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秘匿葬送記録  作者: 月影 朔


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遠藤老人参列記録(昭和55年7月5日)

【極秘】秘匿葬送記録:拾捌ノ巻

報告書番号: 昭和55-07-05-018

作成日時: 昭和55年7月6日 午前3時45分

報告者: 岐阜県美濃市 清流寺 住職 渡辺 永順(花押)

事案名: 遠藤老人参列記録


一、事案発生日時・場所

日時: 昭和55年7月4日 午後6時30分頃(通夜開始時)より、翌5日 午後2時00分頃(納骨完了時)まで断続的に発生。

場所: 清流寺本堂(通夜・告別式会場)。


二、故人情報

氏名: 遠藤えんどう 健一けんいち

享年: 82歳

死因: 老衰。

特記事項: 生前は隠居の身で、趣味もなく、毎日を無為に過ごしていた。特に目立った特徴もなく、近隣住民からもほとんど存在を認識されていなかった。唯一、数週間前に、斉藤芳子氏の葬儀(斉藤家水葬記録を参照)に参列していたことが確認されている。当時の参列者名簿にも、彼の名前が記されていた。


三、事案の概要(時系列順)

7月4日 午後3時00分頃: 遠藤家より葬儀の依頼を受ける。故人の長男からの依頼で、簡素な家族葬を希望。当寺より住職 渡辺 永順が担当。故人の斉藤芳子氏の葬儀参列の事実は、この時点ではまだ把握していなかった。


7月4日 午後6時30分頃(通夜開式): 清流寺本堂にて通夜開始。読経中、祭壇に安置された故人の遺体(顔のみ露出)の口元から、微かに湿った土のような匂いが漂い始めた。同時に、本堂の床の、故人の棺に近いあたりに、微かな水たまりが形成され始めた。その水たまりは、周囲の湿度とは関係なく、ただ故人の周りにのみ出現した。


7月4日 午後8時00分頃: 通夜振る舞いの最中、故人の遺影が飾られた祭壇の脇に立てかけられた位牌が、突然、水滴で覆われ始めた。水滴はまるで内部から滲み出ているかのようで、拭いてもすぐに現れ、位牌の文字が滲んで見えにくくなった。この際、会場の気温がわずかに下がり、肌寒さを感じたという参列者が複数いた。


7月5日 午前0時00分頃: 渡辺住職が故人の傍らで夜伽を行う。静寂の中、故人の棺の中から、まるで遠くから響くような「ゴボゴボ」という水の音が聞こえ始めた。音は次第に大きくなり、まるで棺の中に水が満ちていくかのようであった。棺の蓋の隙間からは、微かに湿った空気が漏れ出しているのを感じた。


7月5日 午前7時00分頃(告別式開始): 告別式が始まる。読経中、故人の棺の表面に、まるで水面に映る幻影のような、不規則な波紋が瞬間的に現れては消える現象が確認された。その波紋は、あたかも故人の身体が水に浸されているかのように、棺全体に広がった。同時に、故人の顔を覆う白布が、水に濡れたかのように半透明になり、故人の生気のない顔がうっすらと透けて見えた。


7月5日 午前9時30分頃(出棺): 棺を霊柩車へ運ぶ際、棺全体が異常に重く感じられ、特に故人の頭部側が顕著であったと、運搬担当者数名が証言。棺の底からは、斉藤芳子氏の葬儀の際と同様に、泥水のようなものが断続的に滴り落ちていた。霊柩車に収める直前、故人の顔を覆う白布が、まるで水圧で押し潰されたかのように、故人の顔の形にぴったりと張り付き、苦悶の表情が浮かび上がった。


7月5日 午後2時00分頃(納骨完了): 火葬が完了し、遺骨を納骨堂に収める際、故人の遺骨の一部が、異様に湿気を帯び、微かに海藻のような匂いを放っていた。納骨堂に収めた後も、その周辺の空気が重く、湿気を帯びているのが感じられた。長男は、故人が斉藤芳子氏の葬儀に参列していたことをこの時点で住職に告白し、その葬儀で「奇妙な水の気配を感じた」と証言した。


四、特異な点と考察

故遠藤健一氏が、「斉藤家水葬記録」に記録されている斉藤芳子氏「水葬」に参列していたという事実が、今回の怪異の核心である。彼は、斉藤芳子氏の葬儀で発生した「水」を媒介とした怪異を「体験」し、その「影響」を自身の身体に、あるいは魂に受けていた可能性が高い。

故人の棺から漂う「湿った土の匂い」、床に現れた「水たまり」、位牌を覆う「水滴」、棺からの「水の音」、棺の表面に現れる「波紋」、棺の底から滴る「泥水」、そして遺骨に残る「湿気と海藻の匂い」。これらすべての現象が、斉藤芳子氏の葬儀で発生した怪異と驚くほど酷似している。これは、遠藤健一氏が、斉藤芳子氏の怪異を「引き継いでしまった」、あるいはその「水」の一部となってしまったことを示唆している。

故人の遺体が異常に重かったこと、そして白布が水圧で押し潰されたかのように見えたことは、彼が死後もなお、「水」の力に深く囚われていることを表している。彼の死因が老衰であるにもかかわらず、彼の身体がまるで水難死者のように振る舞っているのは、彼が生前、斉藤芳子氏の怪異に「感染」してしまっていたことの証左であろう。

斉藤芳子氏の葬儀における「川面の幻」が、故人の魂が川に還っていったことを示唆していると考察したが、遠藤健一氏の事例は、その「水」が持つ負の側面、あるいは伝播する性質を示している。彼は、斉藤芳子氏の「水」にまつわる未練や執着の「証人」として、あるいはその「一部」として、新たな怪異の媒介となってしまったのではないか。


五、対処・対策

事案発生中、渡辺住職は、故人の死因と怪異の内容の不一致に強い違和感を覚えつつも、故人の魂を鎮める読経を続行。特に、棺から現れる水の異変に注意を払い、水に関連する災いを鎮める祈祷を併せて行った。

事案後、故人の長男からの証言により、斉藤芳子氏の葬儀との関連性が明確になった。渡辺住職は、遠藤氏の魂が「水」の執着に囚われていると判断し、斉藤芳子氏が愛した長良川支流と、遠藤氏の魂、双方への特別な水子供養、水難供養を執り行うことを決定した。また、納骨堂の周辺に水気を払うための結界を設ける措置を取った。

今後、過去に怪異が発生した葬儀の参列者が故人となった場合、その故人の葬儀にも怪異が再発、あるいは伝播する可能性を考慮し、事前に徹底した調査と、より厳重な浄め、そして「怪異の連鎖」を断ち切るための専門的な対応を検討する必要がある。


六、付記

本件は、過去に発生した怪異が、その「目撃者」を通じて伝播し、新たな怪異として発現した極めて異例な事例である。

斉藤芳子氏の「水」への執着が、遠藤健一氏の死を通じて、まるで水が循環し、淀みを広げるかのように、さらなる深淵へと繋がったことを示している。

この「秘匿葬送記録」は、怪異が単発の事象ではなく、人や場所、そして「水」を介して連鎖していく可能性を示唆する、非常に重要な資料として、今後の「水または水に関連する事象(川、雨、海など)」の共通点の調査に不可欠である。


【検閲追記】

斉藤家水葬記録からの"伝播"を確認。

汚染経路の特定を急ぐ。

他の参列者の追跡調査を継続。

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