142. 二人の化け物
「よっ!また来たぜ。」
「はぁ……約束を破ったこと、忘れたとは言わせないよ?」
「それは悪かったって何度も言ってるだろ……」
あの日マールとの模擬戦で気絶してしまい、卒業資格をもらいに行く予定をすっぽかしてしまったのだ。
後日菓子折りとともに謝罪をして何とかその場を収めて卒業したのだが、こいつはどうやらエルフのくせに根に持つタイプらしい。
「で、入学試験を受けに来たのがその二人ってわけか。」
「ま、マール=アルセトラです!」
「レイ=アルセトラです!」
「全員アルセトラか………言っとくけど、いくら君の頼みでも贔屓にはしないからね?」
確かに…ここにいる三人は全員アルセトラだ。
「安心しろ。どっちも大した奴らだ。むしろ厳しくしてもいいんだぜ?」
「そうかい。まあ君と無駄話をするつもりはないんだ。二人を試験場に案内しよう。君はもう部外者故に同席はできないが許容してくれ。」
そう言って彼は立ち上がり、二人を試験場に案内する。
「上手くやれよ……レイ。」
一人残された男の呟きは、誰にも聞かれることは無かった。
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バタン!と勢いよく扉を開け、学校長は鬼気迫った顔で肩で息をしている。
「エルラルド=アルセトラ!あいつらは……あいつらは何者だ!」
「その様子だと…試験結果は聞くまでも無さそうだな。」
「なんだあの化け物共は……あんなの…見たことない…まさか二人とも僕以上だなんて……」
「もしかしてとは思ったが…そこまでか。」
「あれが…あれが人間の持てる力なのか!?」
あの学校長をここまで取り乱させるとは……本当、俺の周りには凄い奴らばっかりだ。
「水晶の結果、当ててやろうか?」
「なに…?」
「マールは緑色、レイが……」
次元収納から砕け散ったガラスの破片を取り出す。
「こうなったんだろ?」
「なぜそれを……」
「5年前、俺が入学試験で水晶を収納したのを覚えているか?」
「ま、まさかこれは…!」
「家でやってみたらこうだった。好奇心で先にマールに触らせて助かったぜ。もしレイから触らせてたら水晶の故障を疑ってた。それで、次はマールの実力を目の当たりにしたといったところだろ。」
「は、はは……僕が聞いてた話だと化け物は一人だったはずなんだけどな……」
「俺はこれも想定外だったさ。まさか、魔素を自分の魔力に変換させるなんてことをやり遂げるとはな。」
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三十分ほど前_
「まず最初の試験だ、この水晶に触れてくれ。魔力量を測らせてもらう。」
「じゃ、じゃあ私から!」
獣族の娘が水晶に触れると、水晶が淡い光を放ち、緑色に変化する。
「緑色ね。次、レイ=アルセトラ。」
「は、はい……」
躊躇いながら、そっと水晶に触れると、ガシャーン!とバラバラに砕け散る。
「なっ!?」
はたから見ればただ水晶が割れたようにしか見えないだろうが、エルフ特有の動体視力はそれを見逃さない。
(白、青、緑、黄、赤、虹、黒と変化して割れた…水晶は正常、つまり魔力量測定不能………)
「エルラルド=アルセトラが言っていた彼を超える才能というのはこの……」
(僕が越えれなかった黒の壁…それが限界だと思っていたのに、まさかこんな娘に越えられるとは……)
「学校長さん……レイの試験はどうなるの…?」
「……測定不能に異常はない。それではこれから次の試験を始める。君の全力の魔法を見せてくれ。」
(さあ!この可能性の芽は何を見せてくれるのだろうか…!)
結果…
「炎攻球魔法!」
ボシュッと、あの魔力量からは信じられないほどか弱い火の玉が現れる。
「こ、これが限界かい…?」
「え?あ、はい…魔法が使えるようになったのが2週間ほど前だったので……」
「そうか……」
(だがこの娘は使える!育てればきっと僕の計画も_!)
「あの、学校長さん。私の試験もお願いしたいんですけど…」
「ああ、マール=アルセトラ。」
(正直君にもう興味はないんだが…体裁は守らないといけない。)
「君のタイミングで魔法を使ってくれ。」
「どれにしようかな……あ、あれにしよう!」
ゾクッ!
(な、なんだ…この悪寒……まさか…僕が恐怖してるとでもいうのか…?)
「時空断絶魔法!」
彼女がそう唱えると、彼女の目の前の空間が一直線に断絶される。壁も、その壁の先の窓も、空気も、空間も、ありとあらゆる全てのものが断絶された。
「な……なな……」
(この部屋が壊されただって…!?つまり…つまり彼女の実力は僕すらも凌駕すると言うのか…!?)
「マール姉やりすぎ……いくらお兄ちゃんのためでも張り切りすぎて建物まで壊しちゃダメでしょ……」
「ご、ごめんなさい!弁償はします!………エルが…」
「マール姉、お兄ちゃん怒ったら怖そうだよ…?」
「レイちゃんはちょっと黙ってて!」
頬をムニッとして黙らせる。まるで子供の喧嘩だ。実力は年不相応でも、中身は幼いということか。
(でも、ピースはほとんど完成した。エルラルド、レイ、マールの三人のアルセトラ。あと一つ何かが埋められれば僕の計画が上手くいく。)
「あの、学校長…?」
「おっと…どうかしたのかい?」
「次の試験は何ですか?」
「うーん……」
(次の試験ねぇ……確か二人はユーグリル付近の村から来たって言ってたか……それなら対応力も生存力も高いだろう……)
「いや、試験はこれで終了だ。余計な時間を取らせるわけにはいかないからね。」
「終わり?」
「結果は?」
(そんなもの分かりきってるだろうに…自信がないのかはたまた別の感情か…)
「レイ=アルセトラ、マール=アルセトラ。君たちは首席合格だ。魔法学校は君たちを歓迎するよ。」
「「やった!」」
二人は手を取り合って喜んでいる。
(……あとはこの二人が人を殺せる覚悟を持てるか、かな。)