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秘匿葬送記録  作者: 月影 朔


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第三十七話:家族の証言

 「空白の記録」は、続く。

警察が合理的な動機を見つけ出そうとすればするほど、事件はその論理の網の目をすり抜けていく。

そして、その向こう側に残された家族たちの悲痛な証言の中にこそ、この事件の本当の異様さが記録されている。


【警視庁捜査一課・重要参考人聴取録(事件番号:東大-2023-884)より抜粋】

被聴取者: 高木正一(死亡した高木健司の父親) 聴取担当官: 警部補 村上、巡査部長 斎藤

村上: ……息子さん、健司さんのご様子がおかしいと感じ始めたのは、いつ頃からですか。

高木: ……あの、合宿とかいう旅行から帰ってきてからです。 あの子は昔から真面目で、責任感の強い子でした。まとめ役である佐伯さんをいつも心配して、彼女が無茶をしないように見守っているような、そんな男でした。 ……だから、あの子があんな何かに怯えるようになってしまったのが、信じられなくて……。

斎藤: 具体的には、どのようなご様子で?

高木: まず、大学に行かなくなりました。部屋に鍵をかけて閉じこもるようになったんです。食事もほとんど摂らない。 心配して部屋の戸を叩いても、「入ってくるな!」と獣のような声で怒鳴るだけで……。

一度だけ、無理やりドアを開けたことがあるんです。 そうしたら……部屋のありとあらゆる隙間が、粘着テープで目張りされていました。窓も換気扇も、ドアの下の隙間さえも。

村上: それは、誰かが侵入してくるのを恐れていた、と?

高木: ……いえ。あの子が言っていたのは……「水が、入ってくる」と……。 水道の水も飲まなくなりました。ペットボトルの水しか口にしない。風呂にも何日も入らない。 まるで水という水全てを、この世の何よりも恐れているという様子でした。

……そして、最後に電話で話した時……あいつは泣きながら、こう言ったんです。 「美月が、『雨濡うだれ』なんだ。あいつが、俺たちを呼びに来る」と……。 「うだれ」……? 何のことかさっぱりわかりません。ですが、あの子は確かにそう言っていました。 あれはもう、私の知っている息子の声ではありませんでした。


【警視庁捜査一課・重要参考人聴取録(事件番号:東大-2023-884)より抜粋】

被聴取者: 安達佳代(死亡した安達宏の母親) 聴取担当官: 警部補 村上、巡査部長 斎藤

村上: ……宏さんは、何か悩んでいるような様子はありませんでしたか。

安達: ……あの子は昔から口数の少ない子でしたから……。自分の気持ちを言葉にするのが苦手で。 その代わりにいつも写真機を持ち歩いて……。写真が、あの子の言葉だったんだと思います。

……でも、あの旅行から帰ってきてから……あの子は一度も写真機に触ろうとはしませんでした。 それどころか……。

斎藤: ……それどころか?

安達: ある日、あの子の部屋から何かを叩き壊すようなすごい音が聞こえて……。 慌てて駆けつけると、あの子は金槌で自分の写真機と、パソコンの記憶装置……?とかいうのを、粉々になるまで叩き壊していたんです。 その時のあの子の顔……。まるで何かに憑かれたみたいに、恐ろしい顔でした。

村上: 何か言っていましたか。

安達: ……はい。 私が声をかけると、はっと我に返ったようにこちらを見て……そして泣きながら、こう言いました。 「見ちゃいけないんだ。レンズの向こう側から、ずっと見てるんだ。目が合ったらダメなんだ」って……。

その後、あの子は自分の部屋の壁に黒いペンで、何か気味の悪い絵をたくさん描くようになりました。 水の中に沈んでいる人の絵です。みんな、同じ虚ろな目をしていて……。


【警視庁捜査一課・重要参考人聴取録(事件番号:東大-2023-884)より抜粋】

被聴取者: 佐伯佳子(行方不明の佐伯美月の母親) 聴取担当官: 警部補 村上、巡査部長 斎藤

村上: ……お嬢さん、美月さんが最後に家を出られる前の様子を教えていただけますか。

佐伯: ……あの子は、あの合宿から帰ってきてからずっと何かに怯えていました。 まとめ役としてみんなを危険な目に遭わせてしまったんだって、自分を責めて……。 部屋の湿気がひどいと言って、除湿機を買い足したりもしていました。

私も一度、あの子のマンションに行ったんですが……本当に異常でした。 真夏なのに、部屋の中がまるで洞窟の中みたいにひんやりと湿っていて……壁には黒いカビが血管みたいに広がって……。あの、独特の土の匂い……。

斎藤: 最後に、お話をされたのは?

佐伯: ……いなくなる前日の夜です。電話がかかってきて……。 でも、もう普通の会話にはなりませんでした。あの子はただ泣きながら、「ごめんなさい、私のせいなの」って繰り返すばかりで……。

村上: 何か、具体的なことは言っていませんでしたか。

佐伯: ……はい。一度だけ、はっきりこう言いました。 「水の中から声が聞こえるの。みんなの声が。拓也くんも由香ちゃんも、みんな私を呼んでる。一緒に行こうって……」と。

(嗚咽)

……あの子は、家出したんじゃありません。逃げたんだとも思いません。 警察の方は集団自殺だっておっしゃいますけど……違うんです。

あの子は……あの子たちは……何か得体の知れないものに、「連れて行かれて」しまったんです! どうか、娘を……美月を探してください……! お願い、します……!

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