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秘匿葬送記録  作者: 月影 朔


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桜木優斗情報流出苦悩記録(令和五年六月十日)

【極秘】秘匿葬送記録:参拾弐ノ巻

報告書番号: 令和05-06-10-001

作成日時: 令和05年6月11日 午前1時45分

報告者: 東京都世田谷区 希望の苑斎場 斎場長 渡辺 健一(花押)

報告者: 東京都世田谷区 浄蓮寺 僧侶 田中 宗真(花押)

事案名: 桜木優斗情報流出苦悩記録


一、事案発生日時・場所

日時: 令和五年6月8日 午後3時00分頃(遺体発見時)より、翌10日 午後1時00分頃(葬儀終了時)まで断続的に発生。

場所: 東京都世田谷区 希望の苑斎場 告別ホール「安寧」。


二、故人情報

氏名: 桜木さくらぎ 優斗ゆうと

享年: 19歳

死因: 自殺(SNSでの誹謗中傷が原因で精神的に追い詰められ、自宅で首を吊って死亡。遺体は数日後に発見され、顔色は青白く、手足には自傷行為の痕が残されていた)。

特記事項: 大学受験を控えた真面目な学生。SNS上で誤解から激しい誹謗中傷を受け、孤立を深めていたという。彼の死は、現代社会における情報化の闇を象徴する出来事として、社会に大きな衝撃を与えた。


三、事案の概要(時系列順)

6月7日 午後5時00分頃: 桜木優斗氏の遺体搬送依頼が入る。彼の死因がSNSでの誹謗中傷と聞き、斎場長である渡辺は胸を痛めた。家族の希望で、遺影の代わりに、故人が生前愛用していたタブレット端末をディスプレイに接続し、故人の笑顔の写真を映し出すことになった。連日の雨で、空はどんよりと曇り、斎場全体に重苦しい雰囲気が漂っていた。


6月8日 午後7時00分頃(通夜開式): 希望の苑斎場告別ホール「安寧」にて優斗氏の通夜が始まる。故人の棺は厳かに安置され、祭壇中央のディスプレイには彼の穏やかな笑顔が映し出されていた。読経が始まると、僧侶の田中宗真師の耳元に、どこからともなく「ザー…ザー…」と、まるで砂嵐のような、微かなノイズ音が聞こえ始めた。同時に、ホール全体の空気が、異常なほどに淀み、冷たい湿気が皮膚にまとわりつくような不快感を覚え、参列者の間にざわめきが広がった。


6月8日 午後9時30分頃: 通夜振る舞いの最中、故人の棺が安置されている祭壇のディスプレイが、突如として不規則な「ノイズ」を発し始めた。「ザザザ…」という音と共に、故人の顔が映し出された写真に、まるで水面が揺れるかのような波紋が広がり、一瞬だけ、苦悶に歪んだ故人の顔が浮かび上がった。斎場長は慌ててディスプレイを確認したが、異常は見当たらず、ノイズもすぐに収まった。しかし、その時、参列者の何名かが、自分たちのスマートフォンの画面にも、同様のノイズが一瞬走ったことに気づき、動揺が走った。


6月9日 午前0時00分頃: 田中僧侶が故人の傍らで夜伽を行う。ホールは静寂に包まれていたが、ディスプレイからは微かなノイズが聞こえてくる。僧侶が読経を始めると、ディスプレイのノイズがさらに激しくなり、「ジジジ…ザザザ…」という音と共に、画面が激しく乱れ始めた。故人の顔は、まるで水中に沈み、光が屈折しているかのように歪み、その口元が、無言のまま何かを訴えかけているかのようにも見えた。僧侶は喉がカラカラに乾き、読経の声が掠れ始めた。斎場長は、監視カメラの映像を何度も確認したが、カメラにはノイズは映っていなかったという。


6月9日 午前8時00分頃(告別式開始): 告別式が始まる。夜伽の間の異変により、僧侶は全身が凍てついたかのように重く、疲労困憊であったが、読経を続けた。しかし、読経の最中、斎場の照明がチカチカと不規則に点滅し始め、ディスプレイは完全にノイズの嵐と化した。故人の顔は、一瞬ごとに、まるで誰かに殴られたかのように歪み、その目からは、まるで水が溢れ出すかのように、真っ黒な涙が流れているように見えた。その光景は、あたかも故人が、誹謗中傷の「嵐」の中で苦しみ抜いた様を再現しているかのようだった。僧侶の体は小刻みに震え、読経の声はついに途絶えた。参列者の顔色は一様に青白く、誰もがディスプレイから目を離すことができず、ただ虚ろな目で画面を見つめていた。


6月10日 午前9時00分頃(出棺): 棺を霊柩車へ運ぶ際、渡辺斎場長は強烈な目眩と吐き気に襲われた。彼の眼には、斎場の照明が点滅する中、故人の遺影が映し出されたディスプレイ全体が、まるで巨大な水槽と化し、その中に無数の泡と共に、苦悶に歪んだ故人の顔が浮かび上がっている幻覚を見た。彼は、その顔が自分をまっすぐに見つめ、「助けて…」と囁いているように感じたという。彼が棺に触れようと手を伸ばした瞬間、指先が凍るような冷たさと同時に、濡れて張り付く紙のような感触に触れた。彼は意識を保つのがやっとの状態であった。田中僧侶は、その場で大量の水を吐き出し、意識を失った。


6月10日 午後1時00分頃(葬儀終了時): 葬儀を終え、斎場に戻った渡辺斎場長は、突如として激しい呼吸困難に陥った。彼の全身は異常なほどに冷え切り、口からは大量の生臭い水が吐き出された。それは汗とは異なり、まるで体内の水分が全て濁った水に置き換わったかのようであった。彼は搬送された病院で、原因不明の肺水腫と診断され、数日間意識不明の重体となった。彼の意識が回復した後も、彼は常にディスプレイのノイズと、水が滴るような幻聴に悩まされ、インターネットやSNSを見ることを極端に恐れるようになった。田中僧侶もまた、肺に微量の水が確認され、回復後も電子機器を見ると強い動悸を覚えるようになったという。


四、特異な点と考察

桜木優斗氏のSNSでの誹謗中傷による自殺という現代的な悲劇と、彼の遺影が映し出されたディスプレイ、そして葬儀中の雨が、今回の怪異に深く関与している。

これは、彼を追い詰めた「情報」が「水」のメタファーとして現れ、ディスプレイを媒介として、その怨念を顕現させたものと推測される。

彼の苦しみが、デジタルな「ノイズ」と、物理的な「水」を結びつけ、生者への干渉を試みたのではないか。

斎場での「ディスプレイのノイズと故人の苦悶の表情」「ホールの湿気と淀み」「故人の遺影から滲み出す黒い涙」「斎場長と僧侶の体調不良」、特に「全身からの異常な水滴」や「肺水腫」、そして「インターネットや電子機器への恐怖」といった症状は、優斗氏の怨念が、彼を苦しめた「情報」と、その苦しみが引き起こした「涙」や「絶望」を「水」の形で物理的に顕現させ、生者の肉体、特に体液の循環を司る部分、さらには精神にまで「侵食」していることを強く示唆している。

まるで彼の未練が、デジタル空間と現実空間の境界を曖昧にし、情報化社会に潜む恐怖を具現化したかのようである。

読経や葬儀という「供養」の儀式が、かえって怨念を刺激し、斎場長や僧侶を危険に晒した可能性。怨霊が儀式に抵抗し、それを妨害するために、彼らの身体、そして彼らを取り巻く情報環境に直接干渉したと考えられる。

特に、彼らの体から濁った水が噴き出したのは、優斗氏が誹謗中傷の「嵐」の中で感じた窒息感や絶望を、彼らに追体験させたのではないか。

「ディスプレイ全体が水槽と化し、無数の泡と共に故人の顔が浮かび上がる」という斎場長の幻覚は、優斗氏の怨念が、彼個人の苦しみを越え、情報社会の闇に飲まれた無数の魂の集合体が、「情報汚染の怪異そのもの」へと変質しつつあることを示唆している。

その幻覚が「助けて…」と囁いたのは、彼自身の救済を求めていると同時に、現代社会の歪みが招く悲劇への警鐘であるかのようである。

この怪異は、単なる精神的な影響に留まらず、肉体的な損傷、特に呼吸器系や体液循環機能への影響、さらには情報機器への異常な影響を伴う点で極めて危険であり、その侵食性と、情報社会における伝播性が最も恐るべき点である。

現代社会の闇が、新たな形で恐怖を顕現させた、異質な事例である。


五、対処・対策

斎場長と僧侶は優斗氏の魂の安寧を願って葬儀を執り行ったが、彼の怨念はすでに彼らの理解と力を超えた存在となっていた。

事案後、渡辺斎場長と田中僧侶は一命を取り留めたものの、彼らの体調は常に優れず、雨の日に電子機器を見ると激しい動悸や吐き気を催すようになった。

特に、SNSやニュースサイトを見ることを極端に避けるようになったという。希望の苑斎場告別ホール「安寧」では、その後も雨の日にディスプレイに不規則なノイズが走るという報告が続き、現在は使用を中止している。

この事案を重く見た斎場運営側は、SNSやインターネットが関連する死因の場合、特に故人の写真や映像をディスプレイに表示することについて、厳重な注意と、可能であれば他の方法を検討するよう通達した。


六、付記

本件は、「現代社会の闇、すなわちSNSでの誹謗中傷が原因で命を絶った若者の怨念が、雨という自然現象と、ディスプレイという情報媒体を介して現世に顕現した」という、極めて恐ろしい事例である。

極秘記録中の最重要記録として、今後のあらゆる事例の参考に供する。

桜木優斗氏の怨念は、彼個人の苦しみに留まらず、情報社会の負の側面が、水という根源的な恐怖と結びつき、その終わりなき浸食は、今もなお、ディスプレイのノイズの中に深く刻まれている。

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