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小さなパルラカラスの失敗

作者: 宝探しの靴

これは小さなパルラカラスの物語。


町を歩けば転ぶ。

木に登れば落ちる。

立ち止れば、ゴミが飛んできてぶつかる。

それがパルラカラス。


パルラカラス、不運に疲れ果てた。

絶望のあまり、本当は消えてしまいたいのだけれど、ここにいる。

だって、いるんだから仕方がない。


歩くか。

止まるか。

のぼるか。

今度はもぐるか。


どうしたって、どこ行ったって不器用だもの。運が悪いもの。いいことないのよ。

うまいことやれなくてね。




それでもパルラカラス、実は洗濯だけ、ちょっぴり上手かった。

だから、頑張って洗濯のお手伝いをしていた。

毎日ゴシゴシと洗濯板でこすって汚れを落としていた。




三丁目のおばさんは病気がちだった。家事もままならない。

長老の指示で、何人かの町人が三丁目のおばさんの家事を手伝うことになった。


最近洗濯を頑張っているパルラカラスは、三丁目のおばさんの洗濯を任された。


パルラカラスは頑張って洗濯した。

ゴシゴシゴシゴシ頑張った。


でも、三丁目のおばさんの洗濯物は、量も多いし、汚れも正体不明で落としにくかった。



だんだんと、パルラカラスの小さな手に余ってきた。



洗濯界のエース、ベテラン主婦に相談した。パルラカラスの持っている洗剤の洗浄力も、もはや限界だと思ったのだが。

その洗剤でいいから、もっとゴシゴシやれ、頑張れ、とベテラン主婦に励まされた。


世知に長けた町の世話役の男に相談した。

大事なのは乗り越えたいと思う心だ、と熱く諭された。



パルラカラスは三丁目のおばさんの洗濯物を、ぜーんぶ投げ出したかった。

でも、そうはさせてもらえなかった。



落ちない汚れがたまっていった。

パルラカラスは不安だった。






そして、不安は現実となる。






三丁目のおばさんの汚れ物から、悪魔が沸いた。

三丁目のおばさんは、悪魔の毒牙で大怪我を負った。



三丁目のおばさんに憎まれた。

私はパルラカラスを信頼して、洗濯を任せていたのに、と。

パルラカラスは、深く深く憎まれた。



パルラカラスは震えあがったけれど、悪いのは確かに自分。

三丁目のおばさんは病気がちで体が弱い。

大怪我は完治するのか、はたまた、悪魔の毒でおばさんの命まで失われてしまうのか。





パルラカラスはこの洗濯を引き受けたことを悔やんだ。

自分の手に負えることではなかったのだ。

まさかこんなことになるとは。

洗濯が少しばかり上手だったことまで悔やんだ。


三丁目のおばさんの命の問題と憎しみの居所は、パルラカラスを恐怖に落としこんだ。

小さなパルラカラスが背負うには、重すぎた。


罪の意識に押しつぶされそう。

責め立ててくる視線にも押しつぶされそう。








実は、パルラカラスのこういう話、これ一回のことじゃないの。

小さなことから大きなことまで、よくあるわけ。ばかみたいに不運でしょ。

少しだけ頑張りたいの。でも、そうはいかない。


パルラカラスは100やることのうち、95まで頑張るんだよ。

5はもう、手がつけられないから、見て見ないフリ。


そうして、不安を抱えながらやっていく。

やがて、やりきれなかった5を、そりゃあもう盛大にしくじるのよ。


その失敗が悪すぎて、頑張った95はぜーんぶ吹き飛ぶってわけ。

だって、95の頑張りって言ったって、パルラカラスの小さな手がやった、ちっぽけなことに過ぎないからね。




誰かに憎まれていることに耐えられるパルラカラスではありません。


どうしよう。

どうしよう。


歩くの怖い。

止まるのも怖い。

のぼるのも、もぐるのも。


どこに行ってもうまくいきっこないですもの。

これまでに、イヤっていうほど経験してきました。


ほおら、パルラカラス、真っ青な顔で下を向いて、震えながら歩いている。








え?

私?

私はパルラカラスの創造主です。

私の作った箱庭に、パルラカラスを置きました。


「なんで私のような弱い存在が、この世界に生み落されたのか」なんて、パルラカラスが嘆いています。


パルラカラスを作った理由?

特にないです。

なんとなく。

それだけ。


やだやだ、私を責めないでください。

いいですか。

よく考えてください。


パルラカラスの創造主である、こんな私が今ここになぜだか存在するわけです。

それ自体、私のせいではないんですよ?


ね、仕方がないことなんです。全部。

何もかも、たまたまです。

パルラカラスも自分で何とかしたらいいんです。



ほーら、パルラカラスがまたやらかした。

わざとじゃないけど、許されることじゃない。

あ、また墓穴を掘った。こりゃ、どうしようもない。

あーあ、どうすんの。台無し。

そんな顔して、ダメなパルラカラス。









…気まぐれを起こそうか。









私は箱庭で途方にくれるパルラカラスを、ピンと指ではじいた。

パルラカラスは軽々と吹き飛んだ。

空中キャッチ。

パルラカラスは箱庭を出て、私の手のひらの中。




私は窓を開けて、窓の外に手を突き出した。

パッと手を開く。

手のひらの上には青い鳥。


青い鳥は、青い空に飛び立って行った。


青が青に溶けて、鳥はあっという間に見えなくなった。








パルラカラスは空に飛んで消えて行った。








私は私には翼を与えられない。

私はここにいる。

お馴染みの片頭痛に舌打ちしながら、ここにいる。


救われたい。

痛みから逃れたい。

もうここにはいたくない。

考えたくない。

感じたくない。

ああ、いやだいやだいやだ。

他に言葉が出てこない。


パルラカラスだけでも逃がしてやろうかという、これはそう。








ほんの気まぐれ。








これは小さなパルラカラスの物語。

私の物語ではない。

あなたの物語ではない。










小さなパルラカラスの物語。

お読みいただき、ありがとうございました!

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