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時は流れるままに 25

 師走の町。どこでもそうだがこの東都浅草寺界隈も特に赤い色が街を包んでいた。

 東都のクリスマスは乾いた冬の寒空の下にあった。その下町の商店街を歩いてみれば、どこか忙しげに歩く人にせかされるように歩みが速くなるのを、誠は感じていた。

 そればかりではなく誠には周りの男性陣からの痛い視線が突き立っていた。

 豊川ではいつものことだが、要とアイシャが妙な緊張関係を保ちながら歩いている。二人とも黙っているのは地元で何度か恥ずかしい目にあったからと言うのがその理由だった。

 お互いに冷やかしあっているうちに、周りを忘れて怒鳴りあいになって、人だかりに取り残される。そう言う失敗を繰り返して少しばかり学習していた二人。そしてそうなると、いつの間にか野次馬の中にカウラに手を引かれた誠がいたりするのだから、二人とも黙って一定の距離を保って歩くのはいつものことだった。

 東都浅草寺の門前町で客の数が豊川駅前商店街の比ではないアーケード街で恥をかく必要も無い。誠はそんな二人をちらちらと横に見ながら先頭をうれしそうに歩く母に付き従った。

「よう!誠君じゃないか!」 

 そう声をかけてきた八百屋のおやじだった。誠は頭を掻きながら立ち止まる。名前は忘れたが高校時代の野球部の先輩の実家だったことが思い出される。

「薫さんも今日もおきれいで」 

「本当にお上手なんだから!」 

 薫はニコニコしながら八百屋の前で立ち止まる。

「この人達、美人でしょ?なんでも誠の上司の方たちなんですって。凄いわよねえ」 

 確かにエメラルドグリーンのポニーテールのカウラと紺色の長い髪をなびかせているアイシャは明らかに人目を引く姿だった。確かに二人に比べれば黒いおかっぱ頭のような要は目立たなかったが、その上品そうなタレ目の色気に通行人の何割かが振り返るような有様だった。

「えーと、誠君は陸軍だっけ?海軍だっけ?」 

「保安隊です」 

 たずねられたのでつい答えてしまった誠。そのとたんにおやじの顔が渋い面に変わった。

「ああ、この前官庁街で銃撃戦やった……」 

 予想はしていた答えである。任務上、出動は常に被害を最小限に抑える為の行動ばかりである司法実力機関の宿命とはいえ、同情するようなおやじの視線には誠も少し参っていた。そんな男達を無視するように店頭に並ぶ品物を眺めている母。

「白菜……ちょっと高いんじゃないの?」 

 そう言いながらみずみずしい色をたたえている白菜を手に取る薫。思わず苦笑いをしながらおやじは講釈を始めた。

「薫さん今年はどこも雨不足でねえ……量が少ないんですよ。でも太陽は一杯ですから。味のほうは保障しますよ」 

 薫は手にした白菜を誠の隣で珍しそうに店内を眺めていたカウラに手渡した。寮ではほとんど料理を任されることの無いカウラはおっかなびっくり白菜を受け取ってじっと眺める。

「ああ、お姉さんの髪は染めたんじゃないんだねえ……素敵な色で」 

「ああ、ありがとう」 

 人造人間と出会うことなどほとんど無い東和の市民らしく、見慣れない緑色の髪の女性に戸惑うおやじ。それを見ると対抗するように後ろから出てきたアイシャがカウラから白菜を奪い取る。

「おじさん。これいくらかしら?」 

 そう言うアイシャのわき腹を肘で突いた要が白菜の置かれていた山の前にある値札を指差す。一瞬はっとするものの、開き直ったように得意の流し目でおやじを見つめるアイシャ。

「お姉さんもきれいな髪の色で……青?」 

 ピクリとアイシャの米神が動くのを誠は見逃さなかった。

「紺色、濃紺。綺麗でしょ?」 

「色目使ってまけさせようってか?品がねえなあ」 

 そう言って要が笑う。だがまるで無視するように、カウラと同じくほとんど野菜などに手を触れたことがないと言うのに切り口などを丹念に見つめているアイシャがそこにいた。

「まあねえ、まけたいのは山々だけど……」 

 おやじがためらっているのは店の奥のおかみさんの視線が気になるからだろう。あきらめたアイシャは手にした白菜を薫に返した。

「じゃあ、にんじんとジャガイモ。皆さんどちらも大丈夫?」 

「好き嫌いは無いのがとりえですから」 

 カウラの言葉に大きく頷くアイシャ。だが、要の表情は冴えない。

「ああ、要さんはにんじん嫌いだっけ?」 

「ピーマンだ!にんじんなら食える」 

「ならいいじゃないの」 

 いつものようにアイシャにからかわれてむくれる要。そんな二人のやり取りを見て笑いながらおやじはジャガイモとにんじんを袋につめる。

「じゃあ、おまけでこれ。いつもお世話になってるんで」 

 奥から出てきたおかみさんが瓶をおやじに手渡す。仕方がないというようにおやじは袋にそれを入れた。

「今年漬けたラッキョウがようやくおいしくなって。うちじゃあ二人で食べるには多すぎるから」 

 誠はこうして比べてみるといつも自分の母が異常に若いことに気がつかされる。いつもすっぴんで化粧をすることが珍しい薫だが、ファンデーションを塗りたくったおかみさんよりもかなり整った肌をしていることがすぐにわかる。

「良いんですか?いつも、ありがとうございます」 

 薫がそう言って笑うのに微笑むおやじをおかみさんが小突いた。たぶんおやじも誠と同じことを考えていたのだろう。それを思うとつい噴出してしまいたくなる誠。

「毎度あり!」 

 あきらめたようにそう叫んだおやじに微笑を残して薫は八百屋を後にする。

「でも……お母さん、何を作るのですか?」 

「薫さんはオメエのお袋じゃねえだろ?」 

「良いじゃないの!」 

 揉める二人に立ち止まって振り返る薫。彼女は笑顔でまず手にしたにんじんの袋をアイシャに手渡す。

「まずこれはスティック状に切って野菜スティックにするの。昨日、お隣さんからセロリと大根もらってるからそれも同じ形に切ってもろ味を付けて食べるのよ」 

 その言葉に思わず要が口に手を当てた。誠ははっと気がついてうれしそうな母親と要を見比べる。要の額には義体の代謝機能が発動して脂汗がにじんでいた。

「そうか、西園寺はセロリも苦手だったな」 

 要の反応を楽しむようにカウラが笑顔で薫に説明した。

 その様子を不機嫌に見ていた要。だが次の瞬間に誠達の腕につけていた携帯端末が着信を告げた。

「事件?」 

 そう言ってカウラは端末の画面を覗いた。誠もアイシャも同じ動作をする。

「通り魔か。小門町で三人が刃物で切りつけられ、一人が死亡か。犯人と思われる男はそのまま浅間通りを北に向かった……このままだとこっちに来るな」 

 情報が脳に直結しているサイボーグである要の言葉。誠も覗き見た端末でそれを確認する。そして同時の刃物での犯罪と言うことでこのところ東都で連続している辻斬り事件を不意に思い出した。

「西園寺、神前。とりあえず情報の確認に向かうぞ。薫さん、ちょっと仕事が入りましたので」 

 そう言ってカウラは敬礼し、急ぎ足で端末の示す交番へと歩き始めた。要は荷物をアイシャに押し付けてそのまま歩き出す。

「辻斬りとは違う犯人だろうな。あいつの手口はすべて一太刀で被害者が事切れてる。それに日中から複数の標的を狙ったケースは一件も無いしな」 

「決め付けるな。これまでとは状況が違うケースが起きたとも考えられる。とりあえず本部が私達に連絡をしてくるってことは、それなりの関連性が疑われていると言うことだ」 

 そう言うとカウラは走り始めた。要は後に続く誠に笑いかけた後、サイボーグらしい瞬発力で一気に加速してアーケードの出口を飛び出していく。走る三人に周りの買い物客は奇妙なものを見るような視線で誠達を眺めていた。

 アーケードを出てすぐにパトカーが停まっている交番があった。二人の警察官が通信端末でのやり取りを立ったまましながらカウラと誠を迎える。カウラはポケットから身分証を取り出した。猜疑心に満ちた二人の目が瞬時に畏敬の念に変わる。

「これは……お疲れ様です!」 

 誠と同い年くらいの巡査がそう言うと敬礼した。すぐに中に入るとすでに据え置き型の通信端末の前には要が座り込んで首筋のスロットから伸ばしたコードを端末のジャックに差し込んでいるところだった。

「やっぱり例の辻斬り侍とは別の犯人だな。凶器は山刀。被害者の傷は切ったというより殴ったものが細かったからめり込んだような状態だ。死亡した女性は頭部を殴られたことで頭蓋骨を割られたのが致命傷になったらしい」 

 情報を次々と吸い取りながら要がカウラに告げる。

「法術系の反応は?」 

「そんなにすぐ情報が集まるかよ!今のところはこの前行ったデパートあるだろ?入り口で凶器を捨てた犯人がそのまま紛れ込んだらしい……やっかいだな」 

 そう言って要は頭を掻いて伸びをした。モニターには次々とデパートの監視カメラのデータが映っている。

「犯人を特定できる画像は?」 

「カウラ……急かすなよ!いま探してるところだ」 

 そう言うと要は目をつぶり、直接端末から脳に流れ込んでいる画像の検索を始めた。

「前科は無いみたいだな、ちょっと時間がかかるぞ」 

 要はすばやく首筋のスロットに差し込んでいたコードを抜いて立ち上がる。不思議に思う誠だが、要はそのまま交番を出る。誠のあっけにとられた表情に要が笑いかける。

「とりあえず現場に行くか」 

「ああ、そうだな。君達、これを借りるぞ。緊急措置だ」 

 そう言ってカウラはパトカーの天井を叩く。一瞬あっけにとられた警察官は顔を見合わせた後、すぐにキーをカウラに渡した。

「おい!神前。置いてくぞ!」 

 要の声に状況が理解できないまま誠はパトカーの後部座席に乗り込んだ。

 運転席に着いたカウラは慣れた手つきで手早くシートベルトを締める。助手席の要も苦い顔をしながらそれに習った。

「じゃあ、行くからな」 

 すぐにカウラはエンジンを吹かして、急加速で国道に飛び出した。

「そんなに急ぐ必要もねえだろ?浅間マルヨは……見えてるじゃん」 

 要の言葉通り通り魔が逃げ込んだ百貨店の屋上の広告塔が雑居ビルの向こうに見えている。まだ犯行直後と言うことで、非常線も交通整理もできていない状況。赤いパトランプを点灯させるとそれを見た対向車は道の両端に避ける。それを見ながらカウラはパトカーを疾走させる。対向車線にはみ出しながらいつもの自分のスポーツカーよりもアクセルを吹かし気味に走り続ける。

「西園寺!何かわかったか?」 

「そんなにすぐ情報が集まるわけ無いだろ?まあ、法術反応は無いそうだが……まあ茜の把握しているデータには犯人の情報は無いな」 

 前科が無い上に三ヶ月前に東和国民に行われた法術適正検査でも目立つデータを示さなかったことがわかる。そして渋い表情の要がパトカーのダッシュボードを開ける。

「糞ったれ!バックアップの銃くらい入れて置けよ!」 

 何も無いダッシュボードを思い切り叩きつけるように要が閉める。

「無茶を言うな。銃撃戦が仕事の私達とは職域が違うんだ!」 

 舌打ちする要にそう言うとカウラは思い切りハンドルを切る。交差点でドリフトしてさらに加速して並んでいるタクシーをよけて疾走するパトカー。駅前の遊歩道が見え始めた。すでに所轄の警官が到着して手にした無線機に何かを叫んでいる有様が見えた。

 カウラは白と黒のツートンカラーの警察のワンボックスの後ろで車を止める。

「……君達は?」 

 眉に白いものが混じる警部補が面倒にぶち当たったと言うような顔で、降り立った私服の誠達を迎える。すぐに身分証を見せた。

「保安隊……」 

 あからさまに嫌な顔をする所轄の責任者。デパートの方に目を向ければ、パニックを起こしているデパートから流れ出す人々を抑えるのに彼の部下は一杯一杯の状態だった。

「あと少しで機動隊が到着します。それに……」 

 関わりたくないと言う本音が丸見えの警部補につかつかと近づく要。

「あの……何か……?」 

 そう言う警部補の腰から拳銃を引き抜いた要。そして彼女は警部補の小型オート拳銃の弾倉とベルトをつないでいた紐を引きちぎった。そして当然のように隣に立つカウラに手渡す。

「君!なんのつもりだ!」 

「使うつもりじゃないんでしょ?じゃあ必要な人間に渡すのが理の当然じゃねえの?そこのアンちゃん達!銃貸せ!」 

 ワンボックスの中で通信機器をいじっていた警察官に声をかける要。その独特の威圧感からうち二人の警察官が自分の銃をホルスターから抜いて要に手渡した。

「何をしようというんですか!まだ犯人は……」 

 叫ぶ警部補の肩を叩く要。

「安心しろ。こういうことはアタシ等の職域だ」 

 そう言うと要はすぐにオート拳銃のスライドを引いて弾をこめる。カウラも同じようにスライドを引く。誠に渡されたのは回転式拳銃だったのでそのままシリンダーを開いて八発の弾が装弾されていることを確認した。

 誠達はまずデパートの入り口に群がる野次馬の後ろに立った。手にした拳銃を見て自然と道ができ、そのまま避難してくる買い物客や従業員を整理している警官隊の後ろにたどり着いた。

「君達……保安隊ですか」 

 一瞬の驚きの後またも嫌なものを見たという顔で警官がカウラの差し出した身分証を覗き見ている。

「状況は?」 

 早速端末を設置して中の防犯用モニターの情報を収集している女性警察官の見ていた画面を覗き見る要。

「現在犯人は拳銃のようなものを振りかざして8階のレストランに立てこもっています。人質は二名。そのレストランのアルバイトの店員が……」 

「わかった」 

 女性警察官の言葉を打ち切った要。すでに彼女はデパートの防犯システムとリンクを済ませたのだろう。そのまま手に拳銃を持ったままデパートの入り口に向かう。

 逃げてきた車椅子の老人や子供達の視線を浴びながら堂々と拳銃を持って歩き出す要。

「05式けん銃。サイトがねえ……見にくいんだよなこれ」 

 そう言いながら車椅子を押している警察官の敬礼を受けながら要は進む。

「どうだ、状況に変化はあるか?」 

 カウラの一言に要は首を振った。

「モニターで見る限りど素人だな。自分の銃にビビッて今にもションベンちびりかねねえぞ」 

 司法実働部隊という看板を掲げている保安隊の一員である誠も銃を持った素人の怖さは知っていた。自分で起こした事件で勝手にパニックになる傾向が高い。そうなればむやみと発砲して人質を傷つけることにもなりかねない。

 そして誠も慣れない八連発リボルバーに当惑していた。

 銃が軽かった。おそらくシリンダーとバレル以外は軽合金で作られている。銃が苦手な誠でも手に持った時の軽さですぐわかる。しかも先ほど装弾を確認したときに雷管の周りには『357マグナム』の刻印があった。基本的に重いオート拳銃での射撃しかしたことが無い誠には、手の銃が邪魔で仕方がなかった。

 階段で避難してくる客達をかき分けてエレベータにたどり着く。

「犯人の拳銃。モデルガンじゃないのか?」 

 上に上がるボタンを押したカウラに要が頷く。

「それは無いな。カメラの画像を解析してみたが仕上げからすると密造品だ。おそらくベルルカンの鍛冶屋で作った一品だろうな。命中精度はともかく頑丈で確実に動くのがとりえの手製拳銃。さすがガバメントモデルと言うところか?」 

 開いた扉に乗り込む誠達。二人の上司の余裕を不思議に思いながら誠はしまる扉を見つめていた。

 エレベータが減速を始める。その時の重力の感覚が誠は気に入っていた。そんな誠をカウラは厳しい表情で見上げる。

「誠。お前はバックアップだ。西園寺はそのまま犯人の視線を引くように動け」 

「OK!人質は任せた」 

 要はそう言うと拳銃のハンマーを起こした。カチリと05式けん銃のハンマーが引き金の部品にロックされた音がしたのとドアが開いたのが同時だった。

 まず飛び出したのは要だった。そのまま目の前のイタリア料理の店の大きな窓をかすめるようにして走っていく。

 一方、カウラは静かに銃を両手で握り締めながら反対側のすし屋の前を進む。ハンドサインで誠に静かに前進するように指示を出すカウラ。誠もなれないリボルバーをちらちらと見ながら彼女に続いて滑りやすいデパートの食堂街の廊下を進む。

「奥の肉料理のレストランでウェイトレスが二名拘束されているわけだ。まず要が……」 

 そう言いかけた所で銃声が一発。

「あの馬鹿!」 

 カウラはそのまま犯人が立てこもっているレストランに走る。震えながら抱き合っている二人のアルバイト店員の前で頭を掻いている要。

「痛てえ!血が!血が!」 

 レストランの前で右腕から血を流してうめいている男。確かにそれが犯人だった。

「馬鹿か!貴様は……ちゃんと私達が到着するまでなんで待てない!」 

 大声で怒鳴るカウラ。その剣幕に人質にされていた二人の女性アルバイト店員が一斉にすすり泣き始める。誠がそのまま人質に近づくと、緊張感の糸が切れたと言うように銃を手にした誠に抱きつくアルバイト学生。

「大丈夫ですか?もう安全です……要さん……」 

 二人にしがみつかれながら誠は犯人の拳銃を手にとって笑っている要を見つめた。だが、時折誠をちらちら見つめる視線にはどこと無く殺気のようなものが漂っていた。

「大丈夫ですから!もう終わりましたから!」 

 少女達の頭をなでる誠。そこでさらに黙って慣れない借り物の銃の安全装置をチェックしているカウラも厳しい視線を誠に向けてきていることに気づいた。そんなカウラの表情に気づいた要は満足げに犯人から奪った拳銃をかざして見せる。

「馬鹿扱いするけどな。この状態で人質に銃口向けてたんだぜ?普通なら撃つだろ」 

 そう言って銃をカウラに手渡す要。銃の後ろを見るとハンマーが下りた状態だった。ガバメントモデル。1911とも呼ばれるこの銃は、シングルアクション。ハンマーが下りた状態ではいくら引き金を引いても弾が出ることは無い。胸を撫で下ろす誠だが、カウラはそうは行かなかった。

「もし貴様が撃った弾が反れたらどうするつもりだ?いつものXDとは違うんだぞ」 

「05式の弾道はすべて頭の中にあるからな。まず外さねえよ」 

 そう言うと誠にまとわり付いている二人のアルバイトに手を伸ばす要。

「怖かったのか?もう安心だ」 

 手を差し伸べてくる要を見るとなぜか二人とも要にしがみついて泣き始めた。楓をはじめ要は同性をひきつけるフェロモンでも出ているんじゃないだろうか。誠は要にしがみつく二人の少女を見てそう思いながら手にした銃の置き場に困っていた。

 それを見て大きく息を付いた後、カウラは銃口を通り魔の男に向ける。男はまだ腕を押さえたままで痛みに顔をゆがませながら倒れこんでいた。

「それでは……」 

 カウラが男を組み敷こうとした瞬間。誠の体はカウラと男を突き飛ばしていた。それはまるで威圧感のようだった。法術師としての直感が誠を突き動かしてそんな行動をとらせていた。

 男が倒れていた廊下の床が白くきらめく刃物で切り裂かれる。その床材と金属のこすれる音を感じてカウラが振り返った。

「何をする!神前!」 

 振り返った先にできた刀傷のようなものを見て、カウラの目は驚きから状況を分析しようとする指揮官のものへと変わる。

「神前!法術の反応は!」 

 要の言葉で誠は精神を集中する。そしてその時いくつかの思念が遠ざかりつつあるのを感じた。先ほどまでまるで何も感じなかった自分。それを後悔しつつ些細な感覚も取りこぼさないようにと意識を集中した。

 先ほどの何者かの物理的攻撃を察知はできたが、その干渉空間を生み出す波動はすでに消えていた。そしてただ、痛みに痙攣する通り魔の恐怖だけが誠の脳にこびりついて離れない。

「とりあえず……今は、特には……」 

 誠はそれしか言うことができなかった。顔を見合わせるカウラと要。そして床に突然できた傷に驚いて泣き止んでいた少女達が要にまとわりついてまたすすり泣き始めた。

「おい、カウラ。まだ下の連中は来ねえのか?」 

「はい来ました」 

 突然の声。要の後ろに立っていたのは手に野菜の袋を抱えたアイシャだった。

「やっぱりジゴロよねえ、要ちゃんは」 

 二人の少女に抱きつかれている要をじろじろと見る。アイシャの後ろに立っていた女性警察官が毛布で二人をくるみ、彼女達がゆっくりと立ち上がるまで要は少女に抱きつかれながらアイシャに対する怒りでこめかみをひくつかせていた。

「なんでテメエがここにいる?」 

 そう尋ねる要に自分の身分証を見せるアイシャ。そして左手の指で身分証の右肩を指し階級の表示を誇示してみせる。

「まあ階級が高いといろいろと便利なの。要ちゃんも兵隊さんなんだからわかるでしょ?」 

 満足げに笑うアイシャに明らかに食って掛かりそうな要。

「協力感謝しますが……とりあえず銃を」 

 そう機動隊の制服の警部補に言われて要は銃を手渡す。カウラが組み敷こうとしていた犯人はすでに機動隊員が取り押さえていた。出血がひどいらしく、両脇を隊員が抱えながら連行されていく。

「神前。あれはなんだったんだ?」 

 落ち着いたと言う表情の誠を見つけたカウラに尋ねられて誠は神妙な顔で彼女を見つめ返した。

「わかりませんよ……ともかく急に来ましたから。監視カメラとかからこの状況を外部から見ている法術師がいれば干渉空間を一瞬だけ展開してあの犯人の殺害をすることができるだろうとは思いますが……なんでそんなことをするのか……」 

「そうなるとあの通り魔実行犯の取調べには茜さんに手を貸してもらわなければならないかな」 

 カウラの言葉に頷く誠。

「法術特捜。早速のお仕事か……まあ茜なら大丈夫か」 

 要とカウラはそう言うとそのまま彼女達の周りに現れた鑑識の捜査官達に現場を任せてちらちらと二人を見ながら付いて来いと言うような表情の先ほどの警部補のところに向かう。

「私は無視?」 

「まあ良いじゃないですか。行きましょうよ」 

 カウラと要に無視されたアイシャは肩を落としながらそう言う誠についていくことにした。

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