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オタクが転生したので異世界でもオタクになります  作者: 枝豆 糵
第四章:冒険者編
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127. 絶望の中の光

 あれからどれくらい経ったのだろうか。

 何週間?何か月?それとも何年?もうわからない。

 ただ、もう生きてる気がしない。

 自問自答は飽きるほどやった。

 何回も後悔して何回も過去に戻りたいと嘆いた。

 でもそんな悩みはなんにも意味はなくて、ただ時間が過ぎるのを待っているだけだった。

 失ったものは取り返せない。

 前回はその現実を教えられただけだったが今回は違う。

 失ったのだ、大切な存在を。

 それも複数。

 まさかミレイヤが死ぬとは思ってなかった。

 魔法学校に守られていたはずなのに、意味が分からない。

 何度も自殺しようとした。

 こんな世界にもう希望はない。

 なのにハクが止めてきやがる。

 むかつく。

 俺の奴隷のくせに。

 死にたい。

 こんな最低な考えが最低だと思えないぐらいもう腐ってる。

 もう死にたい。

 俺に生きてる価値なんてないのに。

 力があっても有意義に使えなければ意味が無い。

 俺は有意義に使えない。

 守れるはずのものを何一つ守ることができないのだ。

 最近、陰で俺のことを『死神』と呼んでるやつが増えたらしい。

 Sランクになって知名度も上がってしまったようだ。

 悪い意味で。

 どうでもいい。

 人から何て呼ばれようと気にもならない。

 『死神』と呼ばれてあいつらが返ってくるなら喜んでその名前を背負おうと思う。

 死にたい。

 なぜハクは俺を生かす?

 俺の近くにいればまた誰かを死に追いやってしまう。

 その点あいつらは賢明だ。

 最近はめっきり顔も見せなくなった。

 早くハクも俺の前から消えてくれないかな。

 そうしたら楽に死ねるのに。

 全てを失った俺はもうこの世界で生きてる意味なんてないんだから。

 死にたい。

 死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい。

 ハクがしつこい。

 いつまで俺を生き地獄にさらすつもりだ。

 次来たら本気で追い返してやろうか。

 どうせ俺の奴隷だ。

 喜んでサンドバッグになってくれるだろう。

 早くハク来ないかな。

 早く殴らせてほしい。

 あいつの顔を見ると毎回ムカついて仕方ない。

 辛い。

 なんであいつを傷つけなきゃいけないんだ。

 どうかしてるぞ本当。



___

__

_



 ある日……


「あの、ご主人様?」

「…………」

「ご主人様にあいたいという方がいて……お連れしてもよろしいでしょうか?」

「…………」

「そうですか?ですがご主人様の名前を知ってるみたいで……」

「…………」

「まあ確かにご主人様は有名になりましたけど……とにかく会ってみてくれませんか?名前を聞いても教えてくれなくて……」

「…………」

「まあ私も少し怪しいとは思ってますけど……あまり悪い人たちじゃなさそうで……断るのも難しいといいますか……」

「…………」

「わかりました。ではお断りしてきますね。」


 数分後、部屋の扉が開かれる。

 入ってくるのはハクともう一人。


「…………」

「あの、ご主人様どうしても断れなくて……すみません。私も近くで見守ってますから。」

「いえ、ハクさんは離れててくれませんか?」


 透き通った声が部屋に届く。


「えっと……私はご主人様をお守りする義務があって……」

「大丈夫よ。”エル”を傷つけるわけないから。」

「………わかりました。ではご主人様をお願いします。」


 そう言って扉が開き、ハクが出ていく。



「エル、壊れちゃったんだって?」

「………」

「ねえエル、あの子すごいね。もう1年近くエルの面倒見てるって言ってたよ?」

「………」

「エル、喋ってくれないと、ちょっと寂しいよ?私だって辛かったんだから。」


 辛いだと?


「………お前なんかよりは辛いさ。」

「やっと喋ってくれた。だいぶ声変わったね。もうエルも大人なんだね。」

「誰だよお前……」

「顔も見てないのに誰って言われるのはちょっと酷いんじゃない?もう忘れられちゃったのかな。確かにミレイヤ王女と仲良くなったって言ってたし、ハクさんもいたら私は見劣りしちゃうかもね。」

「ミレイヤの話はしないでくれ。」

「そんなにミレイヤ王女なの?ちょっと嫉妬しちゃうな。」


 嫉妬だと?


「黙れよ。ミレイヤの代わりなんていねえんだから。」

「ねえ、そろそろこっち向いてくれない?いつまで床見て喋ってるのさ。」

「もう俺に関わらないでくれ。」

「じゃあエルが私を見たらもうエルには話しかけないよ。」

「チッ!見るだけだ…………ぞ…」


 目の前にいる少女、いや、女性は、紺碧の瞳で黄色い髪。

 あの頃と違って耳も尖がってて尻尾や体も大きくなってて……


「ま、マール………なのか……?」

「覚えててくれてた?良かった。エルに忘れられてたらどうしようかと思ってたけど。」

「忘れるわけ……ないだろ……」


 だって、ずっと愛してたから。


「そう?なら良かった。」

「なんで……」

「?」

「なんで……生きてるんだ………?」

「苦労したよ?おかげで腕一本なくなっちゃったし…」

「………」


 よく見ると左腕がない。


「だ、大丈夫なのか…?」

「こうして生きてるんだから大丈夫。それよりエルの方が大丈夫じゃないでしょ。」


 クスクスと艶っぽく笑う。

 あの時と比べて随分と大人になってしまったらしい。

 それに比べて俺は……


「……なあ、他に生きてるやつはいないのか?」

「下に、レイちゃんがいるよ。今のところ生存者は私とレイちゃんだけみたい。」

「マール………レイ………」


 涙が溢れてくる。

 もう、流れないと思ってたのに。

 もう、出し尽くしたと思っていたのに。

 もう、感情なんてなくなったと思ってたのに。


「ほら、私はここにいるよ。左腕だけかもしれないけど、こっちでならエルを支えてあげるからさ。」


 残った右腕を俺の首に回して。


「元気出して?エルに悲しい顔は似合わないよ。」

「あ………ああ……………」


 マールのぬくもりが確かにそこにあった。

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