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秘匿葬送記録  作者: 月影 朔


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黒崎隆男開眼死記録(平成25年11月10日)

【極秘】秘匿葬送記録:拾陸ノ巻

報告書番号: 平成25-11-10-016

作成日時: 平成25年11月10日 午後10時15分

報告者: 東京都世田谷区 円覚寺 住職 武田 宗厳(花押)

事案名: 黒崎隆男開眼死記録


一、事案発生日時・場所

日時: 平成25年11月9日 午後6時00分頃(通夜開式時)より、翌10日 午前11時30分頃(火葬場到着時)まで断続的に発生。

場所: 円覚寺本堂(通夜・告別式会場)。


二、故人情報

氏名: 黒崎くろさき 隆男たかお

享年: 48歳

死因: 心不全(自宅で発見時、目を見開いたまま絶命していた。死に至るまで激しい苦痛があったと推測される)。

特記事項: 生前は高層マンションに一人暮らしの会社員。隣人との交流はほとんどなく、家族も遠方に住む高齢の母親のみ。死亡時には、その異様な形相から、遺族により故人の目は無理に閉じられていた。


三、事案の概要(時系列順)

11月8日 午後3時00分頃: 遠方に住む故人の母親より葬儀の依頼を受ける。故人が自宅で目を見開いたまま亡くなっていたという話を聞き、武田住職は故人の顔に手を合わせ、瞼を閉じるよう試みたが、すぐに開いてしまう。この現象は故人の死後も続き、遺族が接着剤を用いて強引に瞼を固定していた。


11月9日 午後6時00分頃(通夜開式): 本堂にて通夜が始まる。読経中、祭壇に安置された故人の遺体(顔のみ露出)の閉じられたはずの瞼が、微かに痙攣しているように見えたと、複数の参列者が証言。特に故人の顔を覗き込んだ参列者は、接着剤で固定されているにもかかわらず、まるで内側から強い力が押し上げているかのように見えたと訴えた。


11月9日 午後8時30分頃: 通夜振る舞いの最中、故人の遺影が飾られた祭壇の背後から、「ギチギチ」という木材が軋むような音が断続的に聞こえ始めた。音は次第に大きくなり、まるで何かが遺影の裏側で、内側から強く押されているかのように響いた。しかし、祭壇の裏には何もなかった。この際、会場の照明が不規則に点滅し、空気がひどく淀んだように感じられた。


11月10日 午前0時00分頃: 深夜、武田住職が故人の傍らで夜伽を行う。静寂の中、故人の棺から、まるで何かが棺の内部で激しく動き回っているかのような「ゴトン、ゴトン」という鈍い音が響いた。棺全体が微かに揺れ、その度に、故人の顔を覆う白布が、呼吸しているかのように上下に揺れるのが見えた。同時に、故人の瞼が、接着剤を破って再び開こうとするかのように、強く膨らんでいくのを感じた。


11月10日 午前8時00分頃(告別式開始): 告別式が始まる。読経中、故人の棺の中から、まるで鋭利な爪で引っ掻くような「カリカリ」という音が聞こえ始めた。音は故人の頭部付近から発せられ、その音と共に、棺の蓋の表面に、複数の線状の傷がゆっくりと現れた。傷は次第に深くなり、まるで故人が内側から何かを伝えようと必死にもがいているかのように見えた。


11月10日 午前9時30分頃(出棺): 棺を霊柩車へ運ぶ際、運搬担当者数名が、棺から尋常ではないほどの「重圧」を感じたと証言。特に故人の頭部側が異常に重く、まるで何かが棺の中から外を見開いているかのような、耐え難い視線を感じたという。棺の表面に、乾いた土のようなものが微かに付着しているのが確認されたが、斎場内に土の持ち込みはなかった。


11月10日 午前11時30分頃(火葬場到着): 火葬場に到着し、棺を台車に乗せる際、故人の瞼を固定していた接着剤が完全に剥がれ落ちた。その瞬間、故人の目が完全に開き、まるで生きているかのような「瞳孔」が、虚空をじっと見据えているのが露わになった。その目には、言い知れぬ絶望と、深い後悔が満ちていた。その場にいた遺族や斎場スタッフは、その異様な光景に言葉を失い、恐怖に震え上がった。火葬後も、故人の遺骨から、微かに焦げ付いたような、しかし土のような異臭が消えることはなかった。


四、特異な点と考察

故黒崎隆男氏の死因不詳、特に目を見開いたまま絶命したという状況が、今回の怪異の根源にあることは疑いようがない。死の直前まで彼を苛んだ激しい苦痛と、何かに見開かれた「目」に映った最後の光景が、強烈な「念」として残存している。

遺族が強引に故人の目を閉じたにもかかわらず、その瞼が怪異の中で再び開こうとしたことは、故人の魂が死してなお、何かを訴えかけ、あるいは何かを見続けようとしている強い未練や執着を示している。

「木材が軋む音」「棺の内部での動き」「引っ掻く音」「棺の傷」は、故人が棺の中で激しくもがき苦しんでいるか、あるいは故人の魂を囚える「何か」が棺の中に存在していることを示唆する。特に棺の傷は、故人が何かに抗っていたかのような物理的な痕跡であり、尋常ではない。

出棺時の「重圧」と「視線」は、故人が死の瞬間、目にした「何か」が、棺に宿り、今もなお外界を見つめ、あるいは故人を束縛していることを暗示する。付着していた「乾いた土」のようなものの存在は、故人が亡くなる直前に、本来いるべきではない「場所」にいた可能性、あるいはその場所から何らかの「穢れ」を持ち帰った可能性を示唆している。

火葬場で故人の目が完全に開いたことは、彼が最期まで見続けていた「何か」が、ついに解放された瞬間、あるいは彼自身の「真の苦痛」が露わになった瞬間である。その目に宿る「絶望と後悔」は、彼が死の直前に直面した「現実」があまりにも過酷なものであったことを物語っている。


五、対処・対策

事案発生中、武田住職は、故人の魂が強い苦痛と未練に囚われていることを察し、通常の読経では鎮まらないと判断。故人の魂が死に至る直前に目にした「何か」を鎮め、故人の魂を苦しみから解放するための特別な供養と、破邪の儀式を執り行った。

事案後、故人の母親に対し、本件の特異性を説明。故人が最期に何を見て、何を苦しんでいたのか、その真相を探る必要性を説いた。円覚寺として、故人の魂が安らげるよう、そして彼の目に映った「何か」が二度と現れぬよう、継続的な供養と、故人の生前の足跡を辿る調査を行うことを約束した。特に、死の直前の状況、故人が目を見開いていた理由について、更なる情報収集が必要である。

今後、故人が死の直前まで激しい苦痛を伴っていた場合や、異様な形で亡くなっていた場合には、その死に「何か」が関わっている可能性を強く考慮し、より厳重な浄めと、故人の生前の環境や人間関係についても深く調査する体制を検討する。故人の「目」が、死してもなお「見続けている」ものは何か、それがさらなる怪異を引き起こす引き金となり得ることを再認識した。


六、付記

本件は、故人の「目」という、外界との最後の接点が、死後もなお「何か」を訴えかけ、そして怪異を引き起こした極めて稀な事例である。

極秘記録とし、人間の「視覚」が死後も持つ力、そして死に至るまでの「苦痛」がどれほど深い痕跡を残すかを示す重要な資料とする。

故人の目に宿っていた「絶望と後悔」の真の原因、そして棺に付着した「土」の関連性は未だ不明であり、今後の調査によって、さらなる深淵が明らかになる可能性がある。


【検閲追記】

棺に付着した「乾いた土」の出所が不明。

しかし、記録によれば当日は雨。

濡れた土が乾燥したと考えるのが自然。

高層マンションの死と「土」の関連、調査継続。

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