episode2.自紹
「とりあえず、話でもしようか、、」
とは言ったものの、何を話せばいいんだろうか。一応居間へ移動して、低いテーブルに向かい合うようにして座ってはみたが、、、
いざ話すとなると、どうにも言葉に詰まる。何を話せば、、、
「ねぇ」
突如、頬杖をつき横を向いていた少女が話しかけてきた。
一瞬ビクッとしたが、すぐに顔を上げ、視線は横に逸らしつつ少女の方を向いた。
「なんか話してよ」
難しい注文が来た。勘弁してくれ、、、
「あー、自己紹介とかするってのは?」
「いいんじゃない?」
、、、さっきまでは多少なりともしおらしい態度をしてたのに、
高圧的ではないが強気というか高飛車というかなんというか、、、
「じゃあ、、俺から、」
「俺は伊吹 仁、17で高校生だ、、、不登校だけどな」
ついタメ口で話してしまったが、敬語の方がよかっただろうか。
というか、とても緊張する。寝巻き代わりに着ているジャージで、絶え間なく滲み出る手汗を拭う。
「不登校?なんで?ってか趣味とかないの?好きなことは?好きな食べ物は?無いの?そんなんだから不登校なんじゃ無いの?」
、、、タメ口でよかったようだ。容姿、声共に完璧であるのにもったいない。痛いところを突いてくる。確かにそうなんだが、キツい。
「で?自己紹介だっけ?」
と言うと、急に豹変した。
「ふふん!耳かっぽじってよぉく聞きなさい!」
そう言ったとたん、勢いよく立ち上がり、親指で自分を指さしつつ誇らしげに俺を見下ろしながら言った
「わたしはこの世界の管理者!『イフ』よ!」
世界の管理者?何を言っているんだ?こいつは?
「この世界の人、宗教、戦争、自然とか、この世界のありとあらゆるモノやコトを管理しているの!」
「つまり、この世界の全ては君が操作しているってことか?」
「うーん、そうとも言えるけど、そうでないともいえるかな。」
「、、、意味がわからない」
というか、こいつの存在自体意味不明だ。
突然穴から出てきて世界の管理者と名乗る少女
訳の分からないことが次から次へと舞い込んでくる。
そういえば、いつの間にか顔を見て話せている。あまりにも可憐な少女を神聖化していた俺の中の何かが、イフの性格によって崩れたのだろうか。
そのおかげでまともに話せているが、良かったような、少し悲しいような、、、
「ものすごく簡単に言うと」
「私はこの世界を見守ってるの」
「あ、もちろん!見てるだけじゃないわよ!」
「例えば地球!地球の自然はものすごいバランスで成り立ってるでしょ?」
「多種多様な生物が居ながら、ある種だけが増えすぎることも無く、少なくなりすぎることも無く、強い生物が弱い生物を喰らい、死ねば生態系の中で最も弱い生物の糧となってまたそれが繰り返される。」
「そんな感じの絶妙な均衡を保つのが私たちの使命よ!人間のせいでちょっと崩れつつあるけど…」
「均衡を保つって、なんかその星とかに必要な生物を生み出したりとか?」
「それは私たちの役割のほんの一部だけど、だいたいそんな感じよ。意外と理解が早いわね。」
なれない正座で痺れてきた足をくずし、寝癖を直しながら聞く
「人間は今すぐ皆殺しか?」
「それはちがうわ」
「私たちはそんなすぐに影響を及ぼすことはできないわ。ものすごーく長い時間をかけてゆっくりと元の形に戻していくの」
「あまり詳しいことはわからないけど、地球ならそのうち人類が滅んだあと、また新たに一から生態系が築かれて行くんじゃないかしら。」
「なるほど。、、、よく分からんが、君が言うならそうなんだろうな。」
普通ならこんな素直に納得できないと思うが、あんなド派手な登場をされては、その後のことなどなんであろうとホイホイと受け入れることができてしまう。
とは言ったが、ひとつ引っかかることがある。
「なぁ、さっき、私『たち』って言ってたが、どういうことだ?他にもいるのか?」
「いるわよ」
それを聞いても特に驚かず、「あ、そうなんすねー」と流せてしまっている俺は、もう壊れてしまったのだろうか。
「他にもこことおんなじような世界がいっぱいあるの」
「そこを管理しているのは、私とはべつの私よ」
「つまり、君たちは何人もいて、それぞれが別の世界の観察、調整をしてるって感じか?」
「そゆことー」
完璧に理解するにはとんでもなく時間がかかりそうだ、、、あまり深く考えないようにしよう
お前はどこから来たんだーとか、その使命は誰に与えられたんだーとか、いつから存在するんだーとか、そもそも世界ってなにーとか、聞きたいことは山ほどあるが、今はのみこんで1番聞きたかったことを聞く
「なんでここに来たんだ?」
自分の高貴で尊い使命の説明を終えて、満足そうにしていた顔が一瞬で歪む。
そしてそのまま泣き出してしまった
「あ、あだじだっでこんなどごろきたぐできたんじゃないわよー!」
顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらわんわん泣きじゃくるイフ
目の前で女の子に泣かれたことのない俺はどうしてよいか分からず、戸惑うことしか出来ない。
ふと、冷凍庫に昨日買ったアイス、ヒエール伯爵を入れていたことを思い出す。
焦りに焦った俺は神、、、いや、ヒエール伯爵の製造会社、氷漂食品にすがる思いでヒエールを取り出し言った、
「アイス、、、食べ、、る」
ミスった
なんで急にアイス食べます宣言してんだよ!アイスでも食って一旦落ち着こうとかなんとか言うだけだろ!さっきまではそれなりに話せてたのに!くそっ!沈黙が気まずいぃ、、
「アイ、、ス?」
「え?あ、ああ、アイス、、、」
「………食べる」