196. 免許皆伝試験
(俺はもうレイに教えられることはない。どんな結果であれ免許皆伝自体は言い渡せる。ただまあ…腐っても俺はレイの兄だ。どこまで成長したかをこの目で確かめたい。ここに残る気ならなおさらな。)
(お兄ちゃんは人の気持ちも乙女心もわからないし全然尊敬できない。でも魔法だけは違う。こうして向かい合わせに立つとわかる。お兄ちゃんに対してどう攻めればいいか全然わかんない。どう魔法を使ってもお兄ちゃんに届くイメージが全然つかない。隙がなさすぎる…)
お互いが精神を研ぎ澄ませていく。既に開始の合図は出ているのだが、どうにも攻めきれない様子だ。
「来いよ、いつまでそうしてる気だ?」
「………お兄ちゃん。お兄ちゃんは自分じゃ勝てないぐらいの相手と戦う時どうしてる?」
「愚問だな。その時に持てる力を最大限活かす以外ない。結局は今までの積み重ねだ。その瞬間で打開策やら覚醒やらが起こるかもしれないが、そんなものに期待してるようじゃいつか死ぬ。それに、試合に勝つことだけが勝利ってわけでもないからな。」
場合によっては逃げも勝利になるし、負けが勝利に繋がる可能性もある。時と場合によるとしかいいようがない。
「すぅ………はぁ………ありがとうお兄ちゃん。もう大丈夫。」
「俺の想定を超えてみせろ、レイ。」
「炎よ、我に応えよ!炎生成魔法!」
レイから放たれる炎が結界のように周囲を覆う。今までに見たことのない初めてのパターンだ。
「炎生成魔法の火力じゃねえな…」
水速射魔法で鎮火を試みると、むしろ火力が上がる。
「へえ、やるじゃないか。」
「ここからだよ、お兄ちゃん!」
そうして戦いは始まった。
お互い余裕のある前半戦。ここはお互い無言になる。発声せずとも魔法は放てるし、むしろ念じた方が速く出る領域にまで達しているからだ。
エルラルドはレイの攻撃を受け流しながら最小限の消耗に抑える。
レイは炎魔法を次々と放ち、隙を見て魔力を溜めていく。
(全然駄目…汗一つ流してない。むしろ早く次を見せろって言ってくるみたい…)
(今まで撃ってきた炎が消えない。恐らく俺の上空にあるでかい魔力の塊を作ってるんだろう。)
レイはエルラルドに受け流された炎を制御し、上空に溜めていく。合成された炎はさらに勢いを増して混ざり合い、太陽のような日照りを生み出す。
(お兄ちゃんも気づいてる……レイを待ってるのか対処せる必要すらないか……やってみればわかるっ!)
そのまま巨大な炎球がエルラルドに向けて降り注ぐ。先ほどの理屈なら水魔法は意味を成さない。風魔法で飛ばせるほどの質量でもないし、地魔法で防げるほどの威力じゃない。
それでもエルラルドは体勢を変えずに立っている。
「お前は確か見たことなかったよな。」
そう言うと一瞬にして小さな太陽が消滅する。
「っ………すごいね、本当にすごい。」
「魔素の霧散化ってんだ。魔素を操れるなら覚えておけ。」
「教えることないんじゃなかったの?」
「知識ならいくらでも教えられるさ。」
「そう…」
瞬間気配が変わる。魔素炎陣、レイのみが扱える領域のようなものだ。
「来たか……」
自分の周りに結界を張り、空間を作り魔素を確保しながら結界の維持を行う。
使える魔素はこの結界内に残っているもののみに限定され、レイは無限に炎に変換させてくるのが厄介で、マールやハクすら手も足も出ない力だ。しかしもう一つ厄介なもの_
「ここからが本番だよお兄ちゃん!灼熱爆破魔法!」
灼熱系の解禁。炎系の上位互換だが、必要魔力量もとてつもない。故に空間中の魔素を一度自身に取り込んで調節する。
「天地消滅光線でようやく相殺なんだ。まともに受けれないな。」
(とてつもない質量と威力。だからこそやりようはいくらでもある。)
ズゴーーーン!!!
着弾地点は耳をつんざくような爆音が轟き、爆煙に包まれる。
「はぁ……はぁ……はぁ……もしかして……直撃しちゃった…?」
煙が晴れるとそこには何も無い。パチパチと燃える炎と巨大なクレーターだけが残っていた。
「嘘……お兄ちゃん!?」
(上…?いない……もしかして本当に…?)
「本当に死んじゃったの…?」
「そう思うか?」
刹那、レイの背中に手を当てられる。
「お兄ちゃん…?」
「俺がいないと気づいた瞬間俺を探したのは良かった。慢心せず油断しないようにした結果なんだろう。だが甘かったな。」
「なんで…?どうやってあそこから……」
「下だよ下。地掘削魔法とでも言えばわかるか?こんな初歩的なものに引っかかるとはな。」
俺のいた世界では常識レベルで古典的な奇襲法だ。
「そっか…レイにはまだまだ経験が足りないってことなんだね…」
「それでもお前はすごいさ。あの時俺には地下に潜る以外の方法が思いつかなかったぐらいだからな。俺に逃げる選択肢しか与えなかっただけで十分すぎる。問答無用で免許皆伝だ。」
「うん、今までたくさん教えてくれてありがとうお兄ちゃん。」
「どういたしまして。」