藤野家「写真の目」怪異報告(平成元年8月20日)
【極秘】秘匿葬送記録:伍ノ巻
報告書番号: 平成元-08-20-007
作成日時: 平成元年8月21日 午前0時55分
報告者: 大阪府泉佐野市 宝樹院 住職 伊藤 善光(花押)
事案名: 藤野家「写真の目」怪異報告
一、事案発生日時・場所
日時: 平成元年8月19日 午後7時00分頃(通夜開式時)より、翌20日 午後1時00分頃(出棺完了時)まで。
場所: 宝樹院斎場(通夜・告別式会場)。
二、故人情報
氏名: 藤野 浩二
享年: 55歳
死因: 事故死(仕事中の転落事故)。
特記事項: 会社員。生前は仕事熱心で、特に趣味もなく、家族との時間もあまり取らなかった。唯一、カメラが趣味で、風景写真を撮るのが好きだったという。
三、事案の概要(時系列順)
8月19日 午後3時00分頃: 藤野家より葬儀の依頼。突然の事故死のため、遺族の悲嘆は深い。当寺より住職 伊藤 善光が担当。
8月19日 午後7時00分頃(通夜開式): 斎場にて通夜開始。読経中、故人の遺影(生前の風景写真)の目の部分が、まるで生きているかのように、わずかに動いたと複数の参列者が証言。視線が、特定の方向(斎場の入り口付近)を執拗に見つめているようだったという。伊藤住職も視線の動きを微かに感じた。
8月19日 午後9時00分頃: 通夜振る舞いの最中、遺影の目が、まるで涙を流しているかのように、写真表面が濡れて光沢を帯びた。しかし、触れても濡れておらず、拭いても光沢は消えなかった。この際、会場の気温が急激に低下したという報告が複数あった。
8月20日 午前0時00分頃: 伊藤住職が故人の傍らで夜伽を行う。静寂の中、遺影の目から、まるで水滴が滴り落ちるかのような「ポタリ、ポタリ」という音が聞こえ始めた。周囲には誰もいないはずなのに、その音が明らかに聞こえる。
8月20日 午前8時00分頃(告別式開始): 告別式が始まる。読経中、遺影の目の焦点が合わなくなり、瞳孔が不自然に拡大・収縮を繰り返す。その目は、まるで何かを必死に探しているかのように、あるいは何かを訴えかけているかのように見えた。参列者の間で動揺が広がる。
8月20日 午前11時00分頃(出棺): 棺を霊柩車へ運ぶ際、遺影を霊柩車に乗せた直後、斎場内の照明が一瞬にして全て消え、数秒後に再点灯。その間、遺影が置かれた台座から、微かに磯のような生臭い匂いがしたと報告がある。
8月20日 午後1時00分頃(出棺完了): 霊柩車が出発した後、遺族が斎場を後にする際、斎場の入り口の床に、故人の遺影に描かれた風景(海辺の岩場)に酷似した、不自然な水たまりの形をしたシミが発見された。シミは拭き取ろうとしても消えず、その後、徐々に薄れていったという。
四、特異な点と考察
故人の死因が事故死であり、特に「転落」という点が、怪異の性質に関わっている可能性。
故人の趣味が写真であったことから、「視覚」や「写真」が怪異の媒介となっている。遺影の目が動くという現象は、故人がまだこの世の何かを見ている、あるいは探し求めていることを示唆。
「写真表面の濡れ」「水滴の音」「磯の匂い」「水たまりのシミ」など、明確な「水」に関連する現象が多発している。これは、故人の死因や、生前の行動と関係があるのか。事故現場が水辺であった可能性も考慮すべきか。
怪異が特定の場所(斎場の入り口)に収束し、故人の写真に描かれた風景がシミとして現れた点。故人が最後に見た景色、あるいは未練のある場所を示しているのか。
怪異が、物理的な現象(照明の消灯)と感覚的な現象(匂い、視覚)を同時に引き起こしている。
五、対処・対策
事案発生中、伊藤住職は動揺する参列者を鎮めつつ、読経を継続。特に故人の魂が安らかに旅立てるよう、鎮魂の祈りを強く行った。
事案後、藤野家には特別な供養を提案し、故人の魂が安らげるよう、生前の未練を解消する手助けをすることを約束した。遺影は、当寺にて丁重に供養することとした。
今後、事故死、特に転落や水難にまつわる死因の場合、故人の未練が強く残る可能性を考慮し、より厳重な浄めと、事故現場への供養も検討する必要がある。
視覚的な怪異に対しては、遺影の管理を徹底し、事前の浄めを行うべきである。
六、付記
本件は、故人の趣味や死因が直接的に怪異の形に影響を与えた極めて興味深い事例である。
特に「写真の目」が訴えかける未練と、それに伴う「水」の現象との関連性は、今後の研究において極めて重要であると判断。
極秘記録とし、故人の魂が何を求めていたのか、引き続き探求する。
【検閲追記】
「視覚」を媒介とした怪異だが、すべての現象が「水」に収束している。記録媒体(写真)に染みた"水気"が、現象のトリガーとなったか。