175. 身勝手な願い
スライト城東部_
3人が爆炎の中から現れ、混乱している兵士たちに向けて武器を構える。
城内に残っている兵は近衛兵などが多く、それぞれがBランク以上の実力を備えていた。
「さあ暴れまくってやるぜ!」
「お前が一番の不安要素だ。足引っ張るなよ。」
「んなことわかってらあ!お前も思う存分暴れてえだろ?」
「いやレイはハク姉達の時間を稼げれば……」
「いいから行くぞ!」
我先に切りかかりに行くカエドス、それをカバーするフラント、そして後方からフォローするレイ。
連携がうまく型にはまり、数十人の近衛兵相手でも善戦ができていた。
「おらおらおらおらぁ!!死にてえ奴から前に出ろよ!」
「お前から突っ込んで行くんだろうが…」
「炎災害魔法!炎災害魔法!」
しかし、それは手を上げて喜べるようなものではなかった。
(レイはお兄ちゃんみたいに治癒魔法を使えない。だから一度劣勢になったら覆せない……)
事前に伝えてはいたのだが、戦法的に諸刃の剣であるゆえにいつまでも戦えるわけではなかった。
早期決着、今回は時間稼ぎではなくそっちを選んだ。エルラルドが自力で脱出できない以上救出した後も戦力にならない可能性があるということを考慮したからだった。
「もっと、もっと殺さないと……」
「水攻球魔法。」
突如現れた魔法に誰も反応できずレイに直撃する。
「レイ!」
「れ、レイは大丈夫です…!それよりも今の声って_」
「水速射魔法、水流動魔法、地斬撃魔法。」
次々と魔法が放たれるが、今度はフラントがしっかりと反応し防いでいく。
「くそ!声はするのにどこから魔法を撃たれてるのか全然わからねえ!いったいどうなってやがる!?」
「この戦法は間違いない……何で……何で裏切ったの…?レイ信じてたのに……」
「二人とも落ち着け!今は目の前の敵に集中しろ!」
まだ兵士の数もそこまで減らせていない。それに加えて魔法も飛び交い始める。
そこを境に、3人は徐々に押され始めていった。
特にレイに心理的負担がかかり、魔法の威力が下がってるのが一番の原因だった。
「レイ、今はとにかく落ち着け。エルラルドを救うのが先決だ。それ以外のことは考えるな。」
「お兄ちゃんを助ける……わかってるけど…」
「甘ったれるなよクソガキ!」
カエドスがレイの胸ぐらをつかみ怒号を浴びせる。
「完全防御魔法!早く終わらせろ!長くはもたん!」
ドーム状に結界を張り、あらゆる攻撃を防ぐ。それを確認したカエドスがさらに続ける。
「メソメソしてんじゃねえよ!エルラルドを救いたいってお前が言うから連れてきたんだ!だったらそれ以外のことは何一つ考えるな!」
「だって…グレイスの声が聞こえたんだもん……」
「グレイス?ここの第三王子か。そいつが攻撃してくるのは当たり前だろ?一時の感情で国や身分を全部捨てて堕ちる貴族なんていねえだろ。常識的に考えろよ。」
正論が深く突き刺さる。
「それでも……それでもグレイスが裏切ったなんて思えない。レイの知ってるグレイスはレイに攻撃してきたりしない。」
「だったらもう好きにしろ。って言いたいんだがエルラルドに後から責められるのは分かってるんでな。」
「早くしろ……もってあと30秒だ……」
結界にヒビが入り、フラントが苦悶の表情を浮かべ始める。
「だークソ!強情なとこはあいつそっくりだ!要は兵士を全滅させてそのグレイスってやつを捕らえればいいんだろ!?」
「う、うん…!ありがとう…!」
「顔を出さないところを見るに隠れながら魔法を使ってるはずだ。だから結界が割れたらお前は全力で魔法を使っていい。俺がフォローする。」
「わかった!」
魔力を練り上げ始める。大気中の魔素を自分の魔力に変換していく性質上、結界も想定より早く割れてしまう。
「なっ!?」
しかし、むしろ濃密な魔法の源を吸収したおかげで外に漏れ出るほどの魔力が漲る。
自身の魔力を凝縮していき、弓矢のようにしならせてその反動を使って放つ。
「灼熱災害魔法!!」
荒れ狂う業炎が周囲を焼き尽くし、スライト城東部だけでなく中央にまで差し掛かるほどの破壊力だった。
「流石はあいつの妹だな……」
「はぁ……はぁ……はぁ……グレイスは…?」
「水災害魔法。」
業炎の中から魔法がレイに向かって飛んでくる。
「チッ!」
カエドスが寸前でレイを蹴り飛ばす。
「きゃあっ!?」
身体が転がっていき、魔法は躱せたが痛みに悶絶する。
「動けねえならそこで横になっとけ。」
「うぅ…ひどい……」
「フラント、まだいけるな?」
「ああ、問題ない。」
「わがままなお姫様のためにあの王子を捕らえてやるとするか!」