鈴木家喫煙怪談記録(令和3年9月20日)
【極秘】秘匿葬送記録:参拾玖ノ巻
報告書番号: 令和03-09-20-001
作成日時: 令和03年9月21日 午前4時00分
報告者: 東京都墨田区 覚性寺 住職 臥雲 峰雄(花押)
事案名: 鈴木家喫煙怪談記録
一、事案発生日時・場所
日時: 令和3年9月19日 午後7時30分頃(通夜振る舞い中)より、翌20日 午後1時00分頃(火葬完了後)まで断続的に発生。
場所: 東京都墨田区 墨田区立セレモニーホール 斎場喫煙所、及び式場。
二、故人情報
氏名: 鈴木 健一
享年: 62歳
死因: 肺癌(長年の喫煙が原因とされた。最期は呼吸困難に苦しんだ)。
特記事項: 生前は愛煙家として知られ、常にタバコを手放さなかった。病床でも、隠れて喫煙しようとする姿が見られたという。彼の遺品の中にも、使いかけのライターやタバコの吸い殻が残されていた。
三、事案の概要(時系列順)
令和3年9月18日 午後4時00分頃: 鈴木健一氏の訃報と葬儀の依頼を受ける。故人が重度の愛煙家であったこと、そして肺癌で亡くなったという話を聞き、因果を感じずにはいられなかった。斎場に着くと、タバコの匂いが微かに漂っているように感じられた。
令和3年9月19日 午後7時00分頃(通夜開式): 墨田区立セレモニーホールにて、鈴木健一氏の通夜が始まる。読経中、式場全体に、微かなタバコの煙の匂いが漂うのを感じた。換気が不十分なのかと思ったが、他の参列者も同様に感じているようだった。
令和3年9月19日 午後7時30分頃: 通夜振る舞いの最中、故人の会社の同僚である田中氏(40代男性)が、斎場併設の喫煙所で一服しようとタバコに火を点けた、その時だった。背後から、見知らぬ男性に「すみません、火を貸してもらえませんか?」と声をかけられたという。田中氏は特に気にも留めず、振り返りざまにライターを差し出し、相手のタバコに火を点けてあげようとした。その際に、ふと相手の顔を見た瞬間、田中氏は凍り付いた。そこにいたのは、紛れもなく故人、鈴木健一氏の顔だったという。故人は、まるで生きているかのように煙草をくわえ、微かに微笑んでいたそうだ。田中氏は悲鳴を上げ、ライターを落としてその場に倒れ込んだ。騒ぎを聞きつけた斎場職員が駆けつけるも、そこには誰もいなかった。田中氏は蒼白な顔で震え続け、故人の顔を見たこと、そして故人がタバコを吸おうとしていたことを必死に訴えた。
令和3年9月19日 午後10時00分頃: 私は故人の傍らで夜伽を行う。静寂の中、式場全体に焦げ臭いような、煙のような匂いが充満するのを感じた。時には、まるでタバコの灰が落ちるような「カチッ」という微かな音が聞こえるように感じた。私は恐怖を感じながらも、必死で読経を続けた。それは故人が、死してなお、タバコに執着しているかのようでもあった。
令和3年9月20日 午前8時00分頃(告別式開始): 告別式が始まる。読経中、故人の棺の中から、微かに「ヒュー、ヒュー」というような、苦しげな呼吸音が聞こえるように感じられた。それは、故人が生前、肺癌で苦しんでいた時の呼吸音に酷似しており、参列者の何名かもその音を聞き、顔色を変えた。
令和3年9月20日 午前10時00分頃(出棺): 混乱の中、棺を霊柩車へ運ぶ際、運搬担当者数名が、棺が異常に重く感じられたと証言。特に故人の顔のあたりから、微かなタバコの煙の匂いが漂ってくると感じたという。彼らが棺に触れようと手を伸ばした瞬間、指先がひどく冷たく、まるで冷え切った吸い殻に触れたような感触がしたという。
令和3年9月20日 午後1時00分頃(火葬完了後): 火葬を終え、遺骨を拾い上げた。故人の遺骨は、なぜか全体的に煤けており、微かに焦げ付いたような、あるいはタバコの灰のような匂いが残っていた。私はそれをそっと拾い上げ、納骨を済ませた。その後、私は体調を崩し、原因不明の咳と喉の痛みに悩まされるようになった。特に、タバコの煙を吸うと激しい息苦しさを感じるようになり、喫煙所やタバコそのものを見るだけで恐怖を覚えるようになった。斎場の喫煙所では、その後も同様の怪異が報告されるようになり、現在は閉鎖されたという。
四、特異な点と考察
故人である鈴木健一氏の「重度の愛煙家としての生業」と「肺癌による苦しげな死」、そして葬儀中に喫煙所で起こった「故人の顕現」が、今回の怪異に深く関与している。
特に、彼がタバコに抱いていた異常なまでの「執着」と、それが原因で命を落としたという「無念」が、死後の世界においても彼をタバコに囚わせ、現世にその姿を顕現させたものと推測される。
故人が、死してなお、一服の安らぎを求めていた、あるいは自身の苦しみを他者に伝えようとしたのではないか。
式場全体に漂う「タバコの煙の匂い」や「焦げ臭い匂い」、そして夜伽の際の「タバコの灰が落ちるような音」、告別式での「苦しげな呼吸音」は、故人の魂が、タバコへの執着から解放されず、生前の苦しみを再現していることを強く示唆している。
さらに、喫煙所での「故人の顕現」と「田中氏の遭遇」、出棺時の運搬担当者の「幻覚と触覚」、そして私自身の体調不良、特に「原因不明の咳と喉の痛み」、「息苦しさ」、「タバコへの恐怖」といった症状は、故人の怨念が、生者の肉体、特に呼吸器系と精神にまで「侵食」していることを強く示唆している。
まるで故人が、自身の肺癌の苦しみを他者に追体験させようとしているかのようである。
読経や葬儀という「供養」の儀式が、故人の「執着」を刺激し、私自身や参列者を危険に晒した可能性。故人がタバコから離れられないあまり、その供養を妨害しようとした、あるいは生者への接触を試みたと考えられる。
特に、喫煙所で現れた故人の姿は、彼が死んでもなお、タバコを吸うという行為に囚われていることの証である。
この怪異は、単なる精神的な影響に留まらず、肉体的な損傷、特に呼吸器系への影響、さらには精神的な恐怖を伴う点で極めて危険であり、その侵食性と、日常の行為(喫煙)に潜む異常性が最も恐るべき点である。
人間の持つ「嗜好品」への執着が、死後もなお続くという、普遍的な恐怖を喚起する事例である。
五、対処・対策
私は故人の魂の安寧を願って読経を続けたが、彼の執着はすでに私の理解と力を超えた存在となっていた。
事案後、私は一命を取り留めたものの、体調は優れず、喫煙所やタバコそのものを見ることに異常な恐怖を抱くようになった。
墨田区立セレモニーホールの喫煙所は、この一件以来、閉鎖された。
この事案を重く見た宗派は、特定の嗜好品に強い執着があった故人の葬儀に際しては、最大限の警戒と、より専門的な浄化の儀式、そして故人の執着を断ち切るための特別な供養を推奨する通達を出した。
六、付記
本件は、「重度の愛煙家であった故人の、タバコへの深い執着と、肺癌で苦しんだ死の記憶が、死後もなおその場に留まろうとし、物理的な現象として現世に顕現した」という、極めて恐ろしい事例である。
極秘記録中の最重要記録として、今後のあらゆる事例の参考に供する。
鈴木健一氏の執着は、彼個人の死に留まらず、人間が持つ「嗜好品」への根源的な依存が、死を越えてもなお、生者に影響を及ぼし続けることを示している。




