島田家人形蔵開帳記録(昭和63年4月18日)
【極秘】秘匿葬送記録:漆ノ巻
報告書番号: 昭和63-04-18-010
作成日時: 昭和63年4月19日 午前1時40分
報告者: 京都府京都市 浄土寺 住職 佐藤 弘之(花押)
事案名: 島田家人形蔵開帳記録
一、事案発生日時・場所
日時: 昭和63年4月17日 午後5時00分頃(通夜開式時)より、翌18日 午後1時30分頃(火葬完了時)まで断続的に発生。
場所: 故人宅(京都市内の旧家)、並びに浄土寺本堂(告別式会場)。
二、故人情報
氏名: 島田 千代
享年: 92歳
死因: 老衰。
特記事項: 代々続く旧家の当主。生前は人形収集が趣味で、特に年代物の日本人形を多数所蔵していた。自宅には「人形蔵」と呼ばれる離れがあり、そこに人形が保管されていた。身寄りは孫が一人。
三、事案の概要(時系列順)
4月17日 午後2時00分頃: 孫より葬儀の依頼。故人宅は歴史を感じさせる趣ある建物であったが、庭の一角に建つ「人形蔵」の異様な雰囲気が気になった。当寺より住職 佐藤 弘之が担当。
4月17日 午後5時00分頃(通夜開式): 故人宅にて通夜開始。読経中、通夜会場となっている居間とは離れた位置にある人形蔵の方から、微かに鈴のような音が聞こえてくるのを佐藤住職が確認。音は規則的ではなく、不意に鳴り、すぐに止まることを繰り返した。
4月17日 午後8時30分頃: 通夜振る舞いの最中、故人の孫が「祖母が大切にしていた人形を見せてあげたい」と言い出し、人形蔵の扉を開けた。その瞬間、蔵の中から強烈な生花の腐敗臭が流れ出し、参列者一同が顔をしかめた。蔵の内部は薄暗く、無数の人形が棚に並べられていたが、その瞳がまるで一斉にこちらを見つめているかのように感じられた。
4月18日 午前0時00分頃: 佐藤住職が故人の傍らで夜伽を行う。静寂の中、人形蔵の方から、微かな「話し声」のようなものが聞こえ始めた。声は子供のそれと老女の声が混じり合ったようなもので、何を言っているのか聞き取れない。その声に呼応するように、故人の遺体の口元が微かに動き、何かを囁いているかのように見えた。
4月18日 午前8時00分頃(告別式開始): 浄土寺本堂にて告別式。読経中、故人の棺の上に供えられていた生花が、急速に枯れ始め、数分と経たずに真っ黒に変色し、異臭を放ち始めた。この現象を目撃した参列者たちが動揺し、ざわめきが起こった。
4月18日 午前10時30分頃(出棺): 棺を霊柩車へ運ぶ際、故人の孫が「人形蔵の鍵がない」と騒ぎ始めた。鍵は故人の形見として預かっていたはずだという。捜索の結果、鍵は棺の底、故人の頭部に近い位置で発見された。鍵はひどく錆びつき、まるで長い間水に浸かっていたかのように湿っていた。
4月18日 午後1時30分頃(火葬完了): 火葬が完了し、骨上げを終える。寺に戻り、改めて人形蔵を訪れた際、蔵の内部の壁や天井に、無数の小さな手形が泥のように付着しているのを発見。手形はどれも子供のもので、指先には土のようなものがこびりついていた。蔵の床には、まるで足跡のように、湿った土の跡が点々と残されていた。
四、特異な点と考察
故人の人形収集という趣味が、怪異の中心にある可能性。人形は古来より、魂の依代となりうるとされる。特に、人形蔵という閉鎖された空間に多数の人形が集められていたことが、怪異を増幅させたか。
「鈴の音」「話し声」「口元の動き」は、人形に宿る、あるいは蔵に集められた複数の魂が、故人の死を機に活動を始めたことを示唆。
生花の「腐敗」や「変色」は、蔵から放たれた負のエネルギーが、物理的な影響を与えた証拠。生命力が吸い取られたかのようである。
棺の底から発見された錆びた鍵の湿り気、そして蔵に残された「泥のような手形」と「湿った土の跡」は、この怪異に「土」や「泥」が何らかの形で関わっていることを示唆している。人形が土から作られていることとの関連性も考慮すべきか。
怪異が、故人の死後も人形蔵に強く残存し、さらに蔵の外部にまで影響を及ぼしている。これは、供養だけでは解決しきれない、より根深い問題があることを示唆。
五、対処・対策
事案発生中、佐藤住職は異常な状況に動揺しつつも、読経を続け、故人及び人形たちの魂の鎮魂に努めた。
事案後、人形蔵内の全ての人形を当寺で引き取り、丁重に供養を行った。特に念の強い人形については、特別な浄めと封印を施した。人形蔵自体は、当面の間封鎖し、蔵内の徹底的な清掃と浄化を行うことを孫に助言した。
今後、人形など、特定の物品に魂が宿りやすいとされる遺品がある場合、通常の葬儀とは異なる、より専門的な供養と処置が必要であることを再認識する。
六、付記
本件は、故人の死因とは無関係に、長年収集された「人形」という特定の遺品が怪異の媒体となり、さらにその場所が怪異を増幅させた極めて異質な事例である。
人形蔵に集められた魂たちの怨嗟や、あるいは故人の人形への異常な執着が、死を機に顕現したと判断される。
特に「土」や「泥」を伴う現象との関連性は未だ不明であり、今後の類似事案発生時の参考に供する。
【検閲追記】
「湿った鍵」「泥の手形」は重要参考。
人形そのものより、蔵の"土"と"湿気"が怪異の本体である可能性を考慮せよ。