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24.幸せにくらしましたとさ


 季節が流れ、周囲を囲む深い森には白い雪が積もり、溶け。それを何度か繰り返した。

 そして。



「で、できた! できました、ミオさん! どうですか」


 期待に目を光らせて、ビェナは作り上げたものを掲げた。椅子に座っているミオの前に持っていくと、それをミオの前の机に置き、手を組んで感想を待つ。

 ミオはしばらくそれを眺めて言った。


「よくできている。ビェナは本当に器用だ」

「ありがとうございます。どうでしょう、喜んでくれると思いますか」

「きっと。でも、根を詰めすぎては体に障ってしまう。少し休もう」

「でも、よく出来たなら……これを次の訪問まで少しでも多く作らないと」


 また作業に戻ろうとしたところを、ミオによって止められた。そのまま抱えあげられて部屋を移動すると、問答無用で椅子に座らされる。

 ちゃんとしたクッションつきのふかふかの椅子だ。

 ビェナがさっきまで座っていた作業用の木の椅子なんて目ではない。ミオが資金をためて、ピヤシェ卿のおすすめを買ったときのものだった。

 横には丸いツヤツヤとした小さな丸テーブルがあり、ここだけ上流階級みたいな空間になっていた。ビェナに割り当てられた部屋なのに、結構ミオの物に侵食されていると思ってしまった。


「ビェナ」

「はあい」


 余計なことを考えたのがバレたかと思って、行儀よく返事する。

 すっと流れるように毛織物のひざ掛けと、湯気の立つ暖かなお茶が入ったカップを持たされた。


「アベイユ婦人やセネカ婦人に無茶をしたと知られれば、怒られてしまうよ」


 口に出された名前に、思わず身をすくませた。どちらも優しい人物だが、締めるべきところはしっかり口にする。

 とくにセネカは、ミオの次によくしてくれる。

 きっかけとなった魔法の革袋はもう魔法が解けてしまった。それでも、差し出した気持ちが嬉しかったからと、今もなにくれと気にかけてくれるのだ。


「それは、そうなんですが」


 カップに口を付ける。凝っていた体がほぐれていくような、ほっとした心地がした。

 ミオはビェナがちゃんと休みだしたことを確認すると、机に置かれた物を手に取って戻ってきた。


「これは似ていないけど、いいの?」


 男の子の人形と女の子の人形。それぞれ布でできていて、刺繍で出来た目が印象的な代物だ。

 似ていないというのは、それはそうだ。そのつもりで作ったわけではない。

 ビェナは「いいんです」と答えた。


「だって、あの二人は私だけの二人なので」

「では私は駄目か」

「ミオさんは……いいです」


 ちら、と部屋に丁重に飾っている木偶人形をビェナは見た。あれから劣化もしたが、慣れない手つきで直しては今も大事に扱っている。

 カップの縁を撫でて、気恥ずかしさをごまかしてみるがうまくいかなかった。ビェナは、頬の赤さも温まったためだと誤魔化すように、飲み干した。


「ごちそうさまでした」


 カップを机にさげ、立ち上がろうとして失敗した。ミオが肩を抑えて邪魔をしたのだ。丸テーブルにはいつのまにか人形が寄り添うように置かれていた。


「もう、ミオさん」

「貴方の作業を見るのは好きだけど、放っておかれるのは好きじゃない」

「う、すみません」


 ビェナは言いながら、次に言われることを予想した。なんとなくわかるのだ。

 顔はすっかり元通りの、それはそれは美しい顔のままでも。心を映す魔法がかかっていなくても、わかる。

 ミオの瞳が楽しそうに笑っている。

 前に回ってきて、膝を折り曲げてビェナと視線の高さを合わせる。じっと見つめて、ミオは言った。


「半分嘘だ。そう言われて困る姿が見たかった」

「ミオさんは、色々正直に言い過ぎです」

「ビェナになら言葉で包み隠さず言いたいだけなんだ。彼らを見習って……駄目だった?」


 ミオは、しゅんとした様子を見せる。もちろん確信犯だとビェナはわかっている。それでも、しょうがないと言う選択肢しかない。

 いつかの、記憶に深く残る二人の姿と言葉を思い返してそうっと答えた。


「駄目じゃないです。いいですよ」


 その言葉に、ミオは嬉しそうに微笑んだ。

 ビェナを抱え上げると、くるりと人形たちに見せびらかすように周り、抱きしめてキスをした。

 額を合わせ互いの目と目で見合いながら、どちらともなく笑い声を上げた。





***




 長い長い月日の前。その昔。

 南の地に、慈善の教会というものがありました。

 深い森に囲まれたそこには、はぐれものや変わり者、しかし心の優しい者が数多く集まっていたといいます。


 あるとき、そんな教会からより良い活動を求め動いた者たちがいました。とある若い男女を筆頭に、活躍は実り新たに一つ拠点が増えました。

 今でいいますと、このペンディス地方の一部、ラタリアです。当時のペンディス領主らの助力によってできた拠点は、南の慈善の教会から人を招いて長く栄えたそうです。


 その教会では、教義の通り心身の健康を図るのはもちろん、孤児の支援を熱心に行い、寄り添いました。

 時に、奉仕作業とうたって詩歌や学問の教育をし、繕い物で技術を身に着けさせました。繕い物には、必ず一対の愛らしい人形が課題に出たといいます。


 その教会出身者は、誰もが持つ人形。

 不思議とその人形を持つ者たちは、誰かに見守られているような心地になり、後生大事に扱ったというのです。


 今もなお、その人形作りは受け継がれ、その地の民に深く愛されています。

 魔法の縫い針と称される伝統的な繕い道具で、心をこめてそれぞれ一対の人形をあつらえるのです。


 もしその地域へ旅に出て、可愛い男の子と女の子の人形を見つけたなら。

 それはきっと、あなたを愛する家族のように見守ってくれる人形なのです。










めでたし、めでたし。


これにてこの物語は閉じさせていただきます。

ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました!


実はこのお話、自立とお別れに優しい肯定をする、というテーマをこそっと掲げておりました。

そう感じていただけたなら。そうでなくても、彼らの旅路を楽しく思っていただけたなら。それだけで嬉しいです。


次のページは、話を書くにあたり読んだ図書と、この要素いいなと取り入れて散りばめることになった話の紹介です。

もしよろしければ、ご覧になって図書館などで本を手に取ってみてくださいね。

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― 新着の感想 ―
完結お疲れ様でした!! 毎日とっても楽しく追いかけさせていただきました。 エンディングを迎えてのイラストも拝見して参りました。ラストシーンにぴったりです。あったかくて…… ああ、顔が最上級にいい元王子…
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