157. 宣戦布告
「国へ戻るぞ!」
ハクにグレイスを持たせ、俺がレイを抱えて走り出す。
「ハク!お前はマールの側にいろ!何があっても離れるなよ!」
「承知しました!」
「レイ!お前は俺と行くぞ!」
「お、お兄ちゃん…グレイスは?」
「……ハク、グレイスを連れて行ってくれ。お前らに何かしでかそうとしたらその時は容赦しなくていい。」
「私にお任せを!」
国に着くなりハクにグレイスを連れて自宅に戻らせ、俺はレイを抱えたまま走る。
(できるだけ戦力をだったよな………あまり頼りたくはないが仕方ない…俺に協力してくれるやつはお前らぐらいなんだ。)
俺達は一旦ギルドの受付で伝言を頼み、その後に学校長室を訪れる。
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「来たぞ。」
「し、失礼します…!」
流石に抱きしめたまま部屋に入るわけにはいかないので、手を繋いだまま入る。
「二人だけ……まあ仕方ないか。二人とも来てくれてありがとう。」
「お前の命令に従えだったな。何をさせるつもりだ。」
「その前に今起こってることを軽く説明しよう。たった今、メルドに宣戦布告がされた。」
「は…?わざわざメルドに?相手国は?」
「スライト王国だ。君もよく知っているあのフレイジア=スライトが先導しているようだ。」
フレイジアってのは確かあのクソ貴族の名前か…
「お兄ちゃん…知り合いなの?」
「ハクの元主だ。」
「ハク姉の……」
「で、相手側の目的は?」
「恐らくメルドを落とすこと、それと君である可能性もある。」
「逆恨みもいいところだな。だが今宣戦布告が来たなら到着まで半年は掛かるんじゃないか?」
「いや、宣戦布告前から兵を動かしている。使いの者によるとあと5日で到着するらしい。」
「俺等の役目は戦争中にこの国の戦力になれってことか。」
だが戦争ってことは人を殺す必要がある。俺は問題ないがレイは……
「…」
俺の手を握る力が強くなる。
「レイ、強要はしない。そこまでのものを背負わせるわけにはいかないし、背負う必要も無い。」
「いいよ…大丈夫。」
レイの手の震えが激しくなる。
「お兄ちゃんの役に立ってみせる。それに、パパとママの仇を討つならいつか覚悟はしないとって思ってた。それが今回だっただけ。」
必死に強がろうとしているのが伝わってくる。俺を安心させようと無理してるのが分かってしまう。
「だから大丈夫。」
「そこまで言われちゃもう何も言わない。」
人の覚悟を踏みにじるなんて行為はできないから。
「それで学校長。兵が来るまで俺たちは何をすればいい。」
「君は国を囲む城壁を作って欲しい。魔法で家を建てたのは知っている。彼女は魔力切れなのか。魂癒魔法はいるかい?」
「いらん。お前はお前にできることをやってくれ。俺達は俺達で動いてやるから。」
「そうしてくれると助かるよ。くれぐれも先走ったりしないようにしてくれよ?」
「あんたに言われなくてもわかってる。行くぞレイ。」
「し、失礼しました!」
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レイを連れて国の外に出る。そこに城壁とやらを作るために地魔法を積み重ねていく。レイはその間周りの見張りをする。
「…」
「…」
黙々と作業をする。学校長の顔を見てる間は隙を見せないようにしていたが、今の俺の心は晴れない。
(戦争…………俺の故郷や大切な人の多く奪った災厄……それも食糧不足と言った問題じゃない。俺の家族は帝都の快楽のために殺された。スライトがどんな意味で宣戦布告をしたのかは知らないが、ろくな理由じゃないだろう。しかも先導者がクソ貴族ときた。俺への復讐以外にも目的はあるのかも知れないが大方はそんなくだらない理由だろう。この世界の上層部はゴミしかいないんだな。)
レイも一言も喋らない。あいつはあいつなりに思うところがあって当然だし、これからすることの気持ちの整理をつけているのだろう。
「お兄ちゃん…」
「ん?」
沈黙を破るようにレイが俺を呼ぶ。
「……お兄ちゃんは今まで……何人の人を殺してきたの?」
突然の質問に手を止めて考える。
(何人か……あれ?そう言えば俺あれ以降殺してないな……あの時は怒りに完全に支配されていたからできたけど、それから人を殺めたことなんて無かったな…)
「俺が直接手を下したのは3人だ。」
「そっか……そうなんだ……」
安心したように微笑んでいる。
「何がおかしいんだ?」
「お兄ちゃんのことだから、数え切れない、とか何千人だろうな、とかって言うと思ってたから…ちょっと安心した。」
「これから何千人って殺す予定だがな。」
「それは私もなんでしょ?なら私とお兄ちゃんってそこまで変わらないのかもね。」
「その三人の差が大きいんだぞ?特に最初の一人が。」
「それぐらいわかってるよ…あ、じゃあハク姉はその…何人殺したの…?」
ハクが殺した数?俺の知らないところで何かやってない限りは…
「0だな。」
「そっか……マール姉も多分0人なの。なら…私が二人の代わりにお兄ちゃんの力になる。この手は汚れてもいい。汚れることでパパとママ、みんなの仇を討てるなら。」
「そうか……頼もしいやつだ。」
(ごめんな…お前にも汚れ役をさせちまって…)