169. 復活
体が満たされていく。生命としての温もりというものを久しぶりに感じている気がする。
(俺って今までこんなに冷えてたんだな……)
と思うほどには熱かった。
(流れてくるほとんどが感情が憎悪や恨みだとか、悪意に満ちたものばかりなのがあいつらしいけどな。)
「いやあお疲れ様!満足いく結果は得られたかい?」
またこの森羅万象之神本とかいう気色悪い野郎が現れる。
「かなりの悪意が流れてるのに耐えられるなんて、本当に君らしいよね。」
「負の感情には慣れてるもんでな。」
ただ俺の負の感情の根幹があいつだったというだけのことなのだろう。
「これで俺の魂は復活したのか?」
「復活というのはまた少し違った意味になるね。君の魂はまだ完全じゃない。簡単に言うと休眠状態だね。」
「……今の俺は何者なんだ?」
「エルラルド=アルセトラとしての肉体を得た不完全な篠原悠希の魂、それが今の君という存在だね。」
「不完全ならまた魂の力……魂力を吸収する依り代が必要になるんじゃないのか?」
(今まではもう一人の自分がいたから俺の魂は消滅しなかった。それなら今あるこの魂は_)
「そうだね、依り代は必要だ。まあでも君の魂は他に類を見ないほど特例だからね。君が心配するようなことは起こらないよ。」
「……都合がよすぎる気もするがまあいい。俺はまた現世に戻れるのか?」
「戻れる戻れる。ここは君の精神世界だからね。再び魂の生命力を取り戻した君なら戻りたいと願えばすぐにでも。」
(精神世界か……待てよ?)
「ここに本来のエルラルド=アルセトラの魂がいるのは理解できる。今までは篠原悠希とエルラルド=アルセトラの魂が混ざり合っていたんだから。でもお前は何だ?なんで俺の精神世界にお前が干渉できてるんだ?」
(お前が俺の依代になってるということなのか?)
「それは次回のお楽しみ。以前の僕も言っていただろう?全てを教えるのはつまらない。ただでさえそれなりの情報量に見てる方も飽き飽きしてきているころなんだ。早く戻って続きを見せてあげなよ。この世界は君が作る物語なんだから。」
「くそ、相変わらず何言ってんのかわかんねえ。でもまあ、戻っていいんだろ?」
「わかってくれてたようで何よりだよ。僕が君と会えるのは次で最後だから、その時にまた会おう。」
こいつの正体やら未来を見る力だとか何やらもいろいろと知りたいところではあるが、今は確かにそれどころじゃない。
(今あるものを守るために現世に戻りたい。)
そうしてその世界での俺の意識が薄れていった。
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「対象の殺害完了。残りのものはどうなさいますか?」
「我々はウィズラム様の命に従うのみ。何なりとお申し付けください。」
「こいつらを殺した後はあの国にいる学園長を殺せ。そいつを殺せばこの戦は終わるからな。」
「「御意。」」
「来るぞ!」
カエドスの言葉に反応できたのはフラントだけだった。
「完全防御魔法!」
この場にいた味方を守る結解が生成され、執事の攻撃を必死に止める。その間にレイとベルンが急いでエルラルドのもとに駆け付ける。
「お兄ちゃん!!」
「………だめね、心臓が止まってる。」
死んだものは生き返らない。生物としては当然の自然の摂理だ。
「そんなわけない!お兄ちゃんは死なない!お兄ちゃんが死んだら……お兄ちゃんが死んだら誰がマール姉とハク姉を守るの…?お兄ちゃん……戻ってきてよ……」
「レイちゃん、今はそれどころじゃないわ。まずは目の前の_」
「そうだぞレイ、お前も立派な戦士なんだ。俺が死んたぐらいでグズグズするな。」
しかし、そんな常識を覆すように彼が再び立ち上がりこの場に舞い戻る。
「え!?お兄ちゃん!?」
「エルラルド!?」
「話は後だ。今はあの二人を何とかするぞ。」
俺の物語はまだ終わらねえ。