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秘匿葬送記録  作者: 月影 朔


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佐伯美咲白髪報告(平成28年7月5日)

【極秘】秘匿葬送記録:拾漆ノ巻

報告書番号: 平成28-07-05-017

作成日時: 平成28年7月5日 午後11時48分

報告者: 福岡県福岡市 浄蓮寺 住職 河野 隆泉(花押)

事案名: 佐伯美咲白髪報告


一、事案発生日時・場所

日時: 平成28年7月4日 午後6時30分頃(通夜開式時)より、翌5日 午後1時00分頃(出棺完了時)まで断続的に発生。

場所: 浄蓮寺斎場(通夜・告別式会場)。


二、故人情報

氏名: 佐伯さえき 美咲みさき

享年: 24歳

死因: 自殺(練炭自殺。遺書なし)。

特記事項: 都内の大学を卒業後、地元福岡に戻り、会社員として勤務していた。生前は明るく社交的な性格で、周囲からの評判も高かった。しかし、発見時には真っ黒であったはずの髪の毛が、まるで雪のように白く変色していた。警察による検視でも原因不明とされた。


三、事案の概要(時系列順)

7月3日 午後4時00分頃: 佐伯家より葬儀の依頼を受ける。故人が若くして自ら命を絶ったこと、そして遺体の異様な状態から、河野住職は深い憂慮を抱いた。故人の髪の毛は、まさに純白であった。


7月4日 午後6時30分頃(通夜開式): 斎場にて通夜が始まる。読経中、祭壇に安置された故人の遺体(顔のみ露出)の白い髪が、わずかに揺らめくように見えたと、複数の参列者が証言。まるで見えない風が吹き抜けているかのようであったという。この際、会場の気温が不自然に低く感じられた。


7月4日 午後9時00分頃: 通夜振る舞いの最中、故人の遺影が飾られた祭壇の周囲から、微かな焦げ臭い匂いが漂い始めた。しかし、火気は一切なく、原因は不明。匂いは次第に強くなり、参列者の中には吐き気を催す者もいた。同時に、故人の白い髪が、照明を吸い込むかのように、さらに眩しく、異様な輝きを放っているように見えたと報告がある。


7月5日 午前0時00分頃: 深夜、河野住職が故人の傍らで夜伽を行う。静寂の中、故人の棺の中から、まるで砂が擦れるような、微細で不規則な音が聞こえ始めた。「シャリ、シャリ」と、何かが棺の内部で動き、故人の髪の毛が、音に合わせて一本ずつ「ピン」と跳ねるように見えた。その音は、まるで故人の髪の毛が、今もなお何かによって引き抜かれているかのような錯覚を覚えさせた。


7月5日 午前8時00分頃(告別式開始): 告別式が始まる。読経中、故人の遺体から、冷気と共に強烈な「圧」のようなものが発せられているのを感じた。特に、故人の白い髪の毛の一本一本が、まるで針のように逆立ち、周囲の空気を振動させているかのように見えた。その「圧」は、参列者にも伝わり、強い悪寒と頭痛を訴える者が複数現れた。


7月5日 午前10時30分頃(出棺): 棺を霊柩車へ運ぶ際、運搬担当者数名が、棺が異常に軽いと感じたと証言。特に故人の頭部側が顕著であったという。しかし、棺を動かそうとすると、まるで故人の白い髪の毛が地面に絡みついているかのように、僅かながら抵抗を感じたという。棺の底からは、まるで細かな灰のようなものが、僅かにパラパラと落ちていたと報告がある。


7月5日 午後1時00分頃(出棺完了): 霊柩車が出発した後、斎場内の空気が一変し、強烈な冷気と、焦げ臭い匂いが再び充満。数分で消え去る。斎場の床には、故人の頭部があった場所に、まるで髪の毛の形を模したかのような、白く細かな灰の跡が残されていた。その灰は、触れるとすぐに消え失せたが、その場にいた者たちは、まるで故人の「髪」そのものが残していった「痕跡」であるかのように感じたという。


四、特異な点と考察

故佐伯美咲氏の死因が自殺であること、そして生前の黒髪が死後真っ白に変色していたという点が、今回の怪異の核心にある。彼女が死に至る直前に経験した極度の恐怖や精神的苦痛が、肉体的な変容として現れ、それが怪異の源泉となっている可能性が高い。

故人の白い髪が「揺らめく」「輝く」「逆立つ」といった物理的な変化を見せたことは、単なる死後の現象ではなく、故人の魂、あるいは何らかの負のエネルギーが、その髪に強く宿っていることを示唆する。特に「砂が擦れる音」や「髪の毛が跳ねる」という現象は、故人が死の直前、自身の髪が急速に白くなる過程で、筆舌に尽くしがたい苦痛を味わっていたことを暗示している。

「焦げ臭い匂い」は、練炭自殺という死因と関連するが、物理的な火気がなく、匂いが再発したことは、故人が経験した「業火」のような精神的苦痛が、死後も残存し、現象として現れていることを示唆する。

棺が異常に軽く感じられたにもかかわらず、「髪の毛が絡みつく」ような抵抗があったこと、そして棺の底から「灰」が落ちたことは、故人の髪の毛が、物理的な実体を超えた「何か」に変質していることを物語る。斎場に残された白い灰の跡は、故人が自身の「死の痕跡」を、具現化した「髪」として残していったようにも解釈できる。

故人が生前は明るく社交的であったにもかかわらず自殺を選んだこと、そして遺書がなかったことは、彼女が誰にも打ち明けられない、恐るべき「何か」に直面し、それが彼女の髪を一夜にして白く変え、死に至らしめた可能性を示唆している。


五、対処・対策

事案発生中、河野住職は、故人の魂が深い悲しみと恐怖に囚われていることを感じ、読経に加え、故人の苦痛を鎮め、魂が安らかに旅立てるよう、精神的な浄化と慰めの祈りを強く行った。

参列者に対しても、故人の生前の苦しみに寄り添い、安らかな旅立ちを願うよう促した。

事案後、佐伯家には、故人の魂が安らげるよう、そして彼女を苦しめた「何か」が残存しないよう、特別な供養と、自宅の徹底的な浄めを提案した。特に、故人の死因に直接関わると推測される「髪の白化」について、その原因を究明することの重要性を説いた。浄蓮寺として、故人の魂が本当に解放されるまで、継続的な見守りと供養を続けることを約束した。

今後、自殺、特に身体に異変が見られる死因の場合、故人の魂が強い苦痛や未練に囚われている可能性を考慮し、より厳重な浄めと、死に至るまでの経緯や精神状態について、遺族への詳細な聴取を徹底する。

故人の「髪」という、身体の一部が象徴的に変質した事例として、今後の同様の事案発生時の参考に供する。


六、付記

本件は、故人の身体的な変容(髪の白化)が、直接的に怪異の形として現れた極めて異例な事例である。

極秘記録とし、人間の「恐怖」が肉体に及ぼす影響、そしてそれが死後も具現化する可能性を示す重要な資料とする。

故人が最期に味わった「恐怖」の正体、そしてその恐怖が「髪」を媒介として現れた理由については、今後の詳細な調査が不可欠である。

この白い髪は、単なる死の証ではなく、彼女が辿った絶望の軌跡そのものである。


【検閲追記】

練炭による「熱」と「乾燥」の死因に対し、怪異は「冷気」という正反対の性質を見せる。

これは、対象の持つ属性を反転させる特性を示唆するか。

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