145. 女神と死神
学校長の一声で改めて生徒が盛り上がる。
(あの野郎…何か使いやがったな…?)
あれは簡単に軌道を逸らせるものじゃない。光を逸らせる何て普通に考えて不可能なんだから。
(俺ですらあれを使われれば対処しきれるかわからない。というか無理だ…次元収納魔法で仕舞えればなんとかなるかもしれないが……逸らすなんて………)
自分の力がわかってるからこそ相手がどれだけすごいことをやってるかがわかる。
「あの、ご主人様……さっきのは……」
「ああしろってあいつに言われたんだ。報酬は金貨20枚。責任は取ると言われたし悪い話じゃなかった。」
気に食わないというのが本音だがな、
「取り敢えず、どうしましょう…」
「屋台回ろうぜ。前回は結局回れなかったし。」
「マール様とレイさんは…?」
「あいつらは……友達とか作るだろう。俺といたら邪魔になる。」
ただでさえ『死神』とか呼ばれてるんだ。それにさっきの魔法。恐れられるに違いない。
「そんなことないと思いますけど……」
「早く行くぞハク。酒呑みたい。」
「ほどほどにしてくださいよ…?」
二人で屋台を回る。だんだん酒が回ってくると、足元が危うくなる。
「ご主人様、大丈夫ですか?そろそろ解毒魔法掛けた方が…」
「いらん。今日くらい酔わせてくれ。幸せの余韻ってやつに。」
身の安全が保証されて、嫁がいて、妹がいて、俺に仕えてくれるやつがいて、久し振りに心から安らぎを得ている。
「ご主人様…」
「ハクは酔わんのか?最近飲んでないだろ。」
「私はその……い、いいですよ…」
「いいから飲めって。それとも主の酒が飲めねえってのか?」
「それを言われると……もう、わかりましたよ…」
「よしきた。」
収納袋からワインとグラスを取り出し、ハクに注いでやる。
「うう……ご主人様のいじわる。」
そう言ってワインを一口飲む。
「ご、ご主人様。これ度数強すぎじゃないですか…?」
「そんなことないだろ。弱くなっただけなんじゃないか?」
そう言うとハクは一気に飲み干す。
「一気か。大丈夫か?」
「ご主人様……」
ボーっと蕩けた顔で俺を見つめて来る。
「そんなキツかったか?」
強いのを渡したつもりは無かったんだが……
「ご主人様〜もっと私に構ってくださいよ〜」
始まった。ハクは酔うと甘えん坊になる。ハクが唯一本音を出せる時間というわけだ。
「はいはい。そのために飲ませたんだから当たり前だろ?」
「ご主人様〜」
スリスリしてくる。可愛い。
お?向こうが何やら騒がしい。
「ご主人様〜あれなんですか〜?」
「さあ?喧嘩かなんかじゃないか?」
「見に行きましょうよ〜ご主人様も乱入したらどうですか〜?」
「俺が出しゃばる意味ないだろ?まったく……」
そんなことを考えながらその人だかりに行ってみるが、人が多いのでハクを抱いて隠密と浮遊の魔法を使う。
「ご主人様にお姫様だっこされてます〜」
「あんまり喋るな。隠れてる意味ないだろ。」
騒ぎの中心を見ると、マールがいた。マールが男どもに囲まれていた。
「あの!困ります!」
「そんなこと言わずに、僕といいことしない?」
「いやいや、僕のものになったほうがいい待遇を与えられるよ?」
(あのクソガキ共……人の嫁に手を出そうとしやがって!)
「ご主人様〜あの人達殺しましょうか〜?」
「俺がやる。お前は手を出すな。」
普段のマールなら塵のように吹き飛ばせる奴らだ。でも今はそれをしようとしない。魔法を使わない約束を守ろうとしているようだ。
すると俺達の魔力に気づいたのかマールがこちらを見る。
「助けて!」
(じゃあ遠慮なく。)
そのガキ共に雷電災害魔法をぶっ放す。
「「「うぎゃー!!」」」
(けっ!おととい来やがれ!いや二度と来るな!)
なんてことを考えていると、群衆が歓声を上げる。
「おお、神から裁きを……」
「もしやこのお方は……」
「「「女神!!」」」
「え?」
「は?」
「お〜」
マールに向かって女神コールが起こる。
「あ、あの!私はそういうんじゃ!」
「「「女神!女神!女神!女神!__」」」
困惑しながら俺を見つめてくる。マールよ、それは逆効果だ。
「いま神との邂逅の最中ですか!?」
「神はなんと!?」
「だ、だから誤解で!」
戸惑ってるマールも可愛いな。
「ハク。」
「ご主人様どうしたの〜?」
「お前のアルコール飛ばせ。」
「わかりました〜解毒魔法〜」
ハクの酔いが醒め、素面になる。
「あぁ……だからお酒は嫌なんですよ……」
「ハク。マールを頼んだ。俺はレイの様子見てくる。」
「承知しました…」
まだ微妙に顔は赤いが、俺の手から離れてマールの方に飛び降りる。あいつなら上手くやってくれるはずだ。
「さ、レイはどこだろうな〜」
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しばらく上空を飛んでいると、クラッときたので地上に降りる。
「危ない危ない……飲酒運転の怖さが分かるな。」
「ば、馬鹿兄…じゃなくて、お兄ちゃん!?」
「ん?レイ?」
振り返ると、レイとその周りの二人の少女がいた。
「その子たちは誰だ?」
「友達!話しかけたら仲良くなれたの!」
ふむ、見たところ嫌な気配や匂いはしない。レイに危害は無いだろう。
「レイのお兄ちゃん?」
「結構タイプかも…」
「だ、ダメダメ!お兄ちゃんはもう結婚してるんだから!」
ロリっ娘はいつでもウェルカム…なんちって。
「これから学校楽しめよ〜?うちの妹をよろしくな。」
レイの頭をワシャワシャと撫でて二人に目配せする。
「はい!」
「こちらこそ!」
目がいい。芯があってしっかりしている。
(いいやつらを捕まえたな。)
「んじゃ、俺も祭りを楽しむよ。あとは若い子でな〜」
レイと別れその辺をフラフラ歩いてると、誰かとぶつかる。
「おっと、わりいな。」
「あなたは……」
「ん?」
「やっぱり!エルラルド=アルセトラさんですよね!」
へえ、よくわかったな。さっきと微妙に魔力性質を変えてるっていうのに。
「何の用だ?」
少しだけ警戒の色を向ける。
「あ、僕はグレイス=スライトと申します!えと、僕の師匠になってくれませんか!」
「は?」
スライトってあれだろ?前にハクを飼いならしていたクソ貴族の王家だろ?