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第2話 ご冗談を……!

 そのまま、私は小さなセヴェリ様を連れて応接室へと向かった。


「ユスティーナちゃん、よく来たね。――ああ、セヴェリにはもう会ったのか」


 エルヴァスティ公爵閣下は私の隣に居る少年を見て、間違いなくセヴェリ様だと言ったのだ。さすがに天井を仰いだ。


 そして耳を疑いたくなるような話を聞かされて――現在に至る。


「ユスティーナお姉様、絵本を読んでいただけますか?」


 セヴェリ様は小さな手で絵本を抱えてやって来た。


 子どものセヴェリ様は人懐っこく、子ガモのように私の後をついて来るし、「お姉様、お姉様」と呼んでは嬉しそうに話し掛けてくれる。


 控えめに言っても天使。

 早くも、子どものセヴェリ様の虜になってしまった。


「いいですよ。セヴェリ様はこの絵本が好きですね」


 セヴェリ様が好きな絵本には、この国に古くから伝わる話が書かれている。


 ペリウィンクル王国にはドラゴンが生息している。


 そのドラゴンたちを率いる長の白いドラゴンに出会い彼に認められれば、夢を叶えてくれるのだという。


「セヴェリ様は白いドラゴンに何をお願いするのですか?」

「僕は早く大人にしてくださいってお願いします」

「あら、どうして?」

「だって、大人になってユスティーナお姉様を守りたいから」

「セヴェリ様……!」


 今、間違いなく、天使が放った矢が心臓を貫いた。


 小さなセヴェリ様はやっぱり、天使だ。


 こんなにも可愛いセヴェリ様が、どうして大人になったらあんなにも無口で不愛想になるのかわからない。


「それにね、僕……ユスティーナお姉様と結婚したいから」

「まぁ……! 子どものセヴェリ様は何度も求婚してくれるのですね。嬉しい」


 と、そんな冗談を言っていると、どこからともなくエルヴァスティ公爵閣下が現れる。


「ユスティーナちゃん! セヴェリが大人になるまで……五年、いや十年かかるかもしれないが、待っていてくれないか?!」

「ええっ?!」


 ご、ご冗談を。


 セヴェリ様がひと月ほどで戻るのならまだしも、五年も十年も待っていられない。


 第一、セヴェリ様自身が、自分よりもうんと年の離れた私と結婚するなんて望まないだろう。


 そう思っていたのに――。


「ユスティーナお姉様、早く大人になるから待っていてね」

「うっ……」


 純粋無垢な眼差しで期待を込めて見つめられると、否とは言えない。


 エルヴァスティ公爵閣下と、そして子どものセヴェリ様が、二人して目を潤ませて訴えかけてくる。


「え、ええ。セヴェリ様が大人に戻るよう協力しますし……その、……待っています」

「ユスティーナちゃん! ありがとう!」


 エルヴァスティ公爵閣下は、どうして私とセヴェリ様の結婚に拘るのだろうか。


 普段は威厳のある人が、今や私の一挙一動にはらはらとしているし、セヴェリ様との婚約を破棄しないと告げれば、涙を流して喜んでいる。


「ユスティーナお姉様、大好き!」

「あ、ありが……とう」


 セヴェリ様の顔がそっと近づき、私の頬にちゅっとキスをする。


 大人のセヴェリ様にしてもらったことは、もちろんない。


 初めてのキスだ。


 驚く私に、セヴェリ様ははにかんだ笑みを向けてくれる。

 

 やはりこの子は、セヴェリ様ではない、気がする。


 そろそろ、「実はドッキリでした~!」と言ってセヴェリ様が現れてもおかしくない。

 セヴェリ様はそのようなことをする性格ではないのだけれど。


「一体、どうなっているのかしら?」


 ただただ困惑する私に、子どものセヴェリ様はお返しのキスを強請るのだった。

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