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時は流れるままに 31

「あーあ。潰されちゃった」 

 東都都心部。その中央にある同盟本部合同庁舎司法局局長室。嵯峨惟基大佐は目の前の画面が砂嵐に覆われると静かに伸びをした。入り口からついたてを隔てて設けられた応接ソファーに座った嵯峨、隣には彼の娘で同盟司法局の法術関連の調査を専門とする法術特捜の主席捜査官、嵯峨茜軽視正が苦笑いを浮かべていた。

「相変わらずね。部下で遊ぶのも大概にしておいたほうが良いわよ。そのうち痛い目を見ることになるんだから」 

 ソファーには座らず嵯峨の隣に立っている東都警察に似た紺色の勤務服姿の妖艶な女性、同盟司法局機動隊、隊長安城秀美少佐は呆れたように嵯峨を見下ろしながら薄笑いを浮かべていた。彼女の立っている隣のソファーには現在は各部局との調整を担当している明石清海中佐がその言葉に大きく頷いていた。

「正直、今年の上からの指示での配置換えですが、うまくいっているみたいですね。安心しましたよ」 

 その言葉に嵯峨達は局長の執務机に座って頬杖を付いている同盟司法局局長、魚住雅吉大佐を仰ぎ見た。

「まあお前さんの同盟機構軍移籍までは、出来るだけ大事は起こしたくねえのが本音だからな」 

「それはそれはお気遣いありがとうございます」 

 親しげな嵯峨の言葉に大げさに反応する魚住。そして彼はそのまま立ち上がるとソファーを囲む嵯峨達の中に加わった。

「実際あれほど特殊な隊員で構成された実力行使部隊。期待はされるのは当然としてとりあえず私の任期の間にはことも無く終わってくれると良いんですが……」 

「正直なのはええけど、正直心配やな。その調子でしゃべっとったらいつか足元すくわれるで」 

 渋い表情がサングラス越しに見える明石。かつては『官派の乱』で『播州四天王』と呼ばれた盟友の軽口に思わず忠告してしまう。

「良いじゃないの。タコ。正直なのは美徳だよ。何しろ信用ができるからな」 

 そう言うとポケットから禁煙パイプを取り出した嵯峨。そのまま口にくわえて周りを見回す。

「そうね、だから嵯峨さんは信用が無い」 

「ひどいなあ、秀美さん。それじゃあまるで俺が嘘ばかりついているみたいじゃないですか」 

「お父様。事実を曲げるのは良くないことですわよ」 

 安城と娘に言い寄られて苦笑いを浮かべる嵯峨。そしてその時ドアが開かれた。

「失礼しますわ」 

 甲高い声が響く。そして嵯峨親子の表情が曇る。腰までも長い黒髪を伸ばし、優雅な足取りで司法局の幹部が集まった応接セットに近づいてくる女性士官。

「まもなく昼食会の時間になりますので、皆さんはお帰りいただけませんかしら?」 

 自信にあふれた鋭い眼光。そして何より何もしていないのに高圧的な感じを見るものに与える表情と物腰。

 筆頭の西園寺家をはじめ、大河内家、嵯峨家、烏丸家。胡州四大公家の当主と次期当主がすべて女性になると言うのは前代未聞のことだった。そしてその次席の大公家の大河内家の当主がこの司法局局長秘書室長である大河内麗子少佐だった。

 軍の階級から考えれば彼女などが司法局局長秘書官の地位にいるのはおかしな話だが、胡州建国以来、常に軍の中枢を占めてきた武の名家『大河内』の看板を背負った彼女を司法局に引き取ったのは嵯峨だった。胡州陸軍大学に高等予科学校から直接入学した嵯峨依頼の才女というところは嵯峨も同じ流れで軍に入っただけに態度が大きすぎてトラブルメーカーになっているという苦情の絶えない彼女を受け入れる先は嵯峨の顔の効くところしかなかった。

「皆さん!局長殿はお忙しいのです!つまらない雑談で公務に差し支えたら……」 

「わかった!だから黙ってくれよ」 

 仕方がないというように返事をしてそのまま部屋の隅の洋服掛に下がっていたコートに向かう魚住。

「それでは局長殿。車止めでお待ちしておりますわ」 

 そう言うと嵯峨達を見下ろすように一瞥して出て行く麗子。

「あれ……まあなんというかなあ……今回の移籍での一番の幸せは大河内から解放されることですよ」 

 苦笑いを浮かべる魚住を嵯峨親子、安城、明石は同情のまなざしで見つめることしか出来なかった。

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