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秘匿葬送記録  作者: 月影 朔


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佐野家無縫供養(平成28年11月5日)

【極秘】秘匿葬送記録:拾肆ノ巻

報告書番号: 平成28-11-05-014

作成日時: 平成28年11月5日 午後10時12分

報告者: 東京都世田谷区 円覚寺 住職 高野 宗一(花押)

事案名: 佐野家無縫供養


一、事案発生日時・場所

日時: 平成28年11月4日 午後7時00分頃(通夜開式時)より、翌5日 午後3時00分頃(火葬完了時)まで断続的に発生。

場所: 円覚寺斎場(通夜・告別式会場)。


二、故人情報

氏名: 佐野さの 和也かずや

享年: 32歳

死因: 殺人事件(バラバラ殺人事件の被害者として、複数の場所で遺体の一部が発見された)。

特記事項: 都内在住の会社員。発見された遺体の部位は、胴体、右腕、左脚のみであり、頭部、左腕、右脚、内臓の大部分は未発見。警察による捜査は難航しており、犯人特定には至っていない。遺族の強い意向により、発見された部位のみで葬儀を執り行うこととなった。


三、事案の概要(時系列順)

11月4日 午後3時00分頃: 佐野家より葬儀の依頼を受ける。故人の死因が特異であるため、通常よりも入念な事前準備を要請。特に、棺には発見された遺体の部位を全て納めるが、見た目の問題から、特殊な布で覆い、直接遺体が目に触れないように工夫された。当寺より住職 高野 宗一が担当。


11月4日 午後7時00分頃(通夜開式): 円覚寺斎場にて通夜開始。読経中、棺の中から、まるで指の関節を鳴らすような「ポキポキ」という乾いた音が断続的に聞こえ始めた。音の発生源は不明確だが、棺の内部から響いているように感じられた。参列者の間には動揺が走ったが、故人の死因を鑑み、多くは不気味な沈黙を保った。高野住職も音をはっきりと捉えた。


11月4日 午後9時30分頃: 通夜振る舞いの最中、斎場の照明が突然、不規則に点滅し始めた。同時に、会場の空気が急激に冷え込み、参列者の数人が、まるで何かが身体を撫でるような微かな感触を訴えた。照明の点滅が激しくなるにつれ、まるで影が形を変えるかのように、壁に映る参列者の影が不自然に歪んだり、一部が欠けているように見えたと証言があった。


11月5日 午前0時00分頃: 高野住職が故人の傍らで夜伽を行う。静寂の中、棺を覆う特殊な布が、微かに膨らんだり、へこんだりするのを感じた。それはまるで、布の下で何かが蠢いているかのようであった。目を凝らすと、布の表面に、複数の不規則な膨らみが浮かび上がり、それらがまるで何かを探すように動いているのが確認できた。


11月5日 午前8時00分頃(告別式開始): 告別式が始まる。読経中、故人の遺影(生前の全身写真)の背景に、黒い「穴」のようなものがいくつも現れ始めた。その「穴」は、まるで故人の失われた身体の部位を示しているかのようであった。さらに、焼香台の横に置かれた献花の花びらが、一瞬にして乾燥し、砕け散るという現象が発生した。


11月5日 午前10時00分頃(出棺): 棺を霊柩車へ運ぶ際、棺の側面から、微かに生臭い異臭が漂い始めた。それは、腐敗臭とは異なる、生々しい肉の匂いに近かったという。棺が霊柩車に乗せられる瞬間、車体全体が激しく揺れ、まるで棺が自らを拒絶しているかのような強い抵抗を感じたと、運搬担当者が証言した。


11月5日 午後3時00分頃(火葬完了): 火葬が完了し、骨上げを行う。故人の遺骨は、発見された部位のみであったが、それぞれの部位が不自然なほど離れ離れに、まるで引き裂かれたかのように散乱していた。特に、胴体部分の骨からは、微細な金属片のようなものが複数見つかった。火葬後にも関わらず、骨壷に収められた遺骨からは、依然として微かに異臭が漂っていた。


四、特異な点と考察

故人がバラバラ殺人事件の被害者であるという点が、怪異の根源に深く関わっている。故人の魂が、自身の「完全な身体」を求めており、その「欠損」が物理的な怪異として現れている。特に、未発見の部位への強い未練と怨嗟が、怪異を増幅させている可能性が高い。

「指の関節を鳴らす音」「身体を撫でる感触」「影の欠損」「布の下の蠢き」「遺影の黒い穴」「献花の花びらが砕け散る」といった現象は、故人が自身の身体を取り戻そうとしている、あるいは失われた部位が故人を求めているかのような、「結合」への切実な希求を示唆している。

「生臭い異臭」「棺の激しい揺れ」「骨の散乱」「金属片の発見」は、故人が生前受けた暴力的な行為や、解体された苦痛が、死後も魂に強く刻み込まれていることを示す。特に金属片の発見は、事件の凶器や過程に関連する具体的な痕跡が、怪異として現れたと考えるべきである。

怪異が、故人の肉体的な苦痛と、精神的な未練が入り混じった、極めて根源的な恐怖を引き起こしている。それは単なる霊現象に留まらず、人間が最も恐れる「身体の損壊」という要素が強く表れている。


五、対処・対策

事案発生中、高野住職は、故人の魂が身体の欠損に苦しんでいると判断し、読経と共に、失われた部位が安らかに故人のもとへ還るよう、「無縫の供養」を強く祈念した。これは、バラバラになった魂が再び一つになることを願う供養である。

事案後、佐野家に対し、故人の未発見の部位への供養が特に重要であることを説明。事件の早期解決と共に、失われた身体の部位が発見され、故人のもとに還るよう、継続的な供養を提案した。また、寺として、事件の犠牲となった故人の魂の安寧を祈り、特別に遺体発見現場での供養も検討することとした。

今後、バラバラ殺人事件など、遺体が完全でない故人の葬儀においては、故人の「身体の完全性」への未練が強く残ることを考慮し、遺体の欠損を補完する形での特別な供養を導入する必要がある。遺族に対しても、故人の身体への執着が怪異を引き起こす可能性について、より丁寧な説明を徹底する。


六、付記

本件は、故人の死因が直接的に、しかもこれほどまでに肉体的な苦痛と欠損を伴う形で怪異として発現した、極めて衝撃的な事例である。

失われた身体の部位が、死後も故人の魂を苦しめ、現世に干渉する「断片の恐怖」を明確に示した。

極秘記録とし、人間が肉体を失うことの根源的な恐怖、そして魂が安らぎを得るために「完全な形」を求める本能について、今後の研究において極めて重要な資料とする。

故人の魂が、未だに自身の身体を探し求めているという事実は、我々に深い不安と、尽きることのない疑問を投げかける。


【検閲追記】

身体の「欠損」が、外部の穢れを呼び込む要因となる可能性。

失われた部分を埋めるように、"水気"が入り込むという報告あり。

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