174. 一心同体
「ご主人様……すぐにお助けしますからね…」
「準備はいいか?レイ。」
「うん…大丈夫。」
「レイちゃんの好きなタイミングでいいわよ。」
「お前はお前の自由に動け。俺達がフォローする。」
「あっしらもエルっちに振り回さてばかりだったっすからね!」
全員がすぐに行動できるよう体制を整える。
レイも魔力を集中させて多分自分のタイミングで始める。
「みんな、行くよ!灼熱爆破魔法っ!」
解き放たれたすさまじい爆発に乗じてハク、プロディ、ベルンが城に侵入する。
「レイ、立てるか?」
「うん、大丈夫。まだ戦えるよ!」
「俺たちも行くぞ。」
レイ、カエドス、フラントも爆心地に向かって時間を稼ぎに行く。
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ゴゴゴゴゴゴ……
地上で何やら衝撃があったのか地下は激しい揺れに襲われる。
「……地震ですの…?」
普通はそう思うだろう。だが俺は感じた。俺が世界で一番信頼できる優秀なメイドの気配を。
「やっとかよ……おい、お前は隅で大人しくしてろよ?」
数々の暴力を受けたソフィは最初出会った時の綺麗な顔にはあちこちに痣ができ、威厳もプライドもへし折られて帝都の王女とは思えない有様になっていた。
「何が起こるか知ってますの…?」
「こんなところで処刑されるわけにはいかないんでね。俺は脱獄させてもらう。」
その言葉に眉をひそめられる。
「脱獄…?無理ですわよ…ここの門番はAランク相当の実力だっておっしゃってましたもの…」
「Aランク?それがどうした。俺の仲間はその程度で止まるほど軟じゃねえんだよ。」
ちらりと牢の外の様子を見ると、巡回していた兵どもが虫のように慌ただしく動いている。その様が実に滑稽で仕方ない。
「も、もし……本当に脱獄できるなら……」
「言いたいことがあるならはっきりと言え。」
「わ、わたくしも連れてってくださいまし!」
「嫌だね。誰がお前なんかを。」
考える余地すらない。即答だった。
「あなたがわたくしを、いえ帝都を恨まれてることはよくわかりましたわ。それでもわたくしをここから出してほしいのです。あなたの奴隷でも何でも構いません。殴られ役になれと申されるならなってみせます。囮にもなってみせますわ。わたくしはここで一生を終えたくありませんの…」
「帝都の人間の言葉なんて信じられるか。お前の国は侵略戦争をしている。そんな国の王女なんて同じようにクズに決まってら。」
「エルラルド様は犯罪者の家族は犯罪者だと言いたいのですか?」
「……」
(それは…刺さるな……)
この世界に来て初めての怒りはそれだった。初めてマールと出会ったとき、獣人は虐げられていると言っていた。その時の俺は確かに思ったはずだ。
『犯罪者の家族は犯罪者ってか?ふざけんなよ。俺はそういう理不尽が嫌いなんだ。』
(昔の俺と今の俺は違う。だが……自分の周りはよくて他はだめなんてのはもっと理不尽なんじゃないのか…?)
俺はどこまで綺麗なことを言っても犯罪者だ。そしたら俺の周りは犯罪者なのか…?マールやハクは人を殺していないし、レイは片足を突っ込んでいるかもしれないがまだ戻れる。犯罪者ではない。
(………俺が感情論で決めるなんて、柔らかくなったもんだな。)
「そこまで言うならいいだろう。お前はこれから俺の奴隷だ。俺の命令には絶対服従だと魂に誓え。」
「わかりましたわ。」
こちらも即答。体の関係を迫られても断れないし、死ねと言えば死ななければいけない契約だと言うのに……こいつはきっと後先考えない馬鹿に違いない。
「わたくしはエルラルド=アルセトラ様の命に全て従うことを今、魂に誓います。」
「なら最初の命令だ。メルドに戻るまでは俺の肉壁になれ。」
「エルラルド様の御心のままに。」
こいつを使えば俺の目的のために少しは優位になるかもしれない。
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地下牢にて、襲ってくる兵たちを蝕毒魔法で抑えながら
「ここまで来てもエルっちの反応がないっすね……」
「…………感じました。こっちです!」
ハクが先導で進んでいき、プロディとベルンもあとに続く。
「プロディでもわからないのにハクちゃんはわかるって不思議よね……前にもこんなことがあったような…」
「変異迷宮でエルっちがハクっちの居場所を特定したときのことっすね。」
「すごいわね、まさに一心同体。あいつとハクちゃんはきっと魂同士で深い絆が生まれてるんだわ。」
「ハクっち!左から二人!前右から三人っす!」
「御意!」
メイド無双。目に見える敵を全て毒漬けにしていき、道を開ける。
「こっちです!」
「流石、誰かさんよりも何倍頼りになるわね。」
「それあっしへの当てつけっすか!?あっしだって頑張ってるんすよ!?」
「でも今役に立ってるのはハクちゃんだけどね〜」
「ハクっちと比べないでほしいんすけどね…」
「ベルンさん、プロディさん。もう少し危機感持ってください。」
軽口を言い合っていると一蹴されてしまう、
「わかってるわよ……ほんとこういうところもお互い様ね。」
「ベルンさん?」
「はいはい、黙っておきます〜」
「ベルっち油断しすぎっすよ……まだエルっちを見つけてないんすから……っ!ハクっち!!」
プロディの叫びに応えるようにハクが瞬時身を翻す。
「あはは!やるわね!私の気配を察した褐色にそれに応えた獣人。楽しめそうな獲物が2匹もいるわね!」
「私の邪魔をする方は誰であろうと容赦いたしません。」