episode1.邂逅
ぎゅぉおん!
そんなゲーム内でしか聞かないような音で俺は飛び起きた。
ネットで見た光を99.9%吸収するインクのように真っ黒で、円形で、平べったい。
そんなものが俺の目の前にあった。
なにこれ?
そう戸惑いつつどうしようも出来ないでただ眺めていたその時
「どぅぉおああああああああ!!!!」
穴の中からすごい叫び声がどんどん近づいてきた。
そのとき、
ゴッ!!!!!!!!
鈍い音が脳内にヒビく。
何が起こったのかわからない。激痛の走る頭を抑える。ものすごく痛い。
「いったたたたた………」
「えっ!あれ…?あっ、ご、ごめんなさい!まさかこんなことになるとは思わなくて………」
直後、俺は痛みを忘れた。ものすごい幸福感に包まれた。耳が幸せだった。
この世のどんな美しい女性の発する声も、気持ちのいい朝に聞く子鳥のさえずりも、プロの洗練されたワザが奏でる演奏も、この美しく可愛らしい天使のラッパのような声には敵わないと瞬時に感じさせられた。
俺は恐るおそる顔を上げた。
天使だ…
そう直感した。せざるを得なかった。
太陽を直接見た時のような眩しいほど純白で、腰ほどまではあろうかというほどの髪。
髪に負けないほど白く輝く美しい肌。ぷっくりとした頬と小さい唇、長いまつ毛とそれに包まれた赤い大きな瞳は
見るもの全てを惹きつける魅力を放っていた。
そんな15歳ほどとみえる少女は、着ている生地の薄い、膝下ほどのワンピースまでも白だった。
羽は生えていないが、生えていたとしても全く違和感はないだろう。
驚きと感動のあまり声を出せずバカみたいに口を開けただ目を見開き、じっと見つめることしかできないでいる俺に少女は言った、
「だいじょうぶですか?」
「あ、ああ…」
何とか絞り出した声は、すぐに彼女の次の言葉によってかき消された。
「てか…」
「あー!どうしよー!ここどこ!?なんでこんなところに私いるの!?『穴』消えてるし!私帰れるの!?ってかほんとにマジでどうしよー!!」
正気を取り戻しつつある頃、未だに大声で喚いている少女に声をかける。
「あー、そろそろ…
「今すぐ戻らないとでもさっきの『穴』消えちゃったしでも何とかして戻らないとでもやっぱ戻れないしどうしよどうしよやばいやばいやばばばばば……」
「おい!」
「ひゃい!」
しまった…
大声を出しすぎた。怖がらせてしまっただろうか。やらかした。何をやってるんだ俺は。
「あ、ごめん…… 」
「え、あ…こちらこそ………」
少女の驚いた表情が申し訳なさそうな、訝しげな表情に変わる。
「とりあえず、話でもしようか…」




