126. 最悪の知らせ
数週間後……
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……………暇だ。」
「…………………………そうですね。」
魔法も剣もあとはもう実戦で試すだけのような状況になってしまい手持ち無沙汰だ。
ハクも裁縫が一区切りついたようで、俺に道具を求めなくなった。
「なあ、しりとりは……」
「ご主人様が『り』で止まってます。」
「り…………履行報告書って言ったっけ。」
「はい、147手前に聞きました。」
「よく覚えてるなぁ………」
(こいつ記憶力半端ないんだよなぁ……)
「じゃあもう俺の負けでいいわ。次何する?」
「それももう13回聞きましたよ?」
「んじゃあマジカルバナナをやろう。」
「それは私の『ケイ酸カルシウム』というもので止まってますけど、私が理解できなくて止まってますね。」
「「………はあぁぁ。」」
二人が顔を見合わせてため息を吐く。
魔物の一匹でも出てくれればいいものを、なんにも出てこない。
「……………暇だ。」
「…………………………そうですね。」
そうしてまた何度目かの問答を繰り返そうとしていると、ピン!と魔物の気配を読み取る。
「魔物だ!」
「本当ですか!?行きましょう!今すぐ!」
「ああ!」
カエドスに了承も取らずに馬車を止めて走り出す。
西南西約10キロ先に魔狼の群れがいる。
ハクすらも置いていく勢いで到着し、魔狼と対面する。
「グルルルルル…!」
「7匹か……ちょっと少ないな……」
この程度ならすぐ暇つぶしも終わってしまう。
そう思っていると、
「オオオオオォォォォン!!」
と遠吠えをしてくれる。
1匹2匹3匹とどんどんと増えていく魔狼を見て、口角が上がって行く。
「はぁ……はあ……ご主人様……速すぎます……」
「遅いぞ?待ちくたびれた。」
「すみません……」
「さ、暇つぶしの開戦だ。」
俺とハクは思い思いの方法で魔狼を壊していく。
「この毒は意外と遅効性なんですね……」
「おらおらおらおらぁ!!俺の剣の栄養になれよ!」
どれくらい倒しただろうか。
原型の残ってるものからそうでないものまで何十匹の死骸の山が出来上がった。
「運動っていいな。」
「そうですね!」
魔物の死骸を燃やして馬車に戻る。
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「エールーラールードー?」
「どうした?カエドス。」
馬車に戻ってくると、何故かカエドスがピリピリしていた。
「お前な!かってに馬車止めてどっか行くなよ!馬が逃げたりしたらどうするつもりなんだよ!」
「そんときはそんときだ。」
「はぁぁ……とりあえず!次は俺に言ってからどこかに行くこと!お前らのせいで進むのが遅れるんだぞ!」
「暇なんだからしょうがないだろ?」
「俺らだってやること無いなりに我慢してるんだから!お前も少しは我慢しろ!」
「あんまイライラしてると禿げるぞ?」
糖分足りてないんじゃないか?
「そんな安い挑発には乗らないね!俺はお前と違って大人だからな!」
なぜか胸を張ってどや顔で告げる。
「ちなみにカエドスさんは何して暇つぶしてるんですか?」
「1からどれだけ数えれるかやってるぞ?今は5140014まで数えてた。」
「あ、そうなんですね。」
それはもう最終手段だよな……
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そうして長い長い旅路も終わり、ようやくメルド国にたどり着いた。
「やっと着きましたね!」
「ああ、懐かしいな。」
あの頃とあんまり見た目も変わってない。
「とりあえずギルド行くぞ!今回のことを報告しなきゃいけないからな!」
そうしてギルドに向かい、カエドスは天神峰の古龍に苦戦したから遅くなったとうまくごまかしていた。
「ミレイヤはまだ学校なのかな?」
「どうなんでしょう……」
そうしてふと、なんとなく掲示板の方に目を向けると、信じられないものが書かれていた。
『号外!ユーグリル家滅亡!!』
「…………は?」
(ユーグリル家滅亡?何言って……)
掲示板に近づいて注意深く見てみると、以下のことが書かれていた。
『メルド魔法学校所属のユーグリル家長女ミレイヤ=ユーグリル、メルド魔法学校研究員ユーグリル家長男エレン=ユーグリル、同じくメルド魔法学校研究員のユーグリル家次男トーマス=ユーグリルの死亡を確認。死因はどれも毒殺とみられており、犯人はいまだ不明。また、ユーグリル王国は帝都に侵略された模様で、ユーグリル王の公開処刑が行われた。近隣の村も含めて壊滅状態であり、生存者は未だ0名。ユーグリル御子息は、帝都の人間に暗殺された可能性が高いとして、魔力の痕跡などを現在調査中。』
「………意味が……わからない……」
「ご主人様……これは……」
(ミレイヤが死んだ?あいつが?なぜ?毒殺?帝都?)
あまりにも突拍子過ぎて脳が理解を拒んでいる。
「ご主人様……もう一人の婚約者って……」
そこでハッとなる。
(近隣の村もって……まさかアッシュ村……?………ミレイヤだけじゃない?マールも?レイも?母さんも?父さんも?セティアも?みんな死んだのか?)
もう怒りも出てこず、ただ立ち尽くすしかない。
「これは……事実なのか……?」
何かの間違いであってくれなきゃ精神がもたない。
「そんな………」
ハクも呆然としている。
そのあとどう宿に入ったのか覚えていない。