128. 三角関係
時はおよそ5年前。ミレイヤとエルラルドが魔法学校に出発する頃まで遡る。
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アッシュ村近くの丘にて…
「マール姉!今日も遊んで!」
「レイちゃん!今日は何して遊ぶ?」
「追いかけっこ!」
「じゃあお姉ちゃんがまず追いかけるね?」
「うん!」
そう言って無邪気に駆け出していくエルの妹。
エルと違って魔法は使えないけど、元気でとても可愛くて私にとっても妹のような存在。
「マール姉!早く早く!」
「じゃあ行くよー?」
(身体強化魔法、速度強化魔法、抵抗減少魔法…)
どんどんと自己強化の魔法を掛けていく。
「ま、マール姉!本気出しすぎ!」
大人気なく高速でレイを捕まえる。
「魔法は無し!ずるいよマール姉!」
「じゃあ今度はレイちゃんが追いかけてね?魔法使わないから。」
「わかった!約束だよ!」
当時のマールは8歳で、レイは7歳。
マールの才能は目覚ましく、エルラルドが去ったあともマーシュの教えでメキメキと成長していった。
基礎魔法、混合魔法、治癒魔法は全て魔素化、無詠唱化に成功しており、特殊魔法もどんどん覚えていっている。
バリエーションの多さだけなら今のエルラルドより上だ。
「捕まえた!」
「はぁ……はぁ……はぁ……レイちゃん……速いね……」
その代わり運動神経はなく、体力もかなり少ない。
(回復魔法。)
エルラルドと違って体力回復もできるのであってないような欠点なのだが…
「マール姉そろそろ体力つけたらー?魔法にばっかり頼ってちゃ駄目ってお父さんも言ってたよ?」
「でも……エルと並ぶためには魔法頑張らないと……」
「マール姉まだお兄ちゃんのこと好きなの?マール姉をいつまでも待たせるお兄ちゃん最低!」
「そんなこと言わないでよ……私の好きな人なんだから……」
そんな会話をしてる時、村に1台の馬車がやって来た。
この自然豊かな村に似合わない派手な装飾でキラキラしている馬車だ。
「マール姉、あれなんだろ?」
「うーん……ガウスさんじゃなさそうだよね……」
村をよく出入りする人といえばガウスだ。
3ヶ月おきに村に戻ってくる。
マールもよく挨拶を交わしており、アルセトラ家とスー=フォクレシア家は家族ぐるみで仲良くしていた。
「ねえねえマール姉!行ってみよう!面白そうだし!」
「でも偉い人だと思うよ?」
そう言いながらも内心では行きたがっている。
マールだって年頃の女の子なので、白馬の王子様のようなものに憧れている。
「じゃあ近くで見るだけでもいいから行こうよ!」
「うーん…そこまで言うなら……ちょっとだけだよ?」
「うん!」
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村では突然来訪した勇者の話題で持ちきりだった。
マールたちは陰からこっそり馬車から出てくる好青年を見つめる。
青髪で黄色い瞳、幼さはあるが整った顔つき、背はマールと同じくらいで、貴族か王族なのか派手の装飾がふんだんに使われた服を着ている。
「ねえマール姉。あの人すっごくかっこよくない?」
「エルじゃなかった……ちょっと残念。」
「マール姉お兄ちゃんのこと好きすぎでしょ。」
「好きなんだからしょうがないでしょ?あの人もエルに比べれば全然かっこよくないね。」
小声でコソコソ話していたのだが、青年がこっちの方に歩いてくる。
「ま、マール姉!こっち来るよ!」
「ば、バレちゃった…!」
「ねえ、君たち可愛いね。」
「「うひゃっ!」」
爽やかな声とは対照的に二人して情けない声を上げる。
「僕のことを見たいなら遠慮はいらない。存分に見るといいさ。」
「あ、はい!ありがとうございます!」
「どうも…」
「へえ……君獣人なんだ。種族は?」
「き、狐種です…」
「名前は?」
「ま、マール=スー=フォクレシア、です……」
「ならマール。僕と許嫁にならないかい?」
「え、え!?」
突然の告白にマールより先にレイが反応する。
「あ、あの……どういうことですか?」
「簡単に言えばプロポーズだね。僕は君に一目惚れした。その美しい瞳に綺麗な髪、獣人とはこれほど素敵な種族なのかと思うよ。」
「そ、その……困ります……私にはもう好きな人がいて……」
「心配はいらないよ?僕は勇者なんだ。僕の婚約を受け入れてくれれば一生お金には困らないし、望みならなんだって叶えてあげよう。その代わり僕の望みにも叶えてもらうけどね。」
「で、でも……」
正直迷ってしまっている。
エルはあれ以来手紙をくれないし、ミレイヤ王女様と結ばれちゃったのかもしれない。
それなら私の恋は叶わないことになるし、私を拾ってくれると言うならこのお誘いに乗ってもいいのかもしれない。
「マール姉……どうするの?」
「………あの、1日だけ待ってもらえませんか?もう少しちゃんと考えたくて…」
「いいよ。僕はちゃんと待っててあげるから。心の整理ができたらまた明日教えてくれ。」
「あ、ありがとうございます…」
(気配りできるいい人かも……)
そうしてその青年はこの村に宿すらないという言葉に顔をしかめて、テントで野宿することになったらしい。
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その日の夜…
「勇者様に告白されるなんて……私はどうしたら……」
「マール?ちょっといい?」
「なに?お母さん。」
「マール宛に手紙が来てるわよ?差出人はエルラルド君。」
メルがマールに一通の手紙を差し出す。
「エル!?貸して!」
メルから奪い取るように手紙を取り、封を切ってすぐに読む。
『マールへ
マール、元気してたか?俺は元気だ。いきなりで悪いけど、メルド魔法学校に行くことに決まった。まだしばらくは帰れなさそうだ。マールは可愛かったからもう彼氏とかできてるのかな。それならちょっと寂しい。突然だしマールには悪いけど、俺はミレイヤ王女と婚約することになったんだ。でも俺はマールも好きだ。俺にとってマールは初めてできた友達だし、たくさん遊んだ思い出は忘れられない。だから俺はマールとも結婚したいんだ。ミレイヤと並ぶなんて難しいって思うかもしれないけど、俺はマールのことが大好きなんだ。愛してる。もし許されるなら、俺は二人と結婚したいんだ。学校を卒業したらミレイヤも連れてマールと3人で話し合いたい。俺のことを最低だと思うならこの手紙は破ってくれても構わないし、俺のことを嫌いになってもいい。俺は受け入れてくれると嬉しいけどね。愛してるよ、マール。
エルラルドより』
「エル……」
どうしよう……