魔王の嫁の弟
「――うわぁぁぁ…」
青年が悲鳴をあげながら校内を走っている。
「…いただきます」
少女が青年に飛びかかった、しかし青年は体を右に傾け避けて走り続ける。
「むぅ…大人しく捕まればいいのに…」
少女は不満を顔に出し文句を言う。
青年が屋上で一息ついていると、頭上から
「見つけましたわよ!」
青年が見上げるとどこか気品のあり背中からコウモリのような羽をはやして飛んでいる女の子がいました。
「おとなしく捕まりなさいよ」
彼女は青年に向けて落下してきました
だけど青年はバックステップでそれを避けるとまた走りだし校内へ消えます。
「そんなに全力で逃げなくたっていいじゃないの…」
屋上に頭から落下した彼女は頭を押さえながらブツブツと何かを言っている
青年が廊下を走っていると、狐が飛びかかってきました。
しかし青年は一瞬でその場から消えると、5メートルほど進んだところに出てきました。
すると狐は人の姿になり、恨めしそうに愚痴りました。
「それは反則なの…」
ここは魔王城付属学校(通称マフガク)魔王のため強い魔物になるための勉強をするところであった。過去形である。
1年前、とある勇者が王国に帰ってきた。魔物領に入って逃げて来たのではなく帰って来たのだ。
そしてその勇者は言った。
魔王と和平を行なったと、魔物はこちらが攻撃しない限り襲ってこないと。
人々は半信半疑であったし、一部は魔王の首を出せーと叫んでいた。魔物に両親を殺された子供やその逆に子供を殺された親もいるのであるから当たり前である。
この長い戦いの溝は簡単には埋まらないだろう。
魔王城でも衝撃が走った。突然魔王が人間を襲うなと命令をしたからである。たった一人の勇者に魔王の座まで進攻されたが魔王が倒したはずと思っていた魔物たちは驚いた。
数日後、魔物たちはもっと驚くことになる。
そして先ほど出てきた勇者は王と話した後、家族を連れどこかへ行ってしまう。そして半年後、魔王の嫁としてまた人々の前に現れたのだ。
しかしこれは、勇者のたった一人の家族である弟。元勇者の弟にして現魔王の嫁の弟の青年の話である。
――魔王城
ワーパチパチヒューヒュー
…結婚式である。僕の姉の結婚式なのだ。
相手は魔王、僕は明日から魔王の嫁の弟になる。
この半年、姉は元勇者なのに魔王城の住人にどんどん好かれていった。あの人の人柄なのだろう。
義兄も義兄であるあの姉を嫁にとるなんて変人である…が優しいと思う。気さくだし。…見た目人間だし角生えてる以外。
「はぁ…」
しかし、周りが魔物だらけというのも、まだ慣れない…
魔王の力で獣のようなものから醜い姿をした異形のものまで多種多様な姿をした怪物であった魔物はみな人型になっている。
ドラゴンも昔のトカゲのような姿になる事も出来るが普段は羽としっぽと角の生えた人型である。
この状況にも慣れないとな…明日から自分以外全部魔物の学校だし…
「はぁ~…」
ため息が止まらない。
――翌日
「1年3組の新しい仲間のスガタくんよーみんな仲良くね」
と担任の魔物…ウサメ先生が言った。
「よ…よろしくお願いします」
緊張しすぎて声の出方が変であったがとりあいず言えた…良かった…
昼休み、教室は俺に質問してくる魔物と遠くから見ている魔物の二つに分かれた。まぁ勇者の弟だし、人間に恨みを持っている者もいるだろうと予想はしていた。
嵐のような昼休みを終え放課後。授業は半分くらいは人界と同じでついていけたが、残り半分は魔界特有のものでサッパリであった。
さ…て…これも少しは予想していたけど初日からか…
校舎裏で待っている。絶対に来い。
下駄箱に結構綺麗な字で書かれた手紙が入っていた。
喧嘩…だろうか、男の字とは思えない綺麗さだが…告白もないな人間に告白するなんて変わり者の魔物は魔王くらいしか…悩んでもしょうがない校舎裏に行こう。
「遅い…遅すぎるわ…」
校舎裏で待って30分…遅いまさか逃げたのかしら…
そんな事を考えていたら相手が来た。
「…キミがこの手紙の差出人?」
「えぇ…手紙に名前が書いてあったでしょう…」
「いや、書いてなかったけど…」
…書き忘れた―…いや、動揺しちゃダメ…冷静に冷静に…
「そっそんな事はどうでもいいの…勇者という種類の人間に私の母さまは殺されたわ…」
そう私の母さまは私をかばって…コロサレタ
人間なんてみんなコロシテ…
「そうか…ごめんなさい…僕一人の謝罪で済むとは思わないけど本当にごめんなさい…」
…人間はためらいもせず頭を下げ謝罪を口にした。
泣いて謝るまで痛めつけようと思ってたのに…
「そうか…ごめんなさい…僕一人の謝罪で済むとは思わないけど本当にごめんなさい…」
人間も魔物もなくこういった被害者がいるのはわかっていたし、どっちもどっちだと思っていた。
しかし目の前にいる、彼女の悲しみと憎しみのこもった言葉を聞いてつい頭を下げ謝ってしまった…
「…なんで謝るのよぅ…」
涙声が聞こえたので頭をあげると、コウモリのような羽を背中からはやして彼女が飛んで行くところだった…。
…名前すら聞けなかった…謝るのがいけなかったのだろうか…義兄さんに相談したら心配しなくていいと言われたが…女の子…いくら魔物とはいえ泣かせてしまったのは気になる。
その夜、僕は夢を見た。
金髪の少女と遊んでいる夢だ。僕は笑っている…とても楽しそうだ。…しかしこれは本当にあった事なのだろうか。僕には小さなころの一部の記憶がない。突然いなくなって突然帰って来たのだと母が死ぬ前に言っていた。
そのままその少女と楽しそうに遊んでいる自分を見ていたら、朝になり目が覚めた。
魔界での食事は色が変なこと以外はさほど変わらない。食事は義兄さんが作ってくれ、とてもおいしい。(魔王なのに家事全般が得意とか…できた夫である。尊敬する)
かなり余裕を持って家を出る。別に早く学校に行きたい訳ではないけど。ただ新婚さんの邪魔はしない…僕だって空気を読む。
道を歩いていると狐が横の草むらからあらわれた。義兄さんに渡された弁当に油揚げっぽいもの(紫色)の炒め物が入っていたのを思い出し試しに弁当のふたに乗せてあげてみる。
「コーン!!」
しっぽがフリフリ動いて嬉しそうである。なにかいい事をした気分になる。
そして狐は食べ終わると俺に背を向け顔をこちらに向け
「おいしかったの。ありがとうなの。」
と言って去っていった…。
失念していた、ここが魔界で普通の動物なんているはずがない事を…きっとあれは、稲荷とか言われる狐の妖怪の一種なのだろう…まぁいいか、いい事をしたのだから。
学校に着いたらすれ違った銀髪で褐色肌の小さい女の子に「おいしそう…ジュル」なんて言われた気がしたのは気のせいだと信じたい。
朝いい事をしたのだからいい事があってもいいと思うのだが…昼休み食べられた…正確には噛まれた。
昼休み量の減った弁当を食べ終え屋上で昼寝をしていたら右腕の痛みで目が覚めた。目が一瞬で覚め、起きあがり腕のあった方を見ると…
今朝おいしそうと言ってきた女の子がちょこんと座っていた。
「…むぅ…」
なんか不満全開でこちらを睨んできている。
「もっと食べさせろ…私の昼食…」
訳わかんない事言ってきているが、噛まれた所を見ると綺麗な歯型が付いていて少し血が出ていた。
「いやいや…痛いからいや…というか誰が昼食だよ…」
表情が変わらない…感情がわからない…
「オマエ匂いおいしそう…だから食べる…大丈夫血はまずい…次はうまくやる…」
ふっふっふ…ととてもかわいくない笑いをしながら口角が上がっただけのほぼ無表情で迫ってくる…正直とても怖い…
「いやいや…無理。」
思わず屋上のドアを開け階段を駆け下り女の子から逃げてしまった…いやしかし…怖かった。
義兄さんに相談したら、笑われた。やはり彼女の弟だ、よくモテるなぁと…そして明日から油揚げ(紫)を持っていくことになった。銀髪の女の子については図書室で調べてみたらどうだと言われた。
次の日も早めに家を出て、昨日と同じ所で待っていると茶髪の女の子が歩いてきた。マフガクの制服を着ている。
俺はおもむろに持ってきた油揚げを取ると、彼女の前に出してみた…面白いように油揚げに食い付くような視線を送っている。
「たべる?」
「うん、いただくの。」
とてもおいしそうな顔をして食べているのを見ると、やっぱりいい事をしている気になりなんだか嬉しくなる。
油揚げを食べ終えた女の子が話しかけてきた。
「なんでワタシが昨日の狐だってわかったの?」
「とりあいず、学校と反対に歩いてたし…しっぽがうっすらと見えたし…」
「えっ…ほんとなの…変化が失敗してるの…」
自分のしっぽを見てため息をついてる。
「油揚げ好きなの?」
「うん好きなのー毎日食べたいくらいなの―」
もう隠す気がなくなったのか、しっぽがフリフリと振られ耳が頭から生えていた。
「じゃあ明日からも持って来てあげるよ。」
「やたーありがとうなの、あ私カレンよろしくね。魔王のお嫁さんの弟のスガタ君」
「あぁうん、じゃあね。」
よく考えたら行くところは同じだったけど…まぁいいか。
昼休み、弁当を食べてから初めて図書室に行った。あの銀髪の女の子について調べるためである。案外早く種族に目星がついた。グール、昔は人肉や死肉を食べていて食人鬼と呼ばれていた魔物らしい。たぶん今もその名残で人間に噛みつきたくなるのだろうか…うーん…。
廊下を歩いてると、銀髪の少女がこちらに走ってきている。
そして僕の前まで来ると
「…昨日、迷惑かけた…すまなかった…」
お菓子を差し出して謝ってきた。結構しょんぼりとしている…すごく悪い事をした気がする…。別に噛まれるくらい少し血が出る程度なのだから…小声で
「少し噛む?」と言ってしまった。
「…いいのか?」
なんだその昨日の怖い笑みとは全く違う輝くような笑みは…
後悔がないかと言われれば嘘になるけどまぁしょうがない…屋上に行き黙って右腕を差し出す。
「…ではいただきます…」
彼女が大きな口を開けた時、僕はすげく歯並び綺麗だな…とか考えていた。そして右腕に鈍い痛みを感じる。…昨日と違って噛まれたという思いが広がる…。
行為は数分で終わった。昨日の宣言通りうまくやって腕から血は出ていなかった。歯型はくっきりあるけど。
「…おいしかった…わたしは幸福だ…」
まぁその幸せそうな表情が見れただけ良しとしよう…
「…名乗り忘れていた…クララ、よろしく…」
「あぁそうだね、スガタだよ。よろしく」
…一昨日からあの勇者の弟が頭から離れない。
これは…憎しみよ…そうよそうだわ…憎くてたんまらないから頭から離れないんだわ…
「副会長?」
「な…何かしら?アンリさん」
「考え事ですかー?手止まってましたけど?」
「大丈夫よ…っちょっと御手洗いいってくるわね」
憎いのよだから人間はコロス…
しまった…つい図書室で本を読んで時間を忘れていたもう日が暮れている…運動部ももういないし早く帰らなくては…
すると後ろからバサッっという音がしたかと思うと、僕はふっ飛んでいた…体当たりをされたのだ…。
「今日はもう日が暮れてるから、全力で戦えますわ…人間は全員殺ス。」
…一昨日の泣かせちゃった金髪の女の子が自分を殺しに来たー。何のドッキリですか…?
「うわぁぁ…」
低空飛行からの…体当たり、体当たり、体当たり…早いけど直線的だから何とか避けれる…
「避けるな―男なら正面から受けなさいよ。そしてシネ」
「すごく理不尽だ―でもどうしよう…」
…考えても解決策が思いつかない…
いい匂い…ニンゲンノニオイ…吸いたい…血が吸いたい…
「んっ…何なのよこれ…吸いたい?血を?」
自分の中でよくわからない衝動が出てきた…。これが吸血鬼の吸血衝動?…今までこんな事思ったこともなかったのになぜ。
いやっ…いや…血なんか吸いたくない…吸いたくないのに…意識が…。
さっきまですごかった彼女から殺意がなくなった…僕にはすごく不気味で怖いと思う…
「はぁ…はぁ…」
全力疾走のしすぎで息が上がっている。
血が吸いたいとか言ってるから吸血鬼―ヴァンパイヤと呼ばれる種族なのだろう頭で考える。
しかしながらニンニクや十字架を都合よくは持ってないし、
すると彼女の姿が一瞬ぶれたかと思うと首筋に鈍い痛みを感じた
一瞬意識が飛んでいたようだ気がつくと、勇者の弟の血を吸っていた…甘くて、おいしい…でも私はこの味を知っている…今まで人間の血なんて飲んだ事はないはずなのに…
血が吸われてるからだろうか…妙に体に力が入らなくて目蓋が重い…ここで寝たらいけないのはわかっているのだけど…
ふと…首筋に噛みついている彼女の髪を見る…そういえば夢で見た金髪の少女の髪もこんな色だったな…とふと思った。
…そういえば昔の私は怪我の治療法はつばをつけることだと思っていた。だから友達がけがをすると舐めていた…。
私が小さな頃突然現れ友達になった少年がいた…突然消えてしまったけど。そういえば…あの時も…血が甘いと思った…
父さまから人間の血をもらい飲んだ時は一度も甘いとは思わなかった…。そういえば、あの少年も茶髪が入った金髪でプリンみたいな髪をしていた…
首筋から牙を抜き、私は言葉を紡ぐ
「すーちゃん?」
すーちゃん…僕がある一人からつけられたあだ名…それを知ってるのは…
「あーちゃん…?」
…昔、自分の家が全てだった私のはじめての友達…ある日突然そこにいて、ある日突然いなくなった私の友達…あなたを探すために私は外の世界を知った。あなたともう一度話すために探した。ただあなたに謝りたくて…。
「すーちゃん!…すーちゃん!?」
あぁ…そっか、僕の怪我を舐めて吸血鬼化したんだ…あの時…僕は優しそうだった彼女が変わったことに驚いて、恐怖した。家に帰りたいと念じていたら家の前にいた…。
…血を吸われ過ぎたかな…意識がぼーっとしてきた…義兄さんだったらどうにかできるだろうか…
突然、すーちゃんの体が淡い光に包まれる…!!私はこれを知っている。小さい頃のすーちゃんが光り出した時私は驚いて手を離してしまった…そして消えて合えなくなった…
「いや…まだ私は謝ってない…小さい時のことも一昨日のことも今日のことも…手を離さない…同じ過ちは繰り返さない」
その後、義兄さんのおかげで一命を取り留めた僕は、あーちゃんことアリスに殺しちゃったかと思った…とわんわん泣かれて…久しぶりの再会を喜んだ。
その後の僕の日常は一変する…
「わぁ~今日の油揚げもおいしそうなの―」
しっぽをフリフリ動かしてカレンは今日も嬉しそうだ。
「スガタは私のものだふっふっふ…」
「すーちゃんは渡さないわよ!!」
クララとアリスが僕を挟んで口論している…クララはあの怖い笑みだし、アリスも怖い方なので居心地はよくない…くわえて、周りの視線が痛い…美女三人をはべらしてる男だとか、副会長は弱みを握られてるとか、あの油揚げは惚れ薬入りとか、流石魔王の嫁の弟…といらぬ名声まで得てしまった。
「…スガタはこの肉の味わいがいい」
「血よ…甘いのよすーちゃんの血は」
「おいしいものなら私にも一口くださいなの―」
…いつか僕は彼女たちに跡形もなく食われるんじゃないかと思う。
ため息しか出ない…
登場人物について
魔王の嫁の弟 スガタ
物心付いたころには両親がいなかったので姉からの教育で女の子に優しい
(本人は当たり前だと思ってる)
最近は学校の男に羨望と嫉妬の入り混じった視線を向けられている
髪は金髪に染めているが怠けて地毛の茶髪が出て来てプリン頭がほとんどである
ちなみにワープ能力あり(アリスの家の近くに来たのも帰ったのもコレ)
最近少し自分の意思でつかえるようになってきた
稲荷 カレン
稲荷は変化の術で狐の部分を隠しているがこの子はだるいので結構隠れてない
油揚げラブ、スガタにも興味深々だがまだ恋ではない 黒髪、
グール クララ
噛み癖あり、表情の変化が乏しかったが最近は笑顔が見えるように
スガタをはむはむするのが好き、スガタから離れたくない 銀髪
ヴァンパイヤ アリス
昔、スガタと一緒にいた時期がある。
意外とドジっ子、ちなみに母親は連絡を受けた魔王が後日魔力を与えたら回復、大怪我による治療のため魔力作る眠りについていただけでした。
スガタラブ、ついでに血もラブ、変な虫が付いてて除去に邁進。
勇者の旦那 魔王
家事も恋愛もどんと来いのナイスガイ
趣味は読書 好きなものは嫁
魔王の嫁 勇者(姉)
家事は出来るが魔王のが上手い
腕っ節は強く、一人で魔王城に乗り込んでいったスーパーマン
しかし魔王とお互い一目惚れの運命の恋
弟の相談相手を旦那に取られていじけてたら子供出来た。
とまぁ息抜きに書いたらやたらと長くなってしまった。
キャラの説明あとがきにいっぱいだし作品としてクオリティ低いかなww
まぁ適当に読んでくだされば幸いです。