129. 場違いな訪問者達
(エルはミレイヤ王女様と、でも私とも結婚って……うぅー…//………勇者様かエルか……)
その日は全く眠れなかった。
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翌朝…
「マール?ご飯よー?」
「エルか勇者か…エルか勇者か…エルか_」
メルが部屋に入ってくるが、マールは悩み続けて気づいていない。
「マール。」
メルが肩をポンポンと叩くと、マールはビクッと体を震わせる。
「お、お母さん!?」
「ご飯よ。早くこっち来なさい?」
「あ、うん……」
リビングに行き、椅子に座って家族でご飯を食べる。
「マール、エルラルド君からの手紙はどうだった?」
「エルも私のこと……あ、愛してるって…//」
「まあ!ちょっとあなた聞いた?孫の顔が楽しみね!」
「だ、だが最近会ってないんだろう?いつまでも待たせるのはどうかと思うがな。」
「むしろ逆じゃない?離れてても愛してるって素敵なことだと思うわよ?はあぁ……恋っていいわねぇ……」
うっとりとメルはマールを見つめてくる。
「で、でも……」
「何か問題でもあるの?」
「その、今来てる勇者様にも求婚されちゃってて_」
「絶対ダメだっ!!」
いきなりフォルが声を荒げたので、思わずビクッとしてしまう。
「勇者ってのはあいつのことだろ!?それはお前が何と言おうと許さない!あいつの所に行くぐらいならエルラルドのところに行け!」
「お、お父さん?急にどうしたの?」
「あなた、ちょっと落ち着いて。」
メルが何とか宥めようとフォルの背中をさすると、少し落ち着いたように見える。
「………マール、もう一度言う。あの勇者は絶対にやめておけ。お前を不幸の道に進ませたくはない。あいつは裏があるぞ。」
「な、なんでお父さんはそんなことわかるの?」
「あいつは…気持ち悪い雰囲気を出してる。人間の嫌な部分が隠しきれてない。それでもついていくと言うなら俺が止める。」
(そんなに酷い人なの?あんまりそうは見えなかったんだけど…)
「お父さんほどじゃないけど、お母さんもあの勇者さんはオススメしないわね。あなたにはエルラルド君がいいと思うわ。」
「お父さんとお母さんがそこまで言うなら……わかった。勇者様のは断ってくるよ。」
「そうしろ。」
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「あ、あの…勇者様?」
「マール!心の整理はついたかい?さあ、僕に答えを聞かせてくれ!」
「勇者様、私は勇者様と婚姻を結びません。」
「………聞き間違いかな?僕と結婚しないって?」
「いえ、私は他に好きな人がいるので勇者様とは結婚できません。ごめんなさい。」
頭を下げる。
自分のことを好きだと言ってくれる人の告白を断るというのは胸が痛くなる。
「…………あーそう、わかった。残念だよ。」
勇者は先ほどと打って変わって冷たい目になる。
「炎よ、かの者に大いなる災いを。炎災害魔法。」
「っ!?」
いきなり魔法を撃ってくる。
(水防御魔法!水厚壁魔法!水守護魔法!…)
続々と防衛魔法を張っていき、レジストする。
「…何のつもり?」
「…………冗談だよ!それにしてもすごいね!僕の魔法を止めれるなんてなかなかすごいことだよ?」
(ああ、お父さんの言ってることがわかった。この人は信じられない。冗談にしてはほんとに私を殺すつもりの目だったし、多分本気で魔法を撃ったんだと思う。炎攻球魔法じゃなくて炎災害魔法を使ってきたのがいい証拠ね。)
「じゃあ君の返事も聞けたことだし、そろそろ出発するよ。じゃあね、マール。」
「あ、うん…じゃあね。」
そうして勇者と名乗る男は足早に煌びやかな場所に乗ってどこかへ行ってしまった。
(あーあ……早くエル来ないかな……)
そうして今日もいつもの丘に向かった。
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1年後、また不思議な女性が村にやって来る。
「マール姉、あれ誰かな?」
レイは何事にも興味津々だ。
何も無いこの村で育つ以上仕方ないのかもしれない。
「誰だろう?大きい剣を背負ってるね。旅人さんかな?」
そんなことを考えていると、その女性がこっちを向いてニヤリと笑う。
「ま、マール姉!?」
驚く間もなくその女性はマールの目の前に立っていた。
「君かい?フィアンセ君が言ってた幼馴染って。」
「え!?あ、あの……どちら様ですか?それにフィアンセって……」
「ふぅん……とても綺麗な魔力を持ってるね………フィア…エルラルドの幼馴染で間違いないのかい?」
「あ、はい……エルの幼馴染のマールです。」
「君は?」
「お兄ちゃんの妹のレイ!」
「お兄ちゃんってのは……エルラルドのことかい?」
「そうだよ!」
「フィアンセ君に妹がいたんだねぇ……じゃあ君も魔法が使えるのかい?」
暗い顔をしだすレイ。
レイはどの魔法も使えない。
マーシュが教えてもマールが教えても駄目だった。
「あー……ごめんよ?悪気は無かったんだ。そっちの狐ちゃんは中々の実力だね。フィアンセ君が同等だと言うだけはある。」
「あの、エルとはどういう関係なんですか?」
(この人がミレイヤ王女様?でもエルと一緒じゃないし……)
「まあ普通に知り合いだよ。狐ちゃんが思ってるような深い関係はない。」
「あ、そうなんですか……」
(良かった…)
「それよりも、だ。狐ちゃん。あたしと戦ってくれないかい?」
「戦う?」
「あたしは戦闘狂でね。強い奴と戦うのが大好きなんだ。狐ちゃんはフィアンセ君の一番弟子なんだろ?ぜひお手合わせ願いたい。」
(一番弟子って…//……あ、でも私以外にも弟子がいるってことか……それはちょっと嫉妬しちゃうな……)
「ま、マール姉……この人ちょっと危なくない?」
「あの、殺したり傷つけたりしないならいいですよ?」
(それにエルが一番弟子って言ってくれてるなら誰にも負けたくないし!)
「いいねえ滾ってきた!妹ちゃんは危ないから下がってな!今からここは戦場になるよ!」
「わ、わかった!マール姉頑張ってね!」
そう言ってレイが木の陰に隠れるのを確認する。
「あたしはこれでもSランク冒険者だから手加減は無用だよ!全力でかかってきな!」
「すぅ………はぁ………行きます!」
マールの炎速射魔法を合図に開戦する。