我が名は・・・
私は今どこにいるのだろう。私の周りには床に倒れこんでいる人たちが見える。死んでいるわけではなかろう。しかし、本当に今も生きているのか。それとも死んでいるのか。それは私にも判断のつかないことであった。
そう言えば、私はここに来る前知人から逃げろと言われた。それだけだった。近くで轟音がしたので、外を見ると隣のビルが炎上しているではないか。だから、逃げたのだ。しかし、今の状況は最悪である。今いる非常階段は下は日に覆われ、我々は下に行く術を失っているのだ。さらに、上に逃げようとしても、入って来た非常階段の入り口はロックがかかっており、非常階段側から出ることはできない。煙が立ち込めるこの中。二酸化炭素が増えているのは明らかだ。やがては不完全燃焼が起こり、私は一酸化炭素中毒で死ぬのであろう・・・。
「おい。」
(えっ・・・。)
幻覚か・・・。声が聞こえた。
「おい。起きるのだ。」
(・・・起きる・・・。)
「クリス。起きるのだ。」
(・・・起きる・・・。)
得体のしれない声は男性の声だ。誰ともわからない声が私に起きろと言ってくる。なぜだ。この状態で、私以外にまだ意識があり、この極限状態の非常階段の中にいるのか・・・。
「起きて・・・。起きて逃げろ。」
「起きて・・・逃げる・・・。」
とぎれとぎれに言った一言は、私を大きく突き動かした。急に手すりを握っていた左手に力が入り、私は体を起こした。そして、立ち上がる。
「逃げろ。逃げるんだ。下に。逃げるんだ。」
「下に・・・逃げる・・・。」
その声に導かれ、私はひたすら階段を下りた。すると、火に包まれた階段が目の前に現れる。
「・・・。」
一瞬、そこを通ることを躊躇した。
「逃げろ。早く。」
(・・・。そうだ・・・。私は逃げなくてはならない・・・。)
この日のために作動しているスプリンクラーのおかげで、今の私の身体はびしょびしょに濡れている。少しぐらいのやけどで済むだろう。今は私に命令を下す、この声を。今は信じるしかない。
私は無我夢中で階段を下りた。ビルの回数なんて、今の私の目には入ってこない情報となっていた。ただ、下に。下に。
私が閉じ込められた非常階段から出たとき、外には逃げ惑う人々の光景が私の目に入って来た。私も、その人たちにつられて、ビルから逃げた。数分後。何百メートルある高いビルは灰色の煙を立てて、倒壊した。
私があの極限状態を体験した後。私を導いたあの声は、聞こえてこない。いったいあれはなんだったのだろうか。私の記憶の中にあの声は男性だったこと。それしか覚えていない。
「そうであろう・・・。私はあなたの現身に過ぎない。我が名はクリス。そなたの危機に再び登場するであろう。」
ベースは「あれ」です。はい。今日、Eテレでやっていた地球ドラマチックをネタにして書いてみました。以上。