141. 魔法使い卒業
「炎生成魔法!」
苦節2ヶ月半。入学試験ギリギリでようやくレイの手のひらから極小の炎が現れる。
「やった!やっとできたよ!お兄ちゃん!」
俺のもとに駆け寄ってくるレイ。マールと一個違いとは思えんな……
「そうだな。良く頑張った。これでお前も魔法使いだ。」
頭を撫でてやると、頭をスリスリして俺の手に委ねてくる。
(やっぱり子供って可愛いよな……この純情で無垢でそれでいてちょっと背伸びしようとしてて……)
「エル?」
すぐ隣で微笑んでいたマールが突然話しかける。
(おや、マールが仲間になりたそうな目でこちらを……見ていない。あれはそう、ゴミでも見るかのような軽蔑の目だ。)
できる限り平静を保ちながら対応しよう。
「な、なんでございましょう?」
「ん!」
俺の手を取って自分の胸に押しつける。もちろんその胸の感触が……
「な!?」
「エルはしばらくこうすること。わかった?」
でっかくなったマールの胸が柔らかくてモチモチでムニムニで……じゃなくて!
「な、なぜでございましょう……」
「エルって結構ムッツリなんだね。なんか意外。」
「誰のせいだよ!」
ああもう!マールといるとどうしてこう気が乱されるんだ……
「お兄ちゃん……どさくさに紛れて揉んでるの、見てて恥ずかしいからやめてほしいんだけど。」
「知らん!マールに言え!」
「あん……//エルの手つきいやらしい……//」
(この期に及んでお前は何なんだよ!)
「ああもう……俺が俺じゃなくなるみたいだ……」
「取り敢えずレイをそういう目で見るのはやめた方がいいよ?流石に家族同士は良くないと思う。」
そんな至極当たり前のことを言われてしまう。
「え!?もしかしてお兄ちゃんレイも狙って……!?」
「狙ってねえ!全部マールの早とちりだ!」
「れ、レイには魅力がないの……?」
「そういうことも言ってねえ!お前は俺の妹だ!確かに顔は結構可愛いし性格はいいし……じゃなくて!俺の恋愛対象じゃないってだけだ!」
(なんでこんなこと言わされなきゃいけないんだよ……)
二人は互いに見つめ合ってクスクス笑っている。
「とにかく!次はその炎生成魔法の維持だ!そこから色々な炎魔法に発展させれば何とかなるだろ。」
結局俺は入学試験がなんなのか知らない。後から合格だと聞かされただけで、どんなことをするのかも、どういう基準で合格なのかもわからない。
「じゃあそろそろ戻ろうか!お腹空いたし!レイもこっち来て?」
「わかった!」
「エルもいい?」
「問題ない。あとそろそろ胸離しても_」
「次元間移動魔法!」
目の前の景色がぐるりと変わり、瞬時に家の前まで戻ってくる。この辺はお手の物らしく、凄すぎて嫉妬もできない。
「そうだレイ。扉開ける練習してみたらどうだ?」
魔素さえ操れればこの家の扉は開くので、レイもできるようになったはずだ。
「わかった!」
「扉の仕組みは簡単だ。基本は地魔法でできていて、魔法同士がくっつくような性質のある物質にしてあるから魔素を干渉させてやるだけで_」
「お兄ちゃん!黙ってて!集中できない!」
「あ、そう…?」
そんなハッキリ言われると中々辛いものがあるな……だってしょうがないだろ?自分の作った作品は人に自慢してなんぼのもんだと思う。
「エル……」
なんてオタクの嘆きを考えているとマールの様子がおかしい。
「どうした………っ!?」
動けない……これは、麻痺毒魔法!
「ごめんね?エル。私、来ちゃったみたい。」
「れ、レイ!早く扉開けんむっ!?」
右手で俺を抱き寄せ、キスで口を塞がれる。
(なんだ……これ………ただのキスなはずなのに……頭がクラクラして……マールしか……見えなくなって……)
_
「ま、マール姉!?」
「レイ?私たちはちょっとやることがあるから、先に家入っててね?」
「な、何するの…?」
「うーん……夫婦同士でやる儀式のようなものかしら…?」
「そ、それって…!」
「次元間移動魔法。」
そう残して二人は消えてしまった。
「マール姉……//」
二人がこれからすることを想像してしまい、思わず顔を赤らめてしまう。
「あ、ハク姉になんて言えば……!」
するとずっと開けれなかった扉が開く。どうやら成功したようだ。
「あ、開いた。……何でこんな時に開くの!?」
「おかえりなさいませ……」
二人が見当たらないことを不思議に思い首を傾げる。
「レイさん…?ご主人様とマール様は……」
「お、おおお遅くなるって!」
__
_
「……ハッ!」
俺いつ意識を失って…
「ふふ、起きた?」
妖艶な瞳で見つめてくる。理性なんてあってないようなものだろう。なんせ_
「発情期……いつか来るとは思ってたがまさか今日来るとは……」
「私ね?シたいの。エルと。」
「するって……アレだよな……」
耳元まで近づき、囁いてくる。
「子作り♡」
「っ…///」
耳まで真っ赤になってしまう。
「もしかしてエルも初めてなの?」
「わ、悪いかよ……//」
「ほんと?ミレイヤ王女とも…ハクちゃんともしてないの…?」
「俺は正真正銘童貞だよ。寝てる間に取られてなければ……」
どちらともやりかねない奴らではある。特にミレイヤ。もう今となっては真実がわからないが、もしかしたらもしかするのかもしれない。
「じゃあ私が初めてよ?わかった?」
舌なめずりしながらゆっくりと近づいてくる。
「わ、わかったよ……//来るなら来いよ……//」
15年。前世も合わせれば36年で、精神年齢はもうアラフォーだ。
「エル、愛してる♡」
俺はその日、魔法使いを卒業した。