ハルスが治をどう思っているか、すぐに気付いた。そして、その単語を言おうとした時。

「浮気?」

 後ろからいきなり、聞きなれた声がした。治はビクッとして振り返る。

「隸なんかにご主人様を選ぶ権利はないのよ」

 その少女は、ふるえていた。

「しししかも、ご主人様の讒言ざんげんを、ぬけぬけと……」

 治は、真っ白になっていた。

「ああなるとわたしにも手に負えないから、ね」

 檸檬はそそくさと、その場を立ち去る。

 その少女は、治に絶望というものを与えた。生きるにも絶望。歩くにも絶望。進むにも絶望。戻るにも絶望。タイムマシンなんかできっこないということを花房●人に言われた時の気分。


「計画は順調かな」

 暗闇で、一人は、もう一人に声をかける。

「はい、順調です」

 黒いスーツを着ている、もう一人は、一人にそう答える。

「そう。それはよかった」

 一人はそう言い、それから、小言で続ける。

「ヘファイストス」

「はい」

 ヘファイストスと呼ばれたそのもう一人は、返事をする。

「リサ・ド・ブラウンの同居人も、場合によっては敵の戦力になる可能性がある。早急に消さないと、ね……」

「分かっております」

 ヘファイストスはそう言い、近くの机の上のA4くらいの数枚の紙を手に持つ。その書類は真っ白であった。ヘファイストスがその書類に手をかざすと、書類に文字が浮き出る。その文章を読んで、ヘファイストスは落胆の声を上げた。

「……失敗だそうです」

「読み上げて」

 一人がそう言うと、ヘファイストスはうなずく。

「一人の命令不履行により、該当人物は釈放。不履行者は処刑とのことです」

「そう」

 一人はそう返す。

「ちなみに不履行者は誰?」

「はい、先ほど連絡がございましたが―――・・」

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