28話 死力を尽くした総力戦。
28話 死力を尽くした総力戦。
ゼブル隊の生き残りが、悲鳴をあげながら、ばらばらに逃げ戻ってくる。
門の中に消えた大隊は、いまだ、ほとんど戻ってこない。
ロスは、奥歯をかみしめた。
「……いったん、退却! 全軍、国境まで下がりなさい!」
★
国境の石柱のそば。
急ごしらえの天幕で、軍議が開かれていた。
「石垣を登れば、上から撃たれる。登りきれば、背後から斬られる」
「魔法は障壁に弾かれる……いったい、どうしろと……」
(王鬼流星は、あと一発……障壁がある限り、撃っても無駄……)
その時、末席の参謀が、おそるおそる口を開いた。
「……恐れながら、皇子。あの城の守りは、すべて堀があってこそ。……ならば、堀を、埋めてしまってはいかがでしょうか」
ロスは、見取り図の上の堀を、指先でなぞった。
「……向こうが一人殺すあいだに、こちらは100人で土を運べる。……その作戦でいきましょう」
顔を上げる。
「土魔法の使い手は、後方で地面を掘り起こしなさい。盾兵と防御魔法の使い手は、堀へ向かう兵とともに進み、その頭上を守りなさい。残りは土を運ぶ。それと……死体も、使いなさい」
天幕の空気が、凍った。
「堀に浮かんでいる者も、すべてです。土の代わりにはなるでしょう」
★
再び、角笛が鳴った。
今度の兵たちは、雄叫びをあげなかった。
無言のまま、堀へ向かって進んでいく。
「大地隆起ランク4!」
後方で、平原の土が、次々と盛り上がる。
兵たちは、それを抱えて、堀へと運んでいく。
「鉄壁結界ランク6!」
光の天蓋が、兵たちの頭上に何重にも広がる。
その下で、何万という兵が、土を、兜を、そして仲間の死体を、次々と堀へ投げ込んでいく。
石垣の上で、センが叫んだ。
「げっ! 堀を埋める気か! 全員で止めろぉ!」
手裏剣とクナイの雨が降りそそぐ。
結界は、割れても割れても張り直される。
それでも、隙間を縫った刃が、兵の首を裂く。
倒れた兵は、そのまま、堀を埋める土の一部になった。
「くそっ! 数が多すぎる! 止めきれねぇ!」
★
日が、西の空を赤く染め始めたころ。
「堀、埋まりましたぁ!」
その瞬間。
城を包んでいた光の膜が、ゆらりと揺らぎ、
ふっと、ろうそくの火を吹き消すように、消えた。
(……障壁が、消えた……?)
理由は、どうでもよかった。
「全軍、城から離れなさい!」
ロスは、左手を、天へと掲げた。
残っていた最後の魔力を、すべてかき集める。
「王鬼流星ランク9!!」
――空が、赤く裂けた。
炎をまとった岩の塊が、城へと降りそそぐ。
今度は、何にも阻まれなかった。
塔の屋根が砕け、
白い壁が突き破られ、
石垣が、根元からえぐり取られる。
崩れ落ちる城は、淡い光の粒となって、空へと溶けていった。
「……さあ、ここからが、本当の戦争です」
ロスは、25万の兵へ向けて、声を張り上げた。
「全軍、突撃!! セファイラの者は、一人残らず殺しなさい!!」
★
崩れ落ちてくる石の塊は、センたちの体に触れる寸前で、光の粒になって消えていった。
(ま、マジかよ……堀を埋められたら、障壁が消えるのか……くそが……)
気づけば、センたちは、無傷のまま、平原の上に立っていた。
(スキルで出した城だから、崩れても味方は傷つけない、ってことか。そこはありがたいが……)
遠くで、角笛が鳴る。
地平を埋め尽くす黒い波が、こちらへ押し寄せてきていた。
「セン!」
土煙の中から、ミシャが駆け寄ってくる。
「ここからは、野戦になる!」
「わかってますよ、姫」
言いながら、センは心の中で、
(ロスは、隕石を二発撃った。もう魔力は空っぽのはず……けど、この数は……)
★
夕日の中で、乱戦が始まった。
分身が、敵の群れに飛び込み、クナイと手裏剣が、四方へ飛び交う。
忍術は、デカールの一般兵を圧倒していた。
だが、数が、違いすぎた。
「ぐぁっ!」
「すまん、姫様……っ」
一人、また一人と、忍者兵が倒れていく。
少し離れた場所で、シグレの分身が、次々と煙になって消えていく。
「シグレぇ! まだいけるか!?」
「もう……無理……チャクラが……――ぁあっ!」
最後の分身が消えた瞬間、四方から突き出された槍が、シグレの体を貫いた。
「っ……!」
センは、奥歯をかみしめ、雷呪クナイを投げ続ける。
敵は確かに減っている。
だが、それ以上の速さで、味方が減っていく。
日が、地平線に沈みかけたころ。
センの周りに立っているのは、もう、ミシャだけになっていた。
背中合わせ。
お互いの荒い息が、背中越しに伝わってくる。
「はぁ……はぁ……セン……まだ、やれる……?」
「……もう無理なんで、帰っていいっすか?」
足元には、セファイラの兵たちの亡骸。
それを、まだ23万人以上残っているデカール兵が、ぐるりと取り囲んでいた。
見渡しながら、センは、
(……みんな……悪いけど、もうひと働き頼むぜ)
右手を開き、
(来い……日本刀千本桜……っ!!)
ずしりとした重みが、生まれた。
桜の刃紋が、沈みかけた夕日を受けて、淡く光っていた。
センは、刀を、天へと掲げた。
(よみがえれ……まだ、仕事は残っている!! 自分の国は自分で守れ!!)
――戦場のあちこちで、動く影があった。
倒れていた兵たちの指が、ぴくりと動く。
斬り裂かれた傷口が、みるみるふさがっていく。
一人、また一人と、セファイラの兵たちが、起き上がってくる。
その手には、桜の刃紋が浮かぶ日本刀。
ミシャの手にも、同じ刀が握られていた。
ミシャは首をかしげて、
「……また、この剣か……いったい、これはなんなんだ……」
などとつぶやいていると、
周囲を取り囲むデカール兵たちの間に、どよめきが走った。
「し、死んだはずの連中が……」
「生き返った……だと……?」
相手の困惑をチャンスと見たセンは、
刀を構えたまま、声を張り上げた。
「全員、聞けぇ!」
起き上がったばかりの兵たちが、一斉に、センを見る。
「このまま雑兵を相手にしてても、きりがねぇ! 狙うのは、ロス一人だ!」
センは、刀の切っ先を、国境の本陣へと向けた。
「将軍クラスは、レベルが爆上がりした姫様に無理してもらえば、殺しきれる可能性がある! ロスさえ死ねば、勝機はゼロじゃない!」
「「「「「おおおおお!!」」」」」
1000の雄叫びが、夕暮れの戦場に響き渡った。




