162. 開戦
翌日、目を覚ますとグレイスがいなかった。ハクに聞いたところ、帰りたいからと、ハクに扉を開けてもらったらしい。
「まあ学校に戻ったんだろう。」
そういうわけで朝食を食べたあと、レイを連れて城壁を建てに行く。あと4日で囲わなければいけないので景観なんかは度外視、入り口すら作らない戦争特化の城塞にする予定だ。
ハクとマールは互いに離れる時間を極限まで減らし、常に2人行動をしている。ああなったらこうする、最悪の場合は、だとか色々相談し合っているようだった。
そしてグレイスは、あれからバッタリと姿を現さなくなった。半年間ほとんど師匠師匠って言ってたのが急に静かになり、少し不気味だ。裏切ったか、中立でいるのか、はたまた無理して何かをしたせいで捕らえられているのか。
そうして各々の時間は過ぎていき、4日なんて言う時間はあっという間に過ぎていった。
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「じゃあ、行ってくる。」
「あなた、ちゃんと帰ってきてね。」
「当たり前だ。お前らを残してなんか逝けねえよ。」
「レイちゃんもきっと大変だけど、エルと一緒に帰ってきてね?」
「わかってるよマール姉!マール姉が悲しむようなことはしないって約束する!」
「ハクもマールを頼んだぞ。」
「お任せください。私の命に替えてでもお守りしてみせます。」
ハクに任せとけば大丈夫だ。
「ほんとに命には替えるなよ?お前にも死んでほしくない。」
「もちろんわかってますよ。」
「お兄ちゃん、そろそろ時間だよ。」
よし、それじゃあ、
「行ってきます。」
「行ってきます!」
「いってらっしゃい。」
「いってらっしゃいませ。」
そうして俺とレイは学校長のもとに行く。
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学校に着くと、入学祭の会場になっていた校庭に多くの魔法使いが集まっていた。
この学校の生徒らしき人達は1年から順に白、青、緑、黄、赤、虹とラインの入った黒いローブを着ている。総勢約六千人。
魔力が整っている卒業生らしき人達は白いローブに黒のラインの入ったものを着ている。総勢約千人。
義勇兵及び国家戦力約1万3千人の合計約2万人が集まっている。
「来たね、二人とも。」
「学校長か…」
いつもの軽装備ではなく、今回は金色のかかったローブを着ていた。見ただけで一級品だとわかるほどの代物だ。
「一応君たち用にもローブを用意してあるんだけど、いるかい?」
「頼む。」
「レイのもお願いします。」
「もちろんだよ。」
学校長が俺達に差し出したのは紫のラインの入った黒いローブだった。
「趣味が悪いな。」
大方俺が死神だからとこの色合いなんだろう。
「まあまあ。エルラルド君のローブは特注品でね。魔法軽減と魔法の効果上昇、自己修復機能があるから中々高級品なんだよ?」
「まあなんでもいい。お前はさっさとあいつらに指示しろ。」
「そうさせてもらおう。」
学校長が校庭の中央に向かって歩いていき、俺たちもその後に続く。生徒たちの視線が学校長に集まると、自然と視線が俺たちの方へも向かれてヒソヒソが始まる。
レイは人前に立つのが苦手なのかかなりガチガチに緊張していた。
そうしてゆっくりと学校長が壇上に上がると、全員が静寂に包まれる。
「今回集まってもらったのは他でもない!スライト王国の軍を迎撃するためだ!敵の数はおよそ25万!普通なら到底敵う戦力差じゃないだろう!」
(10倍以上ってわけか…)
「だがしかし!君たちは優秀だ!この学校を卒業できた者はもちろん!この学校に入学できた者だって十分優秀なんだ!だから君たちは負けない!そしてメルドのために戦ってくれる兵の人達も十分優秀だ!自信持って戦いに臨んでくれ!」
と言っても生徒たちの士気は上がらないだろう。メルド以外からきてる人がほとんどだし、生まれも種族もバラバラ。スライト国の生まれの奴だっているだろう。
「みんな知っての通りここにはあの『死神』がいる!彼はこの国につき、必ずや最高の結果をもたらしてくれるだろう!それに何より僕がいる!メルドは負けない!絶対にこの戦争は僕たちの勝利だ!」
全体の士気が少しずつ上がっていく。
「お兄ちゃん…」
「いい気はしねえが……まあ別に構わない。」
その代わりこの異名を最初に考えたやつはちょっと出てきてほしい。
「歩兵や騎兵のもの達は先に城塞を越えて位置についてくれ!東から順に1年から城塞に登ってくれ!西に掛けて2年、3年、4年、5年、6年、卒業生とついたら最後に『死神』だ!残りの者は僕含め自国の警備!全員死力を尽くすように!」
そうして約2万人たちがそれぞれの配置についていく。
「レイ、俺たちも行くぞ。」
「う、うん…!」
スライトがある方向の西側の城塞に俺とレイが移動する。下には自国の兵士たち、両側には白いローブの卒業生。そして眼前に迫ってくる何万ものスライト兵。
「流石に兵力は分散させるか……」
その方向に向かって魔素を集めていく。開戦の合図というやつだ。
「待ってお兄ちゃん。最初は私にやらせてほしい。」
「………わかった。辛ければ目を瞑ってもいいからな。」
「うん………すうぅぅ………はあぁぁ………」
目を瞑り、深呼吸をして精神を研ぎ澄ませている。コンディションは悪くない。微妙に震えている分は俺が支えてやればいい。
「その方向だ。ぶっ放せ、レイ。」
集めた魔素を魔力に変換させ、莫大な魔力で解き放つ。
「灼熱爆破魔法っ!!」