188. 爆弾発言
翌日、ラルスの泣き声でまた目覚める。うんざりする俺を見て苦笑しながら的確にマールが対処し、大人しく腕に抱かれている。
その後簡単に朝食を済ませたところでレイは学校に向かい、5人が残る。ちなみに学校長は気を遣ってるのかラルスが生まれてから家に戻らない。おかげで余計な気を使わなくていい。
「よし、そろそろ次の段階に行こうと思う。」
「ちょっと待ってくれない?ラルスがお腹空いたみたいで。」
「あ、ああ…」
背を向けてその様子を見ないようにしているのだが、そのせいで3人からクスクス笑われる。
「エルラルド様があんなに可愛らしいだなんて…!」
「同感です!ご主人様は恥ずかしがり屋ですからね!滅多に見せないので貴重ですよ!」
「ふふ、二人ともエルをからかったらまた照れ隠しで怒っちゃうわよ?」
(落ち着け……冷静になれ……ここで反応したら負けだぞ……)
しばらく経ってから、
「終わったわ。話を続けましょうか。」
「あ、ああ。」
振り返ると案の定3人とも口元が緩んでいる。レイだったら絶対ニヤニヤしてくるので本当にいなくてよかった。
「………取り敢えず、これからやるべきことは三つだと思う。一つ目は家の再建。いつまでもここにいるわけにはいかないし、自宅の方が気を張らなくていい。これはマールに任せたい。」
「あなたは今魔法が使えないものね…」
「ああ、そこで二つ目は俺の魔法回路の修復、及び魂の研究だ。一か月経っても治らないなら今後も治らないかもしれない。これは今のところ俺一人でやるつもりだ。」
「お一人で大丈夫ですか?」
「ああ、まあ緊急じゃないし気長にやるさ。」
現状禁書庫の立ち入りを許可されてるのは俺だけ。もう一度潜り、何かいい情報がないか探そうと思っている。マールが昨日言った通り自分の世界に入ったほうが集中力が爆上がりすることも一人でやる要因の一つだ。
「そして三つ目がラルスの世話。ここにいるときもあるかもしれないが基本は俺もマールも外で作業する。昼の間だけでもラルスを二人にお願いしたい。」
「かしこまりました。」
「かしこまりましたわ!」
レイは残念ながら学校から手を離せない。まあ今回に関して正直に言えばレイを使う必要がない。美化して言うならばそろそろあいつはあいつなりの人生を歩むべきだ。
「明日から始めたいと思う。今日はマールのために家の簡単な設計図を描いておきたいからな。何か質問はあるか?」
「よろしいですか?」
ハクが挙手する。
「ああ、問題ない。」
「ご主人様にというよりマール様になんですけど……もしラルス様が授乳を望まれた場合はどうすればよろしいでしょうか…?」
「うーん……そうねぇ……」
そう言えばそこは盲点だった。ハクもソフィもまだ出来ないのだ。それに出来たとしてもやっていいかはまた別の問題だ。乳母的な存在がいるのかは分からないが、任せたくないという人も多いだろう。
そんな中マールから爆弾発言が飛んでくる。
「ハクちゃんも妊娠する?」
一瞬何を言ったのか分からなかったし、ハクもソフイもそうだったと思う。そして俺が何かを発する前にハクが慌てふためく。
「な、なななななななな何を仰ってるのですか!?!?私が妊娠!?」
チラッと俺の方を見てすぐに顔を真っ赤にして背ける。
「そ、そんなことできませんよ!確かに私はご主人様のすべてを受け入れる覚悟はしてましたがこんないきなりは…!第一私は一端のメイドです!それが主と関係を持つなど…!」
「わ、わたくしは問題ないですわ!ハク様に出来ないことがあるならばわたくしに!」
「ソフイさん!?」
「ソフイちゃんには早いわよ。だってまだ9歳だもの。その点ハクちゃんは問題ないでしょ?」
「い、いや……でも……こういうのはもっとこう……いい雰囲気でやるもので……誰かに流されてするのは……」
何度もチラチラとこちらを見てくる。満更でも無さそうなのが可愛らしい。
「ふふ、冗談よ。ハクちゃんってほんと可愛らしいわね。」
さらにカアァッと顔を赤らめて俯き、耳もペタンと下がってしまう。それがさらに愛らしい。
「もしそうなったら呼んでくれない?私なら次元間移動魔法ですぐ戻れるから。」
「なるほど…ですが連絡手段はどうするのですか?」
「心配しなくていいわ。まだ粗削りだけど、私も少しだけ波動を使えるからハクちゃん達の声で判別しようと思うの。」
(は?え?今何つった?波動を使える?理論を教えただけでやり方とか何も説明してないんだぞ…?)
魔法の方が主体で感覚的なので大衆的に理解しやすい。故に科学の発展が遅くなってしまう。突き詰めれば科学も魔法ではできないこともたくさんあるのだが、そこまでの道のりが遠いせいで誰も手を付けようとしないようだった。
そんな中ちょっとしたきっかけだけで現代物理を理解しきれるのだろうか。
(少なくとも俺は特定の音だけを届かせることなんてできない。一応波を大きくすればできなくはないがそれだとハク達の声が響き渡るだけで、聞き分けるわけではない。回析を応用させるのか?いや…不可能だ。対象が移動しているならハクの波がマールに届く可能性は限りなく低い。なら一体何を使って音の選別ができるんだ………突発的なひらめき?それとも狐種だから?俺よりも柔軟な発想ができるのは間違いないだろうしマールならできるのかもしれないが……にしても限度がないか…?)
もはや意味がわからない。天才ここに極まれりとはマールのためにあるのではないだろうか。
「もう、あなたってば!」
肩を揺さぶれることでようやく戻ってくる。
(おっと、またやってしまったな……というかいつの間にかハクもソフイも作業に戻ってる。)
「わ、悪い……ところで話は終わったのか…?」
「うん、終わったわ。だから簡単な家の設計図を書いてくれない?私家造りとか全然分からないから。」
「わかった。魔法で作るのか?」
「そうね、今は質より速さだから。」
「なら俺も前みたいに凝りすぎずに簡易的に書くかな。」
(これが終わればようやく自分のことに専念できるし。)