159. 裸の付き合い
「僕は絶対に裏切りません!」
「あくまでも可能性の話だ。こうして釘を差しておけば動きづらいだろうからな。」
「本人の前で言うことじゃないでしょ…」
「それであなたはこれからどう動くの?」
「城壁を作れって言われたからそうするつもりだ。朝から晩までずっと。警護はレイに任せるつもりだ。」
「レイちゃんの学校は?」
「しばらく休みだ。学校長からの許可も得ている。」
「じゃあお昼は?」
「作って持たせてくれると助かる。家に帰れる余裕がなさそうだからな。」
「わかったわ。それはハクちゃんに任せる。」
うん。そうした方がいいだろう。
「それでご主人様、私はこれからどのように動けばいいですか?」
「お前は前に言った通りマールの護衛だ。二人に危害を加えようとしたやつは容赦なく始末してくれ。殺したくなければ麻痺毒魔法でも問題ない。」
「かしこまりました。」
「レイは俺の警護を頼む。俺は城壁作りに専念するからな。」
「わかってる。」
よし、あとは…
「僕はどうすればいいですか?師匠!」
「お前はどうするかな……」
唯一信頼できないこいつに大役を任せるわけにはいかない。かといってこのまま放置もこいつは認めないだろうし…
「僕にできることならなんでもします!」
「何でもねぇ……ならお前は学校にいろ。」
「学校?」
「メインの目的は学校を守ること。そもそもお前は学校長から休みをもらってないはずだ。なら学校で目立った動きをしないほうがいい。」
「馬鹿兄貴……まだ信頼してないの?」
「違う。この国で一番戦力があるグループは確かに俺達だ。だがそれと同等レベルの戦力があの学校なんだ。それを中から潰されたらどうする?」
「確かに私もこの国を落とすならまず学校を落としますね…」
俺だってまずは学校を潰す。そこに密使を送って戦力を分散させて、そこで俺達を叩く。魔法学校の生徒を寝返らせたりできればなお良しだ。
「わかりました!師匠のお役に立てるように頑張ります!」
「よし、じゃあ全員何か質問はあるか?」
「もし戦争に負けた場合、私たちはどうすればいい?」
マールが口を開く。
「考えたくはないけど、エル達が負けた時に私達はどう立ち回ればいい?」
「………とにかく生きるために最善を尽くしてくれ。お前とその子供を。だがそのためにハクをマールに付けるんだ。そうなった時はハク。お前がマールを守れ。」
「…………わかりました。」
「心苦しいだろうが許してくれ。それぐらいお前を信用してるんだ。」
「いえ、私の全てはご主人様の御心に従いますから。」
__
_
その後、男二人で風呂に入る。
「まさかお風呂まであるとは思いませんでしたよ。」
「やっぱ風呂って珍しいのか?」
「もちろんですよ。というかどうして僕を誘ったんですか?師匠ならあの方たちと入れたでしょうに。」
「たまには男と入りたかったんだ。まあ裸の付き合いってやつだな。」
「なんですかその言葉?……まさか師匠は同性好き…?」
「ちげえよ!」
何でそんな勘違いになるんだよ…俺はホモじゃない。決して。
「そういやお前は恋愛とかどうなんだ?」
「恋愛ですか?」
「王子なんだろ?疎まれてるとはいえ顔も整ってる方だし、学校でモテたりしないのか?」
「まあ毎日アプローチはされますね。この学校には僕の境遇を知らない人が多いですから。」
やっぱモテ男かよ。毎日告白されるとかうらやまちくしょうだな。
「それでも僕は断ってます。」
「もう許嫁か何かがいたりするのか?」
「いえ、そういうわけじゃないですけど…」
「何が問題なんだ?」
「ぼ、僕は……その……」
口をモゴモゴさせて言いづらそうにしている。
「誰も聞いてないぜ?それに俺は他人にベラベラ喋るようなタイプじゃないしな。」
「う、うう………ぼ、僕は……あ、姉御が好きなんです……//」
(なんだなんだ、両思いかよ。王子を落とすなんてレイも中々やるじゃないか。)
ニヤニヤしながら尋ねる。
「へぇ?ちなみにどういうところが好きなんだ?」
「あ、姉御……い、いやレイさんが師匠と言い合いしてる時に…その……気が強い女性だって思ってたんです。でも師匠が一日来なかった日があったじゃないですか。」
禁書庫に籠もりすぎてマールに怒られた日のことだろう。
「あの時のレイさんはかなり取り乱してまして…師匠を大切に思ってるんだなって思って…普段はあんなに強そうなのに、いざ何かあった時に慌てて弱そうに助けを求めるようなあの感じが……」
(つまりギャップ萌えってやつだ。わかるぞ?俺もめちゃめちゃギャップ萌えが好きだ。)
「もしそうなったら俺はお前の義理の兄になるんだな。」
「し、師匠!からかわないでくださいよ!」
「今夜はうちに泊まれ。レイの寝間着姿が見れるぞ?」
ゴクリとグレイスが唾を飲み込む。
「い、いいんですか…?」
「なに、兄として妹の幸せを願ってるんだ。これぐらいの一押しはやってやるさ。ただ絶対に俺とハクとマールの部屋に入ったりするなよ。」
「そ、それはつまり…レイさんの部屋には入ってもいいということですか…?」
「お前にそんな度胸があるならな。」
「あ、ありがとうございます!師匠!」
(レイとグレイスは両想いが成立してラッキー。俺はグレイスと親族になれて王子の財源の確保ができてラッキー。まさにWin-Winの関係ってやつだ。)
そうしてしばらく今夜の作戦会議を風呂の中で行うのであった。