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俺に愛せぬ君はいない  作者: オヤユビノツメ
5/7

episode5.遭遇

 ダン!!!


 着地の瞬間、抱きかかえたイフの重みが瞬間的に腕や足にくる。

 たいした高さではなかったが、足が痺れる。

 上を向き、飛び降りてきたところを見ると、そこに木目のある天井は見えない。見えるのは、ただひたすらに黒い闇だった。


 逃げ切れたことに安心したからなのか、力が抜け、その場にへたり込む。

 イフを床に横たわらせ、呼吸を整える。



 ここはどこだ?



 辺りを見回すとそこは倉庫のような場所の一角だった。

 金属製らしき棚が並び、そこにダンボールや瓶などが所狭しと置かれている。棚で見通しが悪く、この空間の全体図を把握することは出来ない。

 自分の居る空間の角からまた別の角は見えなく、それなりの広さはありそうだ。

 床は冷たく、硬い。コンクリートか?

 特に照明らしきものは見当たらないが、ぼんやりと明るい。

 埃の匂いが俺の鼻を刺す。


 身震いをする。この空間全体に妙な冷気が漂っていて、気味が悪い。


 「ん………」


 「起きたか…」

 腕で体を支えながら、イフが体を起こす。

 ゆっくりと辺りを見回し、キョトンとした顔で聞いてくる。


 「どこよ、ここ」


 「こっちが知りてぇよ…君が突然倒れて、部屋が崩れて、くなっていって…どうしようもなかったから穴に飛び込んだんだ」

 上手く説明出来ていないのは自分でもわかる。これで理解できたら驚きだ。案の定イフは怪訝な顔をして、首をかしげながら言う


 「何を言っているのかわからないわ」


 そりゃそうだ

 でもこれ以上なんて言えばいいんだよ…


 「逆に聞くが、君はわからないのか?ここがどこなのか。君の部屋の下にあったんだぞ?」


 「知らないわ」

 俺の希望交じりの質問は、バッサリと切り捨てられた。


 「私自身のエリアなら、自分でもわかるんだけど…この空間には何も感じられないわ。私のエリアとは無関係の場所よ」


 「そうか…」


 頼みの綱だったイフが何も知らないなんて…

 床に寝かせた足から、微かな冷たさを感じる。

 体から何かが抜けていくような感覚におちいる。


 「あなた、今ここでゲートを出すことは出来ないの?ここがどこなのか、なぜこうなったのか何も分からない今、一旦ここから離れた方がいいと思うの。」

 「なんだか気味が悪いし…」


 そうだ、忘れていた。俺にはあのゲートを出す力があった。その事に気が付かなかった自分の間抜けさに腹が立つと同時に、恥ずかしさを覚える。


 さっそく手を前に出し、頭の中であの真っ黒いゲートを思い浮かべる。


 …

 …

 …


 出ない


 何故だ?前はこれで出たはず…

 「ねぇ、ふざけてないでちゃんとやってよ」

 そんな文句を言うイフだったが、俺の顔がみるみると青ざめていくのを見て、ふざけていないことを感じとったようだ。


 「ねぇ、本気?ほんとに出ないの?」


 「…そうみたいだ」


 「ちょ、ちょっとぉ!ウソでしょ!?冗談じゃないわ!」


 俺だって冗談だと思いたい

 こんな訳の分からない状態から抜け出せないなんて…

 一筋の汗が額から頬を伝って落ちる


 「本当だ…本当に出ない………」


 「そんな…」


 感じていた冷気が、更に冷たくなったような気がする。


 「………何の役にも立たないわね」


 イフがボソッと口にする


 「は?元はと言えば君が無理やり連れてきたんだろ?そんなことを言われる筋合いは無い!」


 空気が一気に張り詰める

 

 「むしろ俺が君にそう言いたいよ!」

 「こんなことに巻き込んでおいて、肝心な時は寝たまま?挙句の果てには俺にケチつけるのか!?ふざけるのもいい加減にしろ!」


 言い終わってから、自分の発言を後悔する。勢い任せに言いすぎてしまった…

 イフを見ると…案の定目に涙をうかべ、顔を真っ赤にして歯を食いしばり、プルプルと震えていた。


 「あ…ちが…今のは……」


 訂正しようとしたが、どうにも言い訳が出てこない。俺の言ったことは紛れもなく本心だった。

 俺がどうしようかと1人ドギマギしていると、


 「ごめんなさいね…」


 意外にも落ち着いた口調で、下を向いたままそう言うと、急に立ち上がり、


 走り出してしまった。


 「おい!ちょっ…」


 ちょっと待て!そう言いかけた時だった

 何かが俺に危険を告げる


 気づいた時には飛び出していた


 「危ねぇ!!!」


 ドガァっ!!!!!






 



 間一髪、俺はイフを抱きかかえ、飛び出した勢いのまま硬い床を滑っていく。


 何が起きたのか分からなかった


 ただひたすらに、決死の思いで飛び出した。


 「ゴホッゴホッ!」


 大きく咳き込み、埃の入った目を擦りながら、音のした方を見る。

 埃が舞い上がり、よく見えない。


 「ケホッケホッ…ケホッ………な…何が起きたの?」


 イフも何が起きたかわからなかったようだ


 だんだんと舞い上がった埃が落ち着き、影が見えてくる。

 あれはなんだ?人ではない。しかしものとも思えない。

 ………微かに動いている?


 「ちょっと…何が………」


 イフも見たようだ


 なにか、とても嫌な予感がする。

 ここに来てからずっと感じてはいたが、あんな悪寒がする程度では無い。絶え間なく出続ける冷や汗が気持ち悪い。


 「何…あれ………」

 

 舞う埃の中から()()は姿を現した。




 2つの関節でそれぞれ歪に曲がった4本の指がついた肘に出っ張りのある細長い手

 異常に発達した脚には、鳥類のような鉤爪かぎづめがついている。くびれた胴体や細い腕と比べると、そのアンバランスさが際立つ。

 表面に鱗などは見られなく、紫がかった黒色で、光を反射し淡く光っている。かなり硬そうだ。

 つるんとした頭部には目や鼻、耳などは無く、鋭利で巨大な歯だけが剥き出しになっている。


 そんな“バケモノ”としかいいようのないそれは、足元の無惨にも壊された棚や瓶、壊れた壁の瓦礫を邪魔そうに見下ろしている。




 俺は直感した







 死ぬ


前回傍点ミス→修正→反省

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