ねこの種類
最近、猫の数が急激に増えたように思う。
私は毎朝公園にウォーキングに行っているのだけれど…、猫に遭遇することが多くなった。
一昔前は猫に出会うとテンションが上がるくらいには物珍しかったのに、今では猫を見ない日が、ほぼ、ない。
公園には【猫にエサをやらないでください】という看板があちこちに置いてある。
だがしかし、猫エサの空き缶が置きっ放しになっているのを見かけることは珍しくないので、ルールを守らない人がいることは明らかだ。
おそらく、ここはエサをもらえる場所なのだと知った猫たちが住みついて、繁殖しているのだろう。
ひょっとしたら近所に猫を放し飼いにする人が引っ越してきた可能性もあるが…それもまた厄介そうな話で、些か不穏な空気を感じる。
…とは、いえ。
広い空の下で自由気ままに過ごす猫の姿を見るのは、実に癒される光景では、ある。
広場のド真ん中で砂を掘る猫を見ては、なんという大胆不敵なふるまいかと驚愕し。
ベンチの上で二匹並んで丸くなって寝ている猫を見ては、なんという平和な日常なんだとほっこりし。
散歩しているおじいちゃんの後ろをつかず離れずついていく猫を見ては、なんという面倒見のいいことだと感心し。
数が多いだけあって、いろんなタイプの猫がいるのが…これまた魅力のひとつだ。
毛並みや大きさ、鳴き声に動き…何より、猫個体の性格が実にバラエティ豊かで、ついつい目で追いたくなる。
人の姿を確認したその瞬間に一目散でその場を去る【逃げ猫】。
人の姿を確認したその瞬間に近づいてくる【寄り猫】。
人の姿を確認したらにゃあと鳴く【あいさつ猫】。
人には絶対に声をかけてやらぬと誓っているらしい、無言を貫く【クール猫】。
人間に自分のにおいをつけようとする、【塗り猫】。
人間に怒涛のおしゃべりをかます、【訴え猫】。
人間の膝の上によじ登る、【乗り猫】。
人間に腹をさらけ出す、【ゴロン猫】。
人間がエサをくれるまで甘えまくる、【小悪魔猫】。
人間がエサをくれないと分かったとたんに背を向ける、【塩対応猫】。
猫の種類は、実に多種多様。
まだ出会っていない猫もいるだろうし…、これからも個性豊かな面々に出くわすであろうことを予感する。
……猫が、人に慣れ過ぎてしまったんだろうなと、思う。
本来、野良猫というのは…地域猫というのは、もっとこう…、距離感というか、気遣いというか、危機感というか…、見えない壁のようなものがあった気がする。こうも個性を知り得る手段?きっかけというものが、無かったと思うんだよね…。せいぜいが毛並みの違いで名前を付ける程度の関係性しかなくってさあ。
今も、ちょっと休憩しようと思ってベンチに座ったとたんに、猫が…、一匹、二匹……。
足元で私を見上げている、白茶の猫。
真横に飛び乗り、ベンチの座面でわざとらしく伸びをするサビ猫。
頭突きをしたり、前足を乗せたり、身体をこすりつけたりはしてこないけど、やけに近い位置でリラックスしている。触らせてくれるタイプの猫っぽい。
ちょっとだけ撫でてみようかと、手をのばした、その時。
「この子はねえ、頭を撫でられるのが大好きなの!」
見知らぬおじさんが、声をかけてきた。
「猫、好き?こっちの子は気難しいから触んない方がいいよ、あ、そうそう、噴水のところに仔猫もいるの、先月生まれたばかりだからかわいい盛りでね…」
やけにフレンドリーなおじさんの手には、パンパンに膨らんだコンビニのレジ袋。
「あ、これ、いっしょにあげる?」
差し出されたのは…、我が家にも常備されている、猫のおやつ。
今からここで、あげるつもりらしい。
……ベンチの真横に【この場所で猫にエサをやらないでください】の看板、置いてあるんだけどな。
「あ、いいです」
仲間と思われては、たまらない。
塩対応をして、ベンチから立ち上がると……。
「…なーん!!」
「にゃあ!にゃアアア!!!」
「……」
「にゃっ」
「…、…にゃ」
あいさつ猫に訴え猫、クール猫?寄り猫…塗り猫、いや小悪魔猫?
猫の皆さんがワラワラと集まって来て、あっという間に賑やかになった。
「はいはい、ケンカしない!!今あげるから、ムギちゃんのっちゃダメ、それは子猫用……」
騒がしい声を、背中に感じつつ…。
私は、自宅で帰りを待ちわびている猫たちの元へと、急いだのだった。