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秘匿葬送記録  作者: 月影 朔


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宮野家双子溺死報告(平成10年7月25日)

【極秘】秘匿葬送記録:弐拾壱ノ巻

報告書番号: 平成10-07-25-020

作成日時: 平成10年7月26日 午前1時45分

報告者: 静岡県浜松市 円明寺 住職 松永 宗厳(花押)

事案名: 宮野家双子溺死報告


一、事案発生日時・場所

日時: 平成10年7月24日 午後7時00分頃(通夜開式時)より、翌25日 午前11時00分頃(火葬完了時)まで断続的に発生。

場所: 円明寺本堂(通夜・告別式会場)、並びに宮野家自宅(故人安置場所)。


二、故人情報

氏名: 宮野みやの 悠斗ゆうと宮野みやの 陽菜ひな

享年: 5歳(双子)

死因: 溺死(自宅の庭にあるビニールプールで溺れているのが発見された。救急搬送されたが、手遅れであった)。

特記事項: 生まれてから一度も離れることのないほど仲の良い双子であった。常に手を繋ぎ、同じ遊びを好み、まるで一心同体であるかのようであったという。


三、事案の概要(時系列順)

7月24日 午後4時00分頃: 宮野家より葬儀の依頼を受ける。幼い双子の突然の死に、遺族の悲嘆は深く、憔悴しきっていた。当寺より住職 松永 宗厳が担当。故人らの棺は、二つ並べて安置された。


7月24日 午後7時00分頃(通夜開式): 円明寺本堂にて通夜開始。読経中、二つ並べられた棺から、微かに水が滴るような音が聞こえ始めた。参列者の何人かが音に気づき、ざわめきが起こる。しかし、棺の表面に水滴は見当たらず、音の源も特定できなかった。その際、本堂の気温が、まるで真夏にも関わらず、肌を刺すような冷気に包まれた。


7月24日 午後9時30分頃: 通夜振る舞いの最中、故人の遺影(双子が笑顔でプールに入っている写真)の周囲が、まるで水に濡れたようにぼやけ始めた。特に、二人の顔が溶けているように見え、表情が判別できないほどになった。遺族が遺影に触れると、写真の表面から塩辛い潮の匂いがしたと報告された。


7月25日 午前0時00分頃: 松永住職が故人らの傍らで夜伽を行う。静寂の中、二つの棺の間に置かれた白い花束が、異常な速さで変色し、まるで深海に沈んだかのように萎びていった。同時に、本堂の奥から、水面を揺らすような微かな「チャプン、チャプン」という水音が断続的に響き、子供たちの小さな「うめき声」のようなものが混じって聞こえてきた。


7月25日 午前8時00分頃(告別式開始): 告別式が始まる。読経中、二つの棺の蓋が、まるで内側から押されているかのように、ゆっくりと微かに持ち上がる。その隙間から、ひんやりとした湿った空気が流れ出し、会場全体に生臭い水の匂いが充満した。参列者の中には、棺の隙間から、何か黒い、細長い影が蠢いているのを目撃したと証言する者もいた。


7月25日 午前9時30分頃(出棺): 棺を霊柩車へ運ぶ際、二つの棺が異常なほど重く感じられたと、運搬担当者複数名が証言。特に、棺の中から「ズズズ…」と、水を引きずるような不快な音が聞こえたという。その音は、まるで深い泥沼の中から何かを引き上げているかのようであった。


7月25日 午前11時00分頃(火葬完了): 火葬が完了し、骨上げを行う。しかし、故人らの遺骨は、まるで水に浸されていたかのように湿っており、異常に脆く、わずかに青みがかった色をしていた。骨壷に収められた後も、骨壷の表面から微かに水が滲み出ており、何度拭いても止まらなかった。火葬場の職員は、このような現象は前例がないと報告した。


四、特異な点と考察

故人らが双子であり、同じ場所で同時に溺死したという状況が、怪異を複合的に引き起こしている可能性が高い。二人の魂が、死してなお離れがたい「絆」によって結ばれており、その絆が怪異の源泉となっているのではないか。

通夜から告別式にかけて多発した「水」に関連する現象(水滴の音、冷気、遺影の濡れ、潮の匂い、水音、生臭い匂い、湿った遺骨、骨壷からの滲出)は、故人らの死因である「溺死」と強く結びついている。彼らの魂が、水から完全に解放されていない、あるいは水の中に留まっていることを示唆する。

遺影が「ぼやけ」、顔が判別できなくなったのは、故人らの安らかな姿が、死の瞬間の苦痛や、水の中での状態を反映して歪んだものと推察される。

夜伽の際の花束の変色と水音、うめき声は、故人らの魂が、水中で苦しんでいる、あるいは現世に「助け」を求めていることを示唆している。

棺の持ち上がりや、棺の中から見えた「黒い影」は、故人らがまだ「生きている」かのような錯覚を覚える現象であり、彼らの魂が、棺の中に閉じ込められたまま、何らかの形で現世に干渉しようとしている。

出棺時の棺の異常な重さと、水を引きずるような音は、故人らの魂が、水に引きずられているか、あるいは水そのものが棺に宿っているかのようであった。

火葬後の遺骨の湿り気と青み、そして骨壷からの水の滲出は、火葬をもってしても故人らが水から完全に解放されていないという、極めて異例かつ不穏な状況を示している。これは、彼らの魂が水と一体化してしまっている可能性、あるいは「水」が彼らを離さないという強い力があることを示唆する。


五、対処・対策

事案発生中、松永住職は、故人らが双子であること、そして死因が溺死であることから、通常の供養では不足すると判断。読経に加え、水難供養に特化した「水子地蔵」の真言を繰り返し唱え、水に囚われた魂が解放されるよう強く祈念した。

事案後、宮野家に対し、故人らの魂が安らかに旅立てるよう、寺にて特別な水難供養を執り行うことを提案。特に、故人らが溺死したビニールプールの「水」を完全に抜き、清めること、そして今後、自宅に水を溜めることを避けるよう助言した。火葬後の遺骨は、当寺にて丁重に預かり、定期的に浄めを行うこととした。

今後、水難死、特に幼子の水難死の葬儀においては、事前に死因の詳細を把握し、水の浄化と、故人の魂を水から解き放つための、より専門的な供養を計画する必要がある。また、故人の愛着の品や、故人が亡くなった場所にある水に関するものには、特に注意を払うべきである。


六、付記

本件は、幼い双子の突然の溺死という悲劇が、「水」を媒介とした複合的な怪異として発現した極めて稀な事例である。

特に、火葬後も遺骨に水の影響が見られた点は、故人の魂が水から完全に分離できていないという、根深い問題を示している。

極秘記録とし、「水」が持つ死と生、そして未練を繋ぐ力について、今後の研究において重要な知見を提供するものとする。

この双子の魂が、いつか安らかな水辺に辿り着けるよう、引き続き供養を続けるべきである。

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