閑話. 女子会
エルラルドが料理中の時のことである。
「マール様、ただいま戻りました。」
「あら、お帰りなさい。エルと楽しめた?」
「は、はい……その、すみませんでした。ラルス様を産んで大変な時にご主人様の時間を取らせてしまって……」
「いいのよ。だってあの感じ見るとエル全然頼りなさそうだし。」
微笑みながら腕に抱かれているラルスを見つめる。
「奥様もご子息様もお変わりなかったですわ!」
「そうですか…それなら良かったです。」
彼が危惧していたことは起こらなかったようで一安心の息をつく。
「お兄ちゃんはもうちょっと女心をわかってあげるべきだと思うんだけどなぁ……あれ?そう言えばその肝心のお兄ちゃんは?」
「今はキッチンで夕食の支度をしていますよ。」
「…………え?なんて?」
「ご主人様は夕食を作っています。」
その言葉に三人が顔を見合わせて、すぐにまたハクの方を向く。
「う、嘘だよね…?あのお兄ちゃんが…?」
「あの話は冗談じゃなかったですの…?エルラルド様って料理できるのでしょうか…?」
「指切ったりしないかしら……エルまだ魔法使えないんだから無理しなくてもいいのに……」
レイは驚愕、ソフィは不安、マールは心配と三者三様の反応をする。
「もう、大丈夫ですよ。私がまだ小さかった頃何回かご主人様の料理を食べたことがありますけど、どれも美味しかった記憶ですから。」
「そうなのですか!?」
「はい。ご主人様も料理ができるんですから、ソフィさんも早く家事を覚えてください。」
「ハク様の教え方が悪いですわ!エルラルド様のお造りになられた家では違うとばっかり仰られてもエルラルド様のお造りになられた家が想像できませんもの…」
「それこそしょうがないじゃないですか…ご主人様の造った家は現代のどの建造物より未来的なものなのですから…」
少し話が逸れてしまった。
「コホン。まあそういうことなので、今晩のご飯は期待していいと思いますよ。」
その時、ラルスがいきなり目覚めて泣き喚く。
「ふぎゃー!ふぎゃー!」
「もうお腹空いたのかな…?」
「うーん……多分違うわ。」
次元収納魔法からおむつを取り出し、ソフィに渡す。
「お願いしていいかしら?片腕じゃできなくて…尻尾は私が上げておくから。」
「は、はい!かしこまりましたわ!」
おむつと言っても紙ではなく布のものなので使い回しにするのだ。
「終わりましたわ!」
「じゃあ貸してくれる?」
手渡すと、すぐに水浄化魔法で完璧に綺麗になる。そしてそれをまた次元収納魔法にいれる。
そのまましばらくあやしてやるとすぐに大人しくなった。
「すごいねマール姉、何で泣いてるだけなのにわかるの?」
「うーん……私でもわからないことはあるわ。勘がいいからかしらね。」
「母親の勘というものですか……流石はマール様ですね。」
「そうかもしれないわね。でもハクちゃんもすごいじゃない。私じゃできないこともたくさんできるもの。」
「いいですわね……わたくしも何か取り柄が欲しいですわ…」
「ソフィちゃんもきっと見つかるわよ。何でもいいのよ?自分にしかない個性を伸ばしていくの。」
(わたくしにしかない個性……そう言われてもわかりませんわ。何しろわたくしの人生は牢屋にいた頃の方が長いのですし…)
「そうですわ!皆様の長所を教えてくださいまし!わたくしも何か活かせるところがあるかもしれませぬゆえ!」
「そうねぇ……私はやっぱり魔法ね。エルと同じくらいの魔法を使えるのが私の強みだと思うわ。まだエルのために何かできたわけじゃないんだけどね…」
「レイは実質魔力無限なところかなぁ…その魔力のおかげで強い炎魔法が使えるし。」
「私は蝕毒魔法がそれなりに使えるのと…家事全般はできますね。ラルス様のお召し物や私のメイド服も自作です!」
「そちらのメイド服はハク様の自作だったのですか!?すごいですわ!どのように作られるのでしょう!」
少し食い気味にハクに詰め寄る。
「よくぞ聞いてくれましたね!私のメイド服は世界に一つだけのものなんですよ!なにしろご主人様の服を使って作られてますから!」
待ってましたとばかりに熱く語るが、その瞬間空気が凍る。
「は、ハク姉…どういうこと…?」
「私が見てる限りはそんな様子無かったと思うんだけど…」
「エルラルド様のお召し物を使ってというのは…」
「これは仕事パフォーマンスの維持のために必要なことなのです!毎日ご主人様に包まれながら起きてご主人様に包まれながら寝る……というわけで私は今もご主人様に包まれてるのです!」
「できたぞー。」
料理を終えたエルラルドがドアを開けて入ってくる。
「何してんだお前………」
「あ、ご主人様!今は私のメイド服の成り立ちについて話していました!」
「お兄ちゃん……実は…ハク姉のメイド服にお兄ちゃんの服が使われてるみたい…」
「ん?ああ、知ってるぞ?」
「……そう言えば馬鹿兄貴だった…」
このときから、三人はハクに対する認識を改めようと思ったのである。