5,実は異世界でした
月一更新はちょい遅すぎるかな?
もうちょい頑張ります。
今の一瞬の間に起きたことを説明しよう。
オオカミの牙が届く直前、俺は上へ跳躍。そのままオオカミの頭上に行き、猫パンチ。
ただそれだけだ。ただ、それだけのことで、このオオカミはつぶれたトマトみたいに、顔の至る所から血を吹き出して死んだ。
オオカミより速く動くのも、オオカミよりも高くに飛ぶのも、猫であるのならばできたかもしれない。だが、その頭を叩き潰すなんてことは絶対にできやしない。それも、全力で殴ったわけではなくて虫でも払うこのような軽い力ではたいただけだ。
そんなことができるのは、猫うんぬんの前に生物としておかしいだろう。
そもそも、前世の記憶があって、人語を話せる時点で普通じゃなかったな。
こんなのもう、ただの魔物じゃないか。
いや、それを言うならこのオオカミだってそうだろう。こんなでかさのオオカミなんているわけがない。
不意に周囲が明るくなる。どうやら雲が空を覆っていたようで、それが晴れて月明かりが出てきたらしい。
光につられて上を見上げた瞬間、俺は目を疑った。
夜空には煌々と輝く月があった。それも二つ。片方は少しの陰りもない赤い満月。もう一つはほとんどの部分が欠けた青い三日月だった。
今までも違和感自体はあった。
だが、明確な理由がなかった。
でも、これではっきりした。
どうやら俺は、異世界で生まれ落ちたらしい。
このままじゃだめだ。いつまでもこうして呆けてはいられない。
異世界転生なんて馬鹿げているとは思うが、これはもう紛れもない事実だ。今更覆ることはないのだから切り替えるべきだ。
そう自分に言い聞かせて気を落ち着かせる。
血の匂いに釣られてほかの獣が寄ってくるかもしれない。今みたいに倒せるかもしれないが、あまり戦いたくはない。
亡骸の上から飛び降りて振り返り、地に付してなお大きく感じるそれを見上げる。
襲われたとはいえ、その命を無為に奪ってしまった。食うわけにもいかない、というよりは抵抗がある。食らいつけばきっと、身も心も獣になってしまう。そんな気がしたから、今の俺にはこの亡骸はどうすることもできない。このまま朽ち果てるか、ほかの獣に食われるかだろう。
申し訳なく思うが、今はただ静かに黙祷だけを捧げる。
「……よし、行くか」
とりあえず、さっきまで進んでた方向にまた歩き続けることにしよう。
きっとどこかしらにはたどり着くだろう。
そうだ、せっかくなんだからこの世界を気ままに旅でもしてみようか。
亡骸に背を向け、俺は再び歩きだした。
腹の底で燻る衝動に目を背けながら……。
精神と〇の部屋が欲しい