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俺に愛せぬ君はいない  作者: オヤユビノツメ
3/7

episode3.出発

 「………食べる」


 そう答えたイフは、俺の持っていたヒエール伯爵を奪い取り、バクバクと食べる。

 名前の割にアイス自体はただのソーダ味の棒付きアイスだ。ガッツリ名前負けしている。

 そんなアイスの今後を無駄に考えていると、


 「うまい!もう一個!」

 

 もう食ったのか

 いくらなんでも早過ぎないか?大きくないとはいえアイス一本を30秒足らずで食ってしまうとは、、、

 

 「どうした?まさかもうなくなってしまったのか?」

 「い、いや、まだある⋯」

 「ならはよぅもってこんかい!」

 

 人使いのあらいやつだ、、、


 2本目を食い終わったら3本目を要求してきた。

 「そんなに食うと頭痛くなるぞ」

 「構わん!もっと持ってこーい!」


 そんなに気に入ったのか。というか、さっきまでの大人びた話し方はどこ言ったんだ?今は完全に子どもとしか言いようのない感じだ。

 そのまま4本目5本目と食べていったイフだったが、7本目で頭が痛くなったらしい。そこで食べるのをやめ、頭を抱えてうずくまった。


 「ふおぉぉぉぉぉ…………」

 かなりキているようだ。これは治るまでにかなりかかるぞ…

 



 「結局君はなんでここに来たんだ?」

 床に寝転がり天井を眺めていたイフは、からだをおこし、こちらに向き直る。


 「わからないわ」


 口調が元に戻った。

 「私たちは『エリア』って呼んでる場所…というか空間にいつもいるわ。そこで世界を管理しているの。空間とは言ったけど、私たちと感覚を共有してるって言うか、私たちの一部…みたいな?」

 そこまで話すと、イフは神妙な面持ちになって話を続ける


 「あの時も私はエリアで世界の管理をしていたわ」


 「何が起こったのか理解できなかった」

 「突然自分の頭にノイズがかかったように、この世界の状況が読み取りにくくなったの」

 「次第に世界に干渉することも難しくなって」

 「こんなこと初めてだったから、どうしたらいいのか分からなくて…」


 「そんな時にさっきの穴がわたしの真下に現れたの」

 「あとは、わかるでしょ?」


 なるほどな、こいつはこいつで結構大変だったらしい。そんな状況でもアイスを食って頭痛くするほど余裕があるのかと思ったが、それは野暮なことだろう。


 「ところで⋯大丈夫なのか?この世界」

 「かなりまずいわ」

 「今は私の管理下じゃないから、この世界は放置された状態にある」

 「つまり、世界のバランスがかなり崩れやすい状態にあるの」

 「今すぐ戻らなくちゃいけないんだけど⋯」

 そこでイフは眉をひそめ、下を向いてしまった。


 「もしかして⋯帰れないのか?」


 図星だったようだ。暗いイフの顔がさらに暗くなる。イフは何も話さない。俺も何も言えず、ただ何も無い空間をながめる。


 あの穴のことを思い出す。


 手を前にかざす。


 自分でも馬鹿なことをしていると思う。なんだかできる気がした。そんな理由にもなっていない理由で俺は想う。

 穴、出ろー!!


 ぎゅぉおん!


 「どぅわぁ!」






 でた。






 出てしまった。さっきと同じく真っ黒で、全てを飲み込みそうな穴。170cmの俺がすっぽり入るくらいの大きさで、楕円形の穴。


どうやら俺は人間卒業らしい。


 まさか本当に出るとは⋯


 「なに!?今のお…と………」


 イフは音のした方に勢いよく顔を向ける。と、同時に目をこれでもかと見開き口は顎が外れんばかりに開ける。

 それもそうだ、帰れないと思った矢先、帰る手段が目の前に突然現れたのだから。


 てか本当に俺が出したのか?だとしたらなんで出せたんだ?さっきと同じ穴なのか?


 疑問は尽きないが、俺は考えている暇は無かった。というか与えられなかった。

 イフが俺を首が取れるかと思うほどに揺さぶる


 「ちょっと!どういうことよ!なんでこれが出てきてんの!?あんたがやったの!?どうやって!?あんた何者!?」

 

 勘弁してくれ…

 俺だってさっきからわけのわからないことの連続で、頭がパンクしそうなんだ…

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺だって何が何だか…」

 「こうしちゃ居られないわ!行くわよ!」

 「は!?行くってどこに!?」

 「決まってるじゃない!私の『エリア』よ!もちろん!あなたも一緒よ!」

 …

 …

 …

 は?

 こいつは何を言ってるんだ?


 「なんで俺も?」

 「?…当然でしょ?」


 何がどうなったら当然になるんだ

 イフはキョトンとした顔をしている。俺がなぜ一緒に行くことに疑問を抱いているのかイマイチわからないといった表情だ。


 「い、いや…俺は別に…」

 「何言ってるの?これ出せるんだから、他にもなんか出来るかもしれないでしょ?もしかしたら役に立つかもしれないし、なんかあった時ここに逃げれるしね!」

 「てゆーかさっきから『穴』とか『これ』とか、いちいち呼ぶのがめんどくさいわね」

 「そうね…『ゲート』って呼ぶのはどうかしら?いいわね!そうしましょう!」


 話がどんどん進んでいく

 俺が同行する理由としては大雑把すぎると言うか、適当すぎるというか…こいつは俺をなんだと思ってるんだ?

 「ちょ、ちょっと待ってくれよ!俺は…」

 「ごちゃごちゃ言ってる暇はないわ!今この瞬間にもこの世界のバランスは崩壊しつつあるの、急がなきゃ!」


 そういうとイフは勢いよく立ち上がり、俺の腕をがっしりつかんで穴…ゲートに引っ張っていく。

 存外力が強く、抵抗することも出来ずズルズルと引きずられていく。抵抗しても無駄だということを悟った俺は、大人しく引きずられることにした。

 このまま抵抗して「じゃあもう帰らない!こんな世界、滅んじゃえ!」なんて言われては敵わんしな…





 小さくてやわらかい手だ。





 なんか…どうでも良くなってきたな………



 悟りを開きかけている俺をイフが現実に戻す


 「ほら!着いたわよ!私の『エリア』に!」

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