木下老女髪変化記録(平成5年7月21日)
【極秘】秘匿葬送記録:玖ノ巻
報告書番号: 平成05-07-21-009
作成日時: 平成5年7月22日 午前1時40分
報告者: 広島県呉市 浄土寺 住職 佐藤 弘之(花押)
事案名: 木下老女髪変化記録
一、事案発生日時・場所
日時: 平成5年7月20日 午後7時00分頃(通夜開始時)より、翌21日 午後1時30分頃(出棺完了時)まで断続的に発生。
場所: 浄土寺斎場(通夜・告別式会場)。
二、故人情報
氏名: 木下 富子
享年: 85歳
死因: 老衰。
特記事項: 生前は、手入れの行き届いた豊かな黒髪が特徴的な人物であった。晩年もその髪の色は失われず、近所でも評判だった。
三、事案の概要(時系列順)
7月20日 午後3時00分頃: 木下家より葬儀の依頼を受ける。故人の穏やかな人柄から、静かな葬儀となる予定であった。当寺より住職 佐藤 弘之が担当。
7月20日 午後7時00分頃(通夜開式): 斎場にて通夜が始まる。読経中、故人の遺体(顔のみ露出)の頭部から、微かに焦げたような異臭が漂い始めた。しかし、周囲に火気はなく、原因は不明。臭いは断続的に続き、参列者の間でざわめきが起こった。
7月20日 午後9時00分頃: 通夜振る舞いの最中、故人の遺影(生前の写真)の髪の色が、徐々に白く変化し始めた。最初は気のせいかと思われたが、数十分の間に、生前の黒々とした髪が、まるで一夜にして真っ白になったかのように変色した。参列者は恐怖を感じ、遺影から視線を逸らそうとした。
7月21日 午前0時00分頃: 佐藤住職が故人の傍らで夜伽を行う。静寂の中、故人の遺体の髪の毛が、まるで生きているかのように微かにうごめいているのを感じた。その動きは、まるで故人が自らの意思で髪を梳いているかのような、繊細なものであった。同時に、遺体の口元から、微かな「チリチリ」という音が聞こえ、それはまるで髪が焼けるような音に酷似していた。
7月21日 午前8時00分頃(告別式開始): 告別式が始まる。読経中、故人の遺体から、さらに強い焦げたような臭気が立ち込めた。そして、故人の髪が、みるみるうちに縮れ、炭のように黒く変色していくのが、参列者の目にも明らかになった。その際、遺体の髪の根元から、微かに湯気のようなものが立ち上るのが見えたという報告も複数あった。
7月21日 午前10時30分頃(出棺): 棺を霊柩車へ運ぶ際、故人の遺体が安置された棺が、まるで中に何かが張り付いているかのように、異常な摩擦音を立てた。運搬担当者数名が、棺の底から微かに髪の毛のようなものが突き出しているのを目撃した。それは故人の髪の一部かと思われたが、触れると焦げ付いたような感触であったという。
7月21日 午後1時30分頃(出棺完了): 火葬場に到着し、火葬の準備を進める際、故人の遺体を取り出したところ、頭部の髪の毛がほぼすべて炭化し、頭皮に張り付くような状態になっていた。そして、棺の底には、黒く焦げ付いた髪の塊が固着しており、それは故人の髪の量とは不釣り合いなほど、大量であった。その塊からは、わずかに生臭い、しかし焦げ付いたような奇妙な臭いが残っていた。
四、特異な点と考察
故人の特徴であった「黒髪」が、怪異の中心となっている点。髪は古くから生命力や怨念が宿るとされてきた。その髪が死後、不自然な変質を遂げたのは、故人の魂が安らかでないことを示唆している。
「焦げたような異臭」「髪の白化と炭化」「チリチリという音」「湯気」など、「熱」や「燃焼」を思わせる現象が多発している。これは、故人の髪に、あるいは故人の魂に、何らかの強い負の感情やエネルギーが集中し、それが物理的な現象として現れたものか。
遺体が安置された棺の底に、故人の髪とは不釣り合いなほどの「髪の塊」が残されていた点。これは、故人以外の何らかの存在が、髪を媒介として現世に干渉した可能性、あるいは故人の髪にまつわる過去の因縁が、死後に顕在化したことを示唆する。
怪異が、故人の身体、特に髪という身体の一部に集中して発生している。これは、故人の生前の特定の体験や感情が、直接的に髪に影響を与えている可能性を示唆。例えば、生前の強い後悔や憤りが、髪という形で発露したのかもしれない。
五、対処・対策
事案発生中、佐藤住職は故人の髪の異常な変化に驚きながらも、動揺する参列者を鎮め、故人の魂が安らぎを得られるよう、一心に読経を続けた。
事案後、木下家に対し、特別な供養を提案。特に、故人の髪にまつわる過去の出来事や、生前の未練について詳しく聞き取り、それに応じた供養を行うことの重要性を説いた。棺に残された焦げ付いた髪の塊は、丁重に供養した。
今後、故人の身体の一部、特に外見上の特徴(髪、肌、目など)に強い執着や関連性がある場合、より入念な浄めの儀式を検討し、故人の魂がその執着から解放されるよう努める必要がある。
六、付記
本件は、故人の身体的特徴である「髪」に、強い負のエネルギーが集中し、物理的な変質を伴う怪異として発現した極めて異例の事例である。
特に、「焦げ付く」という現象が、故人の魂の苦しみや、あるいは生前の抑圧された感情を象徴している可能性がある。
この記録は、人間の身体と魂の深い繋がり、そして死後も残る未練が、どのような形で現れるかを示す貴重な資料として、今後の参考に供する。
【検閲追記】
「熱」を伴う珍しい事例だが、「湯気」の発生を看過すべきではない。
高湿度下におけるエネルギーの異常発露か。
あるいは、"水"による浄化への抵抗か。