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事件報告書File.15「広域師弟」

 ――前日。七月二十日 午後八時四十二分。

 東京都新宿区 須川渉自宅。


「エ? ウチですか?」

 それが、三十分前に警察庁特別広域捜査班・第一班所属 須川すがわ わたる巡査部長の発した言葉だった。


 警察庁特別広域捜査班。

 創設されて十年の日本版『FBI』――そんな目的で作られた組織。

 複数の都道府県にまたがる重要事件や、三名以上が殺害された場合には、無条件に所轄の警察署の応援として派遣される。誘拐事件や立てこもり事件。銀行強盗やハイジャックでも同様だ。

 警察庁長官が直轄する特別捜査の組織である。事件に派遣された場合には、各都道府県の本部長以上の権限が一時的に付与される。

 その第一班に所属するのが、須川であった。とある事件を切掛けにして、警視庁刑事部・捜査一課・第九強行犯捜査・殺人犯捜査第13係から、移動をしてきた。

 その移動のささやかなるお祝いを、今さらながら行うというのだ。


 まさか二人もの美女が、自分の安アパートに訪れることになろうとは――須川は片付け作業に追われながら、二人の到着を待つ。

「おつまみでも、適当に見繕います」

 こちらは須川の上司、警察庁特別広域捜査班・第一班・班長の有村ありむら 陽子ようこ警部補の三十分前の言葉であった。

 現・警察庁長官の有村ありむら 政義まさよし氏の長女で二十三歳。昨年から警察庁に入庁したばかりの新米キャリア官僚である。○大法学部時代に現役で司法試験に合格し、主席で卒業している。極めて優秀で有能で、そして美人だ。

 美的感覚が人よりいささかずれている須川が見ても、全てが小作りな顔と身体で、典型的な昔の日本的美人――大和撫子の造形であるとの感想を持つ。

 長い黒髪を額の中央で左右に分けている。十二単じゅうにひとえでも着せれば、おひな様の完成だな――須川は、本人の前では決して口に出せない不遜な事を考えていた。


「エッチな本は、ベッドの下に隠しておけよ! 三十分後に急襲するよ!」

 もう一方は、違った印象を持つ派手目な美女だ。警察庁特別広域捜査班・任命班・班長の白神しらがみ 怜子れいこ警部と、近くのコンビニ前で別れたのも三十分前。

 ウェーブした茶色い髪の毛は、染めてはいないそうだ。濃い眉と少し垂れ下がった大きな目。浅黒く日焼けしていて、バタ臭い雰囲気の彼女には、南欧の血が八分の一ぐらいは入っていると推理する。

 三十二歳の独身なのだが、浮いた噂のひとつも聞かないのだった。

 大きな口でよく笑い、よく飲み、そしてよく食べる。豪放磊落ごうほうらいらくと呼ぶべき性格には、須川も感心させられていた。万事が豪快なのだ。オトコらしい生き様には憧れる須川だった。

 しかし白神警部は、須川にとって謎の多い存在でもある。彼女自身は、自分の事をあまり語りたがらない。

 反面、事あるごとに過去の事件のエピソードを聞かせてきた。それを須川が、詳しく掘り起こして聞き出そうとすると――「つまんない話よ」――警部の口癖だった。会話を切り上げてしまう。


 キッチン流し上の壁に設置してある鏡で、自分の顔や髪型を確認する須川だった。髭のそり残しも無い。鼻から毛も飛び出して無い。鏡の中の顔をシミジミと見る。

 有村曰く――イケメンに分類される面構えだそうだ。どう見ても少年の容貌がそこにある。童顔だと良く指摘される。須川よりも若い有村と並んでも、必ず自分の方が年下だと言われてしまう。今年で二十六歳の自分。四捨五入すれば三十歳の大台が見えて来た。


 そして現時刻。


 須川が住むのは、二階建てアパートの一階角部屋だった。築二年なので外壁もまだ新しい。その1Kの狭い室内には、殆ど物が置いてない。

 整理整頓好きな几帳面な性格なので、部屋の中は綺麗にまとまっている。独身の須川も人並みにはエッチな画像や動画もたしなむのだが、全てデータ化してハードディスクに保存してある。自作したパソコンの一つをメディアサーバーにして、スマートフォンやタブレットで閲覧できる仕様にした。

 だから、そっち方面で片付けることは必要無かった。むしろ厄介なのは……銀枠に入れられ壁に飾られた、お宝ポスターを見やる。

 長い黒髪の美女が微笑んでいた。ポスターフレーム入って、大切に飾られているB2サイズの広告写真には、写っている人物の直筆サインが入れられていた。

「説明するのが、面倒なんだよな……」

 須川がポツリと言葉を漏らした時――。


「ピンポーン♪」

 インターホンのチャイムが鳴った。須川が玄関に向かうより先に、ドアが開いて二人の女性が入って来る。

「おーい! 隠し終わったかあー?」

 市松模様の風呂敷に包まれた一升瓶を持ち上げて、白神警部が乱暴に靴を脱ぎ捨てドタドタと室内に入ってくる。

「し、失礼します……」

 恥ずかしそうに言った有村警部補は、脱いだ自分のパンプスと警部のサンダルとを綺麗に揃えて、狭い玄関へと並べていた。

 今日は珍しく、有村のスーツの下はタイトなスカート姿だった。細い足がのぞき、黒いストッキングが艶やかに光っている。

 腰をかがめ、靴を揃えていた彼女に見惚れていた――何かイイナ。須川は感慨に耽る。そういえば、若い女性が自分の部屋を訪れたのは、入居して四年目で初めてだったと思い返す。

「へー、綺麗な部屋ジャン」

 部屋を見渡す白神警部は、須川の用意した来客用の座布団に遠慮無く座る。白デニムのパンツルックの彼女は、アグラ姿の楽な体勢をとっていた。上はアロハシャツという刑事と思えぬラフな格好で、真白いTシャツを下に着込んでいる。シャツは腰で縛っておへそが除いていた。そして、大きな胸が強調されている。

 須川には、二つの山の頂にポッチリが確認出来た。ノーブラか? ノーブラなのだな? 鋭い視線で見つめる。


「ア、どうぞ……むさ苦しい部屋ですが、遠慮無く……」

 立ったままで逡巡している警部補に、座るようにと案内する。同時に彼女が両手に持っていたコンビニの白い大きな袋を受け取り、床に置く。ゴトリと重い音がした。かなり色々と買い込んでいる。

「あ、はい……」

 キョロキョロと落ち着き無く室内を見渡す有村警部補。独身男性の部屋に、始めてお邪魔した初心うぶな乙女の図だ――勝手に、自分に都合良く解釈をする須川巡査部長だった。

 有村は、座布団にかしこまって正座する。指でなぞって床の汚れを確認したが、ホコリさえ落ちていなくて感心していた。

「グラスなーい?」

 風呂敷から出された、茶色い一升瓶の開封作業に夢中となる白神警部が言った。須川は日本酒のラベルを見る。

 『純米大吟醸 遠心分離磨き三割九分』の赤い文字が気になった。

「かわうそ?」

 須川が発言した時だった。

獺祭だっさいだよ! 先生のご親戚から送ってもらったヤツ。美味いよん♪」

 白神警部は得意げな顔を彼に向けていた。先生とは誰だ――須川は立ち上がりながらも考える。

「ア、グラスですね……」

 キッチンから、百均で買っていたグラスを三つほど持ってくる。大きさも形もキッチリと揃えていた。同じ物が、あと六個ある。それをガラステーブルの上に並べた。

「私は、コレを……」

 床に置かれた白い袋から、ウーロン茶のペットボトルを取り出す有村だった。

「有村さんは、お酒ダメなんですか?」

 キッチンまで何度か往復して、何種かの取り皿と割り箸をテーブル置いた須川は、床にそのまま膝を付き、正座して上司の顔に向く。

「アハハハァ……」

 何か意味ありげな乾いた笑いを、隣の有村に投げつける白神だった。

「ハイ?」

 事情の飲み込めていない須川は有村の顔を見た。警部補は、恥ずかしいのか顔を赤くしてうつむいている。

「あ、ぎます注ぎます」

 グラスを手にして振っていた白神警部に、一升瓶の口から透明な液体を慎重にそそぐ。

「チミも、飲みタマヘ……」

 須川から瓶を奪い取り、彼のグラスに勢いよく入れて来た。

「オットト……。オ、うめえ!」

 グラスから溢れそうになり、慌てて口から向えに行く。須川は一旦口腔内に含んでから、ノドに流し込み唸ってしまった。日本酒は、先行する負のイメージからか敬遠していた須川だったが、冷やでそのまま飲んで、その口当たりの良さに舌を巻く。

 もう一度グラスに口を当て、半分ほどを一気に飲む。

「クウー、効きますね。でもスイスイと入って来る。今まで日本酒は、臭いがダメだったんですが……これは、ワインのよう……フルーティってヤツですね」

 須川は白神に向けて、笑顔で大いに語る。果実臭が未だに鼻腔内に残ったままだ。心地よい残り香を堪能していた。

「それは、安酒を熱燗にしたんだろうて……。古田のおっさんに立ち飲み屋で飲まされた口だろ?」

 白神の言う、古田のおっさんとは須川の元上司の古田ふるた 宗治そうじ警部のことだった。彼は警視庁刑事部・捜査一課・第九強行犯捜査・殺人犯捜査第13係・係長である。

 白神警部の推理は見事に当たっていた。新宿駅近くの寂れた飲み屋街の一画で、盛んに進められていたのだ。


「……ゴクリ」

 横を向くと、物欲しそうな目をして自分を見ている有村と目が合う。生唾を飲む彼女の喉が鳴っていた。

「有村さんも飲みますか?」

 須川は彼女の目を見つめて、率直に尋ねる。お預けを食らった小犬のように、情けない顔をしていたからだ。可愛いじゃないか――年下の上司の隠された魅力を再発見した須川は、何故か嬉しく思い表情が緩む。

「うん……」

 有村は言動と行動とが相反していた。口では了承しているが、ブンブンと首を振って否定の動作をしている。頭と身体の反応が乖離しているのだ。人格障害一歩手前の状況に恐怖する。境界線上にあるのだな。

「やめときなさい……わたるん……」

 『わたるん』とは、白神怜子が須川に勝手に付けた愛称の事。最近は、警視庁の庁舎内で呼んでくるので困っていた。彼と同期の刑事たちも真似してしまっている。

「エ?」

「有村くんは、いける口なのだがね。ウワバミのヤマタノオロチは、酒を飲むと突然変異するのだよ。水谷課長に絡んでいるときには、コッチが胆を冷やしました。オマケに泣き上戸で、脱ぎ癖があるんだから……」

 ニタニタと笑いながら、横目で警部補を見る白神だった。水谷課長とは警視庁刑事部・捜査一課・課長の水谷みずたに たかし警視正である。須川の元の上司も上司だった。ユーモアを解さない堅物の男との周囲の評判通りだと、須川も思っている。警視庁の建物を間借りしている警察庁特別広域捜査班を、何かと目の仇にしていた。


「脱ぎはしません!」

 有村はそこの部分を否定する。それが本当かどうか、試してみたい衝動に駆られる須川巡査部長だった。

「イカの塩辛ウメェ! 白菜の浅漬けウメェ!」

 有村がコンビニで買い込んだつまみを、勝手に開けて食べ始める白神警部だった。半分以上が無くなっている。

「私は、コッチを食べます」

 ウーロン茶を一口飲んだ警部補は、カップに入った冷やしトロロそばを取り出して、おそばの上につゆとトロロを開けていた。刻みのりを振りかけて、グルグルかき混ぜる。その頂上にワサビを乗せていた。

「なにそれ? 食事する気、満々ジャン! アタシもお腹空いたよ」

「白神さん。ボクが簡単な食事でも作りましょうか?」

 よだれを垂らさんばかりの勢いの白神警部の様子を見て、須川は立ち上がりキッチンに向かった。日本酒を飲まされ過ぎて潰される前に、胃袋に何かを入れて置いた方が得策だとも考える。

「何が出来るのよ、わたるん?」

 割り箸で小皿をチンチンと鳴らす白神警部だった。

「焼きうどんでもどうすか?」

 須川は冷蔵庫の中身を確認して言った。本来は翌日の昼食にでもと、考えていた。明日は勤務日ではない。三人共に非番なので、急遽飲み会が開催された次第である。


「ジュワー」

 切った野菜と豚肉とを、暖められた鉄製フライパンに放り込む須川だった。

「わたるん! ニンジンとピーマンは要らないよー! 玉ねぎとキャベツだけでいいよー!」

 白神は、彼の後ろ姿に向けて叫ぶ。

「もう入れましたよ!」

 左手でフライパンを手際よく動かし、さい箸で大胆にかき混ぜていた。ピーマンは、須川も嫌いなので抜いてある。


 須川が左手を動かす度に、小気味よいリズムで揺れる細い腰を眺める二人の美女だった。

「ところで白神さん。神戸に出張した件って、何だったのですか?」

 向き直してズズズとトロロそばを掻き込む有村だった。そして、ポテチを放り込みムシャムシャと小さな口で頬張っていた。

「あーアレね……」

 斜め上を向いて、バツが悪そうな顔をする警部だった。何かを隠している――有村は確信する。

「重要な事件で、お得意の秘匿事項ですか……口外禁止の……」

 そこまで言って、白神のグラスに日本酒を注ぐ有村だった。

「まま、一献いっこん……」

 酔わせて聞き出す魂胆だ。


「今回のは、重大事件は発生してないから、アタシ一人で日帰り出張だったのよ――」

 グイッとグラスの半分までの透明な液体を、胃の腑に収める。

「そう云えば今回は、珍しくお土産ナシでしたね。最上級神戸牛でも買ってくるかと楽しみにしていたのに……」

 恨めしそうな目を警部に向ける。

「――ま、アタシはお昼に神戸牛のステーキ弁当をごちそうになったから、それで満足したんよ。お、いい匂い……わたるん! 早く! 早く! お腹と背中がゴッチンコだよ……」

 キッチンから、ソースの焦げる食欲をそそる匂いが漂ってきた。焼きうどんの工程は最終段階に突入だ。ゴッチンコとは何だよ、女の子がはしたない――そう思う須川だった。

 白神警部は、剥き出しのお腹をペチンペチンと叩いて空腹を主張する。

「……で、誰に会って来たんですか?」

 有村に見つめられ、白神は目を逸らす。よっぽどの重要人物と面会していたのだな――自白したも同然だった。

「出来ましたよ~」

 須川は、焼きうどんを大皿に盛りつけてテーブルの上に置いた。麺の上では、けずり節が揺らめいている。

「待ってました!」

 元気に言った警部は、さっそく小皿に取り分けて、豪快にうどんをすする。

「う、美味い! 美味いよ、わたるん。今すぐお婿さんに行けるよ!」

 有村の質問に動揺している彼女は、コンビニの袋から缶ビールを取り出して、さっそく開けて飲み出した。

「……って、何これ! ノンアルコールじゃない!」

 全部飲み干してから、気が付いたご様子。

「ソレ、わたし用に買ったんです……」

 両手の人差し指を立てて、自分で指先をツンツンとする警部補……。更にバツが悪くなり、日本酒のグラスを空っぽにする警部だった。

「白神さん大丈夫ですか? ペース早すぎません?」

 須川が尋ねるのも当然だった。動揺したままの白神は、今度は梅酒のカップを開けて一気に飲み干す始末。青い梅の実を口に含み、コリコリとかじっている。

「だ、大丈夫らよ~」

 口元がずいぶんと怪しくなってきた。目の下が赤くなっている。垂れ目が更に垂れ下がる。


「同時期に、大阪府警の本部長が兵庫県警察本部を訪れていますね。これも関係あるんですかねぇ?」

 有村警部補は核心を突いてくる。彼女を追い詰めて行く気が満々だ。日頃の情報収集も抜かりがない。

「えー……とー……」

 須川は白神の目が泳ぐのを見逃さない。

「普通は県警の本部長が府警本部に赴くはずですが……一体、どんな重要話ですかねぇ?」

 彼は有村に加勢するのを決めた。


 有村は、ゆっくりと口を開く。淡々とした口調で白神への追及を始めた。

「兵庫県神戸市に本拠を置く○○組トップの金森組長が病気療養中とかで、現在はナンバー2の若頭、周防すおう 忠嗣ただしが○○組全体を取り仕切っています。その周防は、政治がらみのヤバイ仕事を請け負って、一年前はナンバー4の序列――関西統括委員長――だったのが、今年に入って一気にジャンプアップをしています。周防の金と『権力』の源泉は、現・総理大臣の倉田くらた 源一郎げんいちろうだと噂されてますよね? ね、白神さん」

 日本最大の指定暴力団の名前と、内閣総理大臣の名前まで出て来て、須川は驚いて有村の顔を見た。今度は白神を見ると、酔って赤みがかった顔が、青白く変色していた。図星の話だったらしい。

「さすがは、有村ちゃんね……よく調べてるね。それは、お父上からの情報?」

 白神の問いに警部補は首を振る。

「最近は、実家には帰っていません。父とも会っていません。情報源は、私にも色々とあるのですよ。えへへ」

 可愛く笑う姿を見て、須川は上司に見とれてしまっていた。警察庁長官の住まう彼女の実家は、世田谷区の高級住宅街にある。一方、有村の住む自宅の方は港区内にある。須川も公用車で送った経験があるが、一度も家には上げさせてくれなかった。ガードは固い。

 今度は彼女の家で飲み会を開催しよう――須川は考える。うら若き独身女性の部屋に、上がり込む口実だ。


「ところで、わたるんよ。その『権力』とは何か知っているかね?」

 急に話を向けられて須川は当惑する。白神の方も、呂律が回っていないと自覚したのか、空のグラスに自分でウーロン茶を注いでいた。真面目な題材を、時には話題として取り上げるのだ。

「『権力』とは何か……ですか? 極めて抽象的な質問ですね。社会科学の概念としても、哲学としてのとらえ方でも違ってきます。権威、影響を与えるパワーとして、時には暴力ももって、合法的、伝統的、カリスマ的な支配を行うのですよ……」

 須川の力説に、二人の女性は目を丸くする。

「マックス・ウェーバーの受け売りかいな……。『権力と支配』での結論は、合理的組織としての官僚制化の必然……ですかいな。わたるんのは、恐らく大学で習ったまんまの浅い知識でしょ。ま、その官僚の最たる人物、上級試験に合格した支配者様が、隣でウーロン茶を飲んでおられる」

 白神は、嫌味たっぷりの目を斜め横の有村に向ける。しかし、グラスを置いた当の本人は、冷やしトロロそばを平らげた後に、焼きうどんの方に取りかかっていた。

 そして、須川は白神にズバリ痛いところを指摘されていたのだった。浅知恵の言葉には反論出来ない……頭を掻く。そのうちに、有村の反撃が始まっていた。

「私は、そんなに偉い人間じゃありません。職業として選んだのが、たまたま警察官僚であっただけです」

「たまたま……と来たよ。たまたま、父親と同じ仕事を選ぶのかね?」

 珍しく有村に絡んでいく白神だった。酔っているだけでは無さそうだ――須川は成り行きを見届けようと考えた。

「私は、暴力をもって問題解決を図ろうとする集団に反発を覚えているのです。ですから、この道に進んでしまいました。単純な正義感でも、権力欲でもありません。そもそも、父は関係ありません」

「なんじゃソラ、つたない言い訳だねぇ~」

 白神の語気が荒くなってきた。つかみ合いのケンカでも始めそうだったので、須川は割って入ることを決断する。

「お二人とも、そこで争うのはおかしくありませんか? 『権力』の話でしたよね。そりゃあ所詮、白神さんとボクは『権力』に使われる側の人間です。そして、有村さんは『権力』を行使する側――支配する官僚なのです。それには違いないでしょ。ボクは有村さんには出世してもらいたいと考えている。その為には、どんな協力も厭いません。命令あらば、死地にだって赴きます。ボクは有村さんに出会って、始めて現実の人間にカリスマ性を感じたんです。惚れたんです!」

 須川の「惚れた」――の言葉を聞いて、有村の顔が真っ赤になった。

 慌ててテーブルのグラスを掴み、飲み干した。それは須川のグラスで並々と注がれている日本酒が……。

「キュウ……」

 おかしな言語を発して、有村警部補は床の上に大の字になる。

「きゅう?」

 須川が見ると、目を回して潰れていた。口がパカリと開いて、軽くいびきをかいている。

「シ、白神さん! 有村さんが……ヤ、ヤバイ状況なんじゃ……意識障害? ノ、脳梗塞?」

 須川は昏倒している上司の肩を揺するが、反応は無い。

「あ、大丈夫なんじゃネ……」

 白神警部は有村の方をチラリと見て目を逸らした。グラスのウーロン茶をチビチビと飲み続けている。

 すると、有村はムクリと上半身を起こした。須川の姿を認めて、彼のネクタイを引っ張って大いに語り出す。

「オイ! なんだ若造ぉ! 惚れたってなんだぁ! そんなこと言っても信用しないぞぉ! それよりもぉーボクチンは、私と――このオバハンの――どっちの味方に付くのかいぇ!」

 目がすわっていた。有村が何に怒っているのかが判明しない。絡みクセとはこれなのだろうか――須川は当惑する。

「ままま、有村センセ……コッチの須川君も、悪気があって言ったんじゃないからね。遠回しの愛の告白を受け入れて、応えてあげないと……」

 オバハンと暴言を吐かれ指差された白神警部だが、その件はスルーで、有村をなだめるのに必死だった。これが豹変モードなのだろうか? 猫がじゃれてくるようにしか感じない――須川は思っていた。警視庁の刑事部刑事課にはもっと酒癖の悪い人物が存在する。大声を張り上げて暴力までふるう……そんな刑事部の大虎に比べれば、有村の方は可愛い子猫ちゃんだった。


「うるせえぞぉ! ババア! デカイ乳しやがってさぁ……。ケッ! みんなして、私の事をバカにして……ぐすっ」

 今度は泣き出した。

 有村は警視庁の建物内で間借りしている期間は、終始笑顔であった。だが、刑事部の人間からの陰口、悪口は、須川の耳にも入って来る。当然、有村の耳にも入る。

 警察庁長官の娘の地位を利用して、強権をふるって現場を混乱に陥れている等々……。彼女の突っ込む事件は、無事解決しても世間には大っぴらに出来ない内容が多すぎるのだった。何か、本人は色々と鬱屈しているのであろう――須川も想像に難くない。

「分かった、分かった……つらいんだね。つらいんだね。ハイハイ寝なさい、寝なさい」

「ヤダ! ヤダ!」

 白神は駄々をこね床で暴れる有村の手を引っ張って、須川のベッドに案内する。

「エ! チョット! 白神さん! 何するんすか!」

 須川の抗議に耳を貸さずに、ベッドの上の掛け布団をめくり、有村を寝かしつける。彼女は、うつぶせになって須川の枕に顔を押しつける……直ぐにすーすーと寝息を立て始めた。

 そんな眠り姫に、優しく布団を被せる白神だった。

「まあ、彼女も苦労してるんよ……許してやってくれよん……」

 白神は自分の席に戻り、すっかり冷めてしまった焼きうどんを大皿のまま大きな口に掻き込んでいた。

 そして、須川の顔を正面からのぞき込む。

「ヘ?」

「邪魔者は居なくなったな……。やっと二人きりになれた……」

 白神警部は須川巡査部長の目を見据えたままだ。口の周りに付いたソースを、舌を使って舐め取った。



   ◆◇◆


 七月二十一日 午前零時二分。

 東京都新宿区 須川渉自宅。


 天井の円形シーリングライトが消されて、床の球体間接照明の淡いオレンジ色の光だけになっている。


「わたるん、キミは見かけによらず大胆だね。こんな所まで、攻め込んでくるんだ」

「イイエ……ボクは下手くそですよ。白神さんは、ボクに比べてとっても……その、上手です」

「まあね。年上のお姉さんが、リードしてあげないとね。単調なのは飽きてしまうでしょう……こんなのはどう?」

「アア! ダメですよそんな所を!」

「どうだ! ここが弱点なのかな? でへへへへ」

「すみません。勘弁して下さい。ボクが生意気な口を利いてしまいました」

「えへへへへ。これでチェックメイトだ!」

 須川の黒の王様キングが、白神にぶんどられてしまっていた。


「白神さん。何でチェスなのですか?」

 須川は手強いプレイヤーに尋ねる。須川が室内インテリア用に置いていた、チェス盤を目ざとく見つけ出したのだ。

 これが壁に飾られたポスターでなくてホッとする。ポスターフレームは表裏二枚貼りになっていて、裏には古いパニック映画のポスターが入れてあった。今はコチラが向いている。

 表のサイン入りのポスターの女性の正体は、須川が夢中になっているアニメの声優だったりする。中々、説明が難しいと考えていた。


「うーん。ここからが本題かな。彼女には聞かせられないディープなお話の始まり始まりぃ……」

 警部はベッドの上の有村を見てそう言った。今は仰向けになって、すっかりと熟睡モードだ。軽くいびきをかいている。途中で暑くなってしまって脱いだのか、彼女のスーツのジャケットが床に落ちていた。

 須川はそれを拾い上げ、シワを直してからハンガーに掛け、壁のフックに吊す。

「ディープな話……何すか? ソレ?」

 須川は空になった二人のグラスにウーロン茶を注ぐ。コンビニの袋から乾き物系のつまみを取り出して、チェス盤の横に並べる。

「わたるんは、陰謀論や都市伝説のたぐいを信じるかね」

 そう言った白神は酢漬けのイカを取り出して袋を開けた。部屋いっぱいに酸っぱい匂いが広がる。

「陰謀論ですか……。世界を支配してるのは、ユ○ヤや、フリー○ースンだとか言い出すんですか?」

 須川は柿ピーの袋を開け、左手のひらの上に出して口に放り込む。ムシャムシャバリバリと大きな音を立てていた。

「ま、ソッチ系統のお話。『権力』の話題が出たじゃない……その続きをしようかなと……」

 白神はノンアルコールビールのプルタブを開けて、一口飲む。

「ぬるいと、更にまずいわね……」

 そう文句を言った後も、もう一口飲んでいた。そして続ける。

「国権の最高機関が国会で、国会の解散権を持つのが内閣総理大臣。じゃあ総理大臣が最大の『権力』を握っているかと言うと……」

「でも、三権分立なのでしょう。『権力』を分散して、相互に監視や牽制をして、何処か一カ所だけに集中するのを防いでいる。国会……衆議院には、内閣に対して不信任案を提出する権限がある。そんなのは小学校の社会で習いますよ……常識ですよ……」

 須川はつまらなそうな顔をして、再び柿ピーを貪る。その口からピーナッツが一つ飛び出して床に転がった。向かいに座る白神は、ソレを拾って自分の口に放り込む。かみ砕いた。

「常識ねぇ……。この仕事は常識を疑うところから始めるのよ……」

 そう言った白神は、足を伸ばして須川の左膝をくすぐり始める。

「な、何するんですか……」

 警戒して正座する膝を引っ込め、アグラ姿に移行した。

「これが『権力』に服従させる行為なのだよ……」

 そう言って横を向く。須川には脈無しと判断したのか、本題に移ることを決意した白神だった。


「現・内閣総理大臣の倉田源一郎は、七十七歳のおじいちゃん。その人物と、わたるん二十六歳がガチンコでケンカすると仮定するじゃない。当然、腕力ではわたるんの圧勝だけど……警察機構はキミを逮捕する。警察が動けないときは、裏の暴力装置が働くワケ。それが『権力』の正体。指一本、号令一つで軍隊さえも動かせる」

「ボクは、ヨボヨボのおじいちゃんを殴ったりはしませんよ」

 しょっぱい味に飽きたのか、チョコレートがコーティングされたスティック菓子を食べ始める須川。


「例えよ、例え。だけどこの国は昔から、政治的な最大権力を掌握した人物が、必ずしも総理大臣になるわけではないでしょ。院政を敷いて、影から操る方が楽でいいのよ。誰の監視や牽制も受けないし、引退して国会議員の身分で無くなれば、選挙による国民の洗礼を受けなくても済む。もっと古くさかのぼっても同じ事……」

 須川には、過去に長老や黒幕と呼ばれた数々の政治家の顔が浮かんでいた。

「その総理が、指定暴力団と繋がっていて不穏な動きをしてるんですよね」

 関西への日帰り出張の件を突っ込んでいた。

「わたるんは鋭いね。そもそも倉田総理の所属政党が政権を取ったのが、この春だもん。早々と暴力団幹部とのコネクションを確立したのが一年前。総選挙時には相当にえげつないことをしたとの噂もあるけど、報道陣に口止めしたのか、今のところは表沙汰になっていない。金と暴力とが暗躍したと聞くわ。行方不明のジャーナリストの存在とかね。今も、新聞で総理の二年前の疑惑が報道されているけど、この春に議員に当選した元秘書に全ての罪を着せる気マンマンね。この分だと、この疑獄事件で何人か死ぬ人間が出てくる」

 白神は一気に喋り、ウーロン茶で喉を潤すが、気管に入ったのか咳き込んでいた。

「ケホ、ゲホ!」

「大丈夫ですか?」

 須川はティッシュを箱ごと差し出す。

「スマン、スマン」

 白神は口を押さえていた紙で、ついでに鼻を噛む。その後、ゴミ箱に丸めて捨てた。

「さて、この国では権力機構が複雑なのよ。総理大臣は国家元首ではない。じゃあ、やんごとなきお方に行き着くかというと、そうじゃない。でも、日本には総理大臣を遥かに凌ぐ『権力』を行使できる人物集団が現実に存在する。それは、とある集団を操って『権力』の邪魔になる人物を非合法な手段で排除する」

 白神の発言を受けて、途端に胡散臭い目を向ける須川だった。

「それが、前に出た『組織』とやらですか?」

 有村も語っていた重要事件の前に立ちはだかる存在……そして、その手足となって動く闇の組織。

「まーね。あくまでも仮説の域なのだよ。これも、元々は先生の意見の受け売り……」

 そう言って白神は、ウーロン茶を口に含む。

「先生……。前も言ってましたけど、その人が白神さんの師匠筋に当たる人なのですね」

 須川の問いに白神は答えず、口に含んだお茶をクチュクチュとさせて、歯をゆすいでいた。しばらくそうして、やがてゴクリと飲み込む。

「ま、そんな所ね。お、もうこんな時間か、わたるんには宿題を出しておこう!」

 白神は時計を確認して言った。午前一時を回っている。彼女は、チェス盤の倒されている黒駒を、チョイチョイと並べていった。その手元に注目する須川だった。指輪もマニキュアもしてない飾りのない指だ。

「これは……」

 黒駒だけが盤上に乗っている。

「この場所に白駒を一つ置いて、王様キングを大ピンチにして下さい。つーこって、アタシは帰るからさ、宿題の答えはいつでもいいからね」

 白神は、そう言って立ち上がる。お尻の部分をパンパンと払っていた。

「チョッチョット! 白神さん! 何で、一人で先に帰っちゃうんですか! 有村さんを連れて帰って下さいよ!」

 須川は、この部屋のベッドで眠る有村をチラリと見る。こちらに背を向けて、すーすーと心地よさそうに寝息を立てていた。

「もう! アタシも気を使ってるんだからさ……。上司だろうが、警察庁長官の娘だろうが、いっそ食っちゃなさいよ。器量よしで、気立てのよい生娘だからさ、きっと彼女にしたら、きめ細かい世話を焼いてくれて、極めて至れり尽くせりよ。この子も満更でも無い様子だし……」

 白神は首を後ろに向けて、寝乱れている警部補を見る。警部は、立ったまま一升瓶を包んでいた風呂敷を畳んでいた。

「イヤ……勘弁して下さい。連れて帰られないなら、白神さんも一緒に居て下さいよ。もう終電も無くなってるから、タクシー代も勿体ないでしょ……」

 須川も立ち上がり、白神のアロハシャツの裾を掴んで懇願する。彼の方は酔いが抜けないのか、足元がふらついて覚束おぼつかない。

「なに? 女二人と組んずほぐれつしたいの?」

「違います! 白神さんはベッドで二人して寝て下さい。ボクは床にでも……何なら外で寝ますから……。寝袋が確か、押し入れにしまって……」

「分かった分かったよ、意地悪してゴメン。アタシも床に寝るよ、あの子さ……寝相悪いんだよね。布団の予備はないの?」

 アゴで有村を指し示す白神だった。

「冬用の羽毛布団があります。タオルケットなら予備がありますし……枕は無いですよ」

 須川が手渡した布団で寝床を作り出す警部だった。こういうのには慣れている感じだ。座布団を二つ折りして枕にする。

「あ、灯り消します……」

 本当は、部屋着のスウェットに着替えたい須川だったが、女性の前では裸にはなれない。上着とネクタイとをハンガーに掛けてカーテンレールに吊す。

 そして、寝袋に潜り込んで間接照明のスイッチを切る。

 部屋は真っ暗になった。



   ◆◇◆


 七月二十一日 午後一時五十分。

 東京都新宿区 須川渉自宅。


「ビー! ビー! ビー!」

 室内に大きな音が鳴り響く。板張りの床に置かれた有村警部補の携帯電話が、バイブレーション最大で震えていた。

「んー誰だよ……誰か出ろよ……今、何時だ……」

 目を覚ました須川は、寝袋のまま身体をひねって音の方向に向く。すると、目の前に白神の寝顔があった。女性二人が自分の部屋にお泊まりしている事実を思い出す。

 部屋の中は明るい。

 不規則な勤務のため、外光を防ぐ遮光カーテンを取り付けているが、既製品の丈がほんの少し短い。床から五センチメートルほど隙間が開いている。残念すぎるカーテンだが、この部屋の主も、色々と残念な部分を抱えている。

 輝度の高い夏の光が差し込んで、須川は目がくらむ。

 だが、寝息も立てていない白神の、彫りの深い端正な顔に見惚れていた。元々彼女のメイクは薄目なので、長い睫毛は本物だと判断する。

 生きてる? そう感じるほど、微動だにしない白神だった。大きなバイブの音にも動じていない。

 依然、携帯電話は振動を続けている。長時間呼び出しを続けている。緊急事態であるのは明白だ。


「おかーさん! おかーさん! すみません、すみません。陽子は今、起きます!」

 ベッドの上から大声がした。上司の有村陽子警部補が寝ぼけたまま何やら叫んでいた。電話の鳴動を、目覚まし時計と勘違いしているらしい。

「アレ?」

 自宅と……否、実家と勝手が違うので、半分だけ開かれた目で須川の部屋を見渡していた。

 そこが実家でないと知り、慌てて床の電話を拾い、少し手こずってボタンを押し応対する。

「あ、ハイ……有村陽子です。そうです……」

 寝袋の須川は、上司の格好を見て仰天する。ベッドの上でブラジャーだけの下着姿だった。下着の色は純白で、寝起きの男性の身には色々と眩しかった。

 窓の下から差し込む陽光で、彼女の細い腕のうぶ毛が黄金色に輝く。

「ええ、ええ……そうですか、そんな状況ですか……」

 当の本人は、須川に目撃されているとは気付いていない。

「二人殺害されたのですね。その話だと、持ち出された武器弾薬の量が多すぎます。宣言します、今事件を『広域指定』にします。本部の場所は決定次第、追ってご連絡します」

 ふぅ……休みが潰れた――そんな感じで残念そうに息を吐いて、電話を切る有村陽子警部補であった。

「事件ですか?」

 床で寝袋にくるまったまま須川が尋ねる。目が合った。

「え……」

 自分の格好に今更ながら気が付いた有村だった。急ぎ布団で自分の身体を隠した。

「す、須川さん! あっち向いて下さい! き、着替えますから……」

 そう言われ、彼はゴロンと向きを変える。白神の身体越しに、床に脱ぎ捨てられた白いシャツとスカート、黒のパンストが確認出来た。

 しかし、これだけ騒がしくても警部は無反応だった。ピクリともしない。

「誰からの電話ですか?」

 背中越しに尋ねる。

「お、園城寺管理官です。銃砲店が襲撃されて、散弾銃と弾薬が大量に強奪されたとの報告です。犯人は、店主と店員の二人を問答無用に射殺しました。この事件の対応に警視庁は混乱中だとも報告を受けました」

 トントンと床を跳ねる軽い振動音が聞こえた。上司がパンストを履き終えたのだと、背中越しに推理する。

 話に登場する園城寺管理官とは、警視庁刑事部・捜査一課・第一特殊犯捜査・特殊犯捜査第1係及び、特命捜査対策室・特命捜査第5係の責任者、園城寺おんじょうじ つかさ警視の事だ。

 現在は警察庁特別広域捜査班のお目付役となっている。

「大丈夫です須川さん。白神さんを起こして下さい」

 須川が身体を捻ると、上司は壁に掛けられたジャケットを羽織る所だった。

 寝袋から腕を出した彼は、白神の肩を揺する。

「何じゃ? 仕事か?」

 パチリと目が開き、白神はムクリと起き出す。白いTシャツの彼女は、立ち上がった。白デニムのパンタロンは脱ぎ捨てて、健康的な足がのぞいていた。

 彼女は両耳の穴から何やら取り出した。耳栓だった。その為に騒がしくても熟睡していたのだ。

「白神さん、充電満杯ですか? 多分、しばらくは眠れなくなりますよ! 須川さんも覚悟して下さいね!」

 睡眠十分の有村は、笑顔で部屋のカーテンを全開にする。

 陽の光と笑顔が眩しくて、顔を覆う須川だった。


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